元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アメリカン・ハート」

2017-02-27 06:25:00 | 映画の感想(あ行)

 (原題:AMERICAN HEART)92年作品。派手さは無く、淡々とした筆致ながら、観る者に切ない感慨をもたらす佳作だと思う。父と子の情愛を濃密かつ的確にとらえている作者のスタンスが印象的で、シンプルな筋立てをそれなりに引き立てている。

 仮釈放で刑務所を出たジャックを迎えに来たのは、15歳になる息子のニックだった。甲斐性の無い自らの境遇に負い目を感じているジャックは息子を追い返そうとするが、ニックは離れようとしない。シアトルに着いた父子は新しい生活を始める。ジャックは受刑中に「アメリカン・ハート」という文通雑誌で知り合ったシャーロットと会う機会を得るが、互いに惹かれるものを感じる。だが、ジャックの昔の仲間レイニーが何かと父子にちょっかいを出してくる。やがてジャックと仲違いしたニックはレイニーの悪事を手伝うまでになるが、重大なトラブルに見舞われて逃げ出すハメになる。

 監督のマーティン・ベルは86年に「子供たちをよろしく」というドキュメンタリー作品を手掛けており、少年達の描写には抜かりが無い。ジャックは何をやってもダメなくたびれた中年男だが、ニックはそんな父親を心から愛している。父親の持つ見果てぬ夢や挫折に対して理解を示し、ずっと付き合っていこうと決めている息子。この関係性には泣かされた。またニックが行動を共にする、幸薄いストリート・キッズたちの扱いも丁寧だ。昔ジャックとつるんでいたレイニーの出現でストーリーはだいたい予想が付くが、それでも飽きさせずに見せるのは余計なケレンを廃した作劇ゆえだろう。

 ジャックに扮するジェフ・ブリッジスはさすがのパフォーマンスで、一歩間違えばワザとらしくなるか下品に終わるような役柄を、自然体で上手く乗り切っている。

 ニック役のエドワード・ファーロングはナイーヴな好演だが、この頃はアイドル的な人気もあった。特に日本での人気はアメリカを凌いでいたようで、日本限定で歌手としてアルバムを出していたほどだ。しかしながらその後の歩みは順調ではなく、薬物やアルコールに依存して幾度も警察の御厄介になり、とにかく私生活はボロボロだったらしい。早くから有名になってしまった俳優が身を持ち崩す例は、アチラの芸能界では珍しくもないのだろう(ただ、現在でも俳優としての仕事はあるようだ)。
コメント
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