元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「とらばいゆ」

2014-08-19 06:27:20 | 映画の感想(た行)
 「avec mon mari」などの大谷健太郎監督が2001年に撮った作品。かなり楽しめる。いわゆる“原作もの”ではなく、オリジナル脚本でこれだけのレベルに持って行った作者の力量にも感心した。

 麻美と里奈の姉妹は共にプロの将棋指しで、同じ名人戦のBリーグに属している。麻美は最近スランプで、それをサラリーマンの夫である一哉のせいにしている。一方里奈と同棲しているミュージシャンの弘樹は風采が上がらないくせに何かと疑り深く、彼女はそんな彼の態度にウンザリしている。ただしそんなマイナス要素を家の外には出さないようにしているおかげで、この姉妹は互いのパートナーは理想的だと思い込んでいる。



 やがて夫の優柔不断な態度に嫌気がさしていた麻美は、このまま負け続けてCリーグに落ちれば、離婚すると言い出す。そして麻美がBリーグに残留出来るかどうかを決定する対局の相手は、何と里奈であった。果たして勝負の行方と、この2組の男女の行く末は・・・・。

 女流棋士姉妹を主人公にしたラブ・コメディという設定が面白い。“2組のカップルがからむ四角関係”という設定は前作「avec mon mari」と同じだが、語り口もキャスティングも遙かにメジャー指向で、誰にでも楽しめる映画になっている。台詞の面白さは相変わらず。長廻しを主体とした静的なシークエンスでも台詞の躍動感が映画そのもののリズムとなって観客を惹き付ける。

 ストーリーは予定調和だが、登場人物に対する作者のポジティヴな視点が感じられて実に心地良い。ディテールも秀逸で、特に将棋の対局シーンの盛り上げ方は出色。ロケ地になった隅田川周辺の風情も捨てがたい。

 キャスト面では塚本晋也や村上淳はもちろん良いのだが、姉役の瀬戸朝香の存在感が圧倒的。正直言って、こんなにうまい女優だとは思っていなかった。妹役の市川美日子も悪くないが、これは“地のまんま”だろう(笑)。大谷監督もこの演出タッチをキープしてセンスの良い作品を手掛けて欲しかったが、今では毒にも薬にもならないお手軽映画ばかり撮っているのは残念だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする