元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「孤独のススメ」

2016-05-16 06:25:15 | 映画の感想(か行)

 (原題:Matterhorn)出来としては“中の中”といったところ。おおむね感触は良好だが、日本人には馴染みが薄い宗教ネタが作劇の大半を占めるので、理解できたとは言い難い。ある程度“こういうものだ”と割り切って観ないと、素直に対峙するのは無理があると思う。

 オランダの片田舎に住む初老の男フレッドは、妻に先立たれて息子は家を出ており、今は決して狭くはない一軒家に一人で暮らしている。ある日、言葉がロクにしゃべれず経歴も不詳のテオという中年男がフレッドの家に転がり込む。そのまま放ってはおけないと思ったフレッドは、テオを一緒に住まわせることにする。やがてテオには動物の形態模写という“特技”があることが分かり、週末はコンビを組んでパーティの余興に出掛け、けっこう評判を呼ぶ。だが、保守的な土地柄から2人はあらぬ噂を立てられ、フレッドはテオをこのまま置いておくわけにはいかない状況に追い込まれる。

 孤独な男が思いがけない出会いによって人生をやり直すという図式は有りがちだが、普遍性が高い。しかし、本作ではディテールがハッキリと示されていない。どう見ても正常な人間ではないテオを、フレッドが受け入れた理由が分からない。たぶんそれは鷹揚なオランダ人の国民性と博愛を説くキリスト教によるものと思われるが、当の教会と近所の連中は2人の関係を歓迎しない。隣に住む気難しそうなオッサンなんかその最たるもので、ヘンな男を連れ込んでいるフレッドを睨みつける。このアンビバレントな設定には最後まで馴染めなかった。

 テオは本心かあるいは単なる道化のポーズかは知らないが、フレッドに対して同性愛的なモーションを掛けるのだが、フレッドも邪険に撥ね付けたりはしない。実はこのことが息子が出て行ったことと少し関連しているのだが、これを受けてなぜフレッドが生き方を変えることに繋がるのか、釈然としない。

 テオがこのような状態になったのは“ある理由”が存在しているらしい。だが、それが何か重要な意味を持つのかというと、全然ないように思われる。原題の「マッターホルン」とはフレッドが妻にプロポーズした場所のことで、終盤にそれが再びクローズアップされるのだが、何やらこじつけとしか思えない。同性愛がテーマならばそれを深く描出すればいいものを、教会の威光がどうのこうのというネタが不用意に入り込んで、どうもスッキリとしないのだ。

 とはいえ、過度に禁欲的なフレッドの生活は見ていて面白いし、オランダの田舎町の雰囲気、そして主人公たちが移動で使うバスや電車の佇まいも捨てがたい。監督はオランダで俳優としても活躍し、本作が初長編映画デビューとなるディーデリク・エビンゲだが、処女作であまり破綻のない仕事をしていることは評価されよう。

 トン・カスフレッドやロネ・ファント・ホフテオといったキャストは馴染みがないが、イイ味は出している。それにしても、この邦題は不適当だ。劇中では誰も孤独を“推奨”してはいない(苦笑)。
コメント
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