元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「少女は自転車にのって」

2014-01-25 06:59:16 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Wadjda)珍しいサウジアラビアの映画、しかも子供を主人公にしている作品だが、観ていてさっぱり面白くないのは、映画作りの基本スタンスが子供の視線に寄り添っていないためだ。比べるのはアンフェアながら、同じイスラム圏であるイラン映画の“子供の扱い方”の上手さとはかなりの差がある。

 リヤドに住む10歳のワジダ(ワアド・ムハンマド)は、その御転婆な言動で学校では問題児扱いされている。外出時にヒジャブ(スカーフ)を被らないし、制服の下にジーンズとスニーカーを身に着け、相手が誰であろうとタメ口で、男の子相手に平気でケンカし、何より授業態度が不真面目だ。

 ある日彼女は、下校時に新品の自転車が雑貨店に入荷するのを目撃する。友達の男の子を見返すためにも自転車が欲しくなったワジダは母親(リーム・アブドゥラ)にねだるが、あえなく断られる。ならば自分で購入費を調達しようと手作りのミサンガを学校で売ったり、上級生のボーイフレンドとの密会の連絡係を買って出たりと小刻みにお金を貯めるが、目標額にはとても届かない。そんな中、コーラン暗唱大会で優勝すると多額の賞金が与えられることを知った彼女は、さっそくその準備に取り掛かるのだった。

 一番の欠点は、ヒロインの“どうしても自転車が欲しい!”という切迫した想いが伝わってこないことだ。確かに男友達の自転車を持っていることによるアドバンテージは目の当たりにするものの、それが果たして無茶をしてでも手に入れたいアイテムなのか、そのあたりの説明が不十分。

 自転車に乗って疾走しているところを夢想するシーンの一つでも挿入していれば随分と違ってくると思うのだが、セリフによるフォローさえ無いのだから閉口してしまう。たとえばイラン映画の「運動靴と赤い金魚」や「駆ける少年」等における、観る者を圧倒させる主人公の(狂気にも似た)執着心には遠く及ばない。

 そして困ったことに、肝心のコーラン暗唱大会の場面が盛り上がらない。監督のハイファ・アル=マンスールは、もうちょっと娯楽映画としての(良い意味での)外連味を勉強すべきであろう。

 代わりに何が描かれているかというと、一夫多妻制の理不尽さや、長時間かけて男が運転する車で仕事に通わなければならない母親の屈託である。なるほど、この国の前近代的なシステムに振り回されている女性達の境遇を告発するという意味では、存在価値はある映画かもしれない。ならばいっそのこと、母親を主人公にしてドラマを作り上げた方が良かったのではないか。

 子供を主に描くべき設定ながら、内実は時事ネタ(女性の地位等に関する問題)を振りかざそうとするから、作劇がチグハグになってしまう。リヤドの風景や人々の暮らしを紹介しているあたりは興味深いし、サウジアラビアにおける女流監督の作品である点は貴重だが、それだけでは個人的には評価は出来ない。
コメント (2)
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