元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ジェルミナル」

2014-01-28 06:25:00 | 映画の感想(さ行)
 (原題:GERMINAL)93年フランス作品。1880年、北フランスの炭鉱を舞台に繰り広げられる貧しい炭鉱夫たちと資本家の戦い。街に流れてきた青年労働者(ルノー)を狂言廻し的存在にし、反骨精神あふれた工事主任(ジェラール・ドパルデュー)とその妻(ミウ=ミウ)と娘(ジュディット・アンリ)、高圧的な資本家と優柔不断な組合長(ジャン・カルメ)など、様々な人間模様が展開される。エミール・ゾラの同名小説の3回目の映画化で、監督は「愛と宿命の泉」(88年)で知られるクロード・ベリ。

 フランス映画には珍しく金のかかった大作だ。炭鉱町のセットはほとんど本物で、エキストラの数もすごい。季節感を出すために野草の種をまいて成長するのを待っているうちにまる一年以上撮影にかかったという。

 ベリ監督は群衆シーンに非凡なものを見せ、労働者がほう起する場面のダイナミズムや、炭坑爆発のクライマックスで地下道を逃げ回る炭坑夫たちの描写はなかなかのもの。イヴ・アンジェロによるカメラは、モノクロームの炭坑、寒々とした町、灰色の冬景色を幻想的な雰囲気で映し出す。3時間近い上映時間は緊張の連続だ。



 しかし、観終わって残るのは感動ではなく、疲労感の方だった。題材が少々アナクロなのは誰しも指摘できるが、仕方がないところもある。原作が書かれた19世紀末は、社会主義が最先端のトレンドであり、労働者運動を展開していけば輝く未来があると信じられてきた。

 ただ、社会主義国家は西欧には誕生せず、20世紀後半には世界全体が資本主義の方向に進み、やがてイデオロギーの時代は終焉を告げることを作者は予想もしていなかったのだ。もっとも映画の作り手はそれを十分承知の上で、ドラマの視点をを社会情勢よりも無名の人々にシフトさせている。それは正解だがしかし・・・・。

 全体に“救いがない”という一言に尽きると思う。ほとんどの登場人物は破滅し惨めな最期を迎える。結局、人間なんてエゴとヒステリーだけで生きているのだと言わんばかりだ。

 家族を失い、それでも生活のために炭坑に入っていく工事主任の妻の表情から受け取れるのは絶望だけだ。尊厳も愛情も消え失せた労働者たちに“万国の労働者よ立ち上がれ!”と叫んでも、芯からダメな人間はどうしようもないと・・・・。

 ヴィスコンティの名作「揺れる大地」(48年)の展開と似てまるで異なる点は、人間性に対する作者の共感があるかないかだ。私は最後までそれを見つけることはできなかった。気が滅入るような“文芸映画”。力作だが、私はあまり勧めない。
コメント
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