元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ぼくを探しに」

2014-08-16 06:53:50 | 映画の感想(は行)

 (原題:Attila Marcel )とても感銘を受けた。ジャコ・ヴァン・ドルマル監督による傑作「トト・ザ・ヒーロー」(91年)と似た構成の映画だが、あちらが余命幾ばくも無い主人公の悔恨の念と人生に対する“和解”を切々と描いていたのに対し、こちらは不遇を乗り越えた青年の前途洋々たる将来をうたいあげる。鑑賞後の気分は極上だ。

 主人公のポールは、幼い頃に両親が事故死する場面を目の当たりにしたショックで、口がきけなくなってしまう。今は伯母二人が経営するダンス教室のピアノ伴奏係として目立つことを恐れるように日々を送っているが、同じアパートに住むマダム・プルーストと知り合ったことをきっかけに、封印されていた過去の記憶が蘇ってくる。

 もちろん、プルースト夫人の設定は「失われた時を求めて」の作者であるマルセル・プルーストに由来しており、記憶を遡るために使われる小道具がハーブティーとプチット・マドレーヌであることも共通している。しかし、本作はあの小説のような込み入った構造の大河ドラマではなく、ドラマ運びは平易だ。その代わり、映像デザインは実に凝っている。

 監督シルヴァン・ショメで、彼の初の長編実写映画になる。アニメーションの快作「ベルヴィル・ランデヴー」と同様、奇矯なカメラワークと考え抜かれた色彩配置が観客の目を奪う。主人公の一人称的な視点に基づいているためか、単なるケレンではなく普遍性を持ったアプローチとして昇華されていることに好感が持てる。

 それにしても、過去の出来事は変えられないが過去に対する見方は思い通りになるというモチーフは面白い。さらにこの映画では、辛い(と思われた)過去は現在の自分の立ち位置の“反映”にすぎないと喝破する。過去が苦しいことばかりで現在もそれを引きずっている・・・・というのは間違いで、不遇なのは過去ではなく今の自分であり、トラウマになっている過去の出来事は多分に粉飾されたものであるとのメッセージは、本当に興味深い。観ていて救われるような気になる者もいるだろう。少しずつ“自分の人生”に足を踏み入れていくポールの姿は、おかしくも頼もしい。

 主役のギョーム・グイは妙演で、微妙な“無表情ぶり”と人を食ったような持ち味はクセ者らしさを印象付ける。マダム・プルーストに扮するアンヌ・ル・ニも懐の深いパフォーマンスを見せる。また伯母の一人を演じたベルナデッド・ラフォンは軽やかな演技を見せるが、これが遺作となってしまった。残念だ。

 ショメとフランク・モンバレットよる音楽は素晴らしく、ときおり現れるクリーチャー(?)の造型はセンス満点。ショメ監督としても前の「イリュージョニスト」での不調を一気に挽回する会心作と言えそうだ。
コメント
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