元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「影たちの祭り」

2013-08-23 07:16:25 | 映画の感想(か行)

 題材の選定だけで8割方成功している映画である。日本初の手影絵専門劇団「かかし座」の創立60周年を記念して作られたドキュメンタリー。彼らは2009年から「ハンド・シャドウズ・アニマーレ」と呼ばれる海外公演のシリーズを展開しているが、映画はブラジルでの巡演を前にした国内リハーサルの最終段階を追っている。

 この「かかし座」は総勢40名ほどで構成されているが、「ハンド・シャドウズ・アニマーレ」に参加出来るのはその中の精鋭メンバー数人だ。それだけに、個々のレベルは高い。ハッキリ言ってしまえば、これは“神業”に近いのではないかと思ってしまった。

 何気なく指をかざすだけで、スクリーン上にはさまざまなキャラクターが魂を吹き込まれたように活き活きと動き出す。一つのキャラクターを複数で演じるのは当たり前で、その阿吽の呼吸というか、精緻なタイミングの取り方に舌を巻いてしまった。演じる彼らはまるでダンスを踊っているようで、舞台裏ではスクリーンでの作劇とは別の世界が展開しているあたりも実に興味深い。

 主宰者の後藤圭は、そんな彼らに対してさらに高いハードルを用意する。それは手影絵キャラクターを創造するのではなく、純粋に“手の動き”だけで人の一生を表現しようという実験的な試みだ。しかも後藤は、本番まで間もない時期にこの提案をおこなう。明らかな無茶振りだが、団員達はそれをアッという間にクリアしていく。ここのくだりは凄い。音大出の後藤による、音楽と巧みにシンクロした演出も見事だ。

 メンバーの一人一人が抱える屈託も紹介されるが、あまり過度には突っ込まない。作品の目的が彼らのパフォーマンスの紹介に焦点が当てられているので、これは適切な処理だろう。ただし、個人的には彼らが手影絵にのめり込むようになったきっかけを、アウトラインだけでも良いから描いて欲しかった。

 舞台場面以外で気に入ったシークエンスは、劇で演じる動物を詳しくリサーチするために、劇団の若手女性パフォーマーの二人が動物園に出掛けるパートである。普通の女の子のように動物を見て喜んだりするが、次の瞬間には太陽光をバックにして動物の動きを手影絵にしてその場で再現するという離れ業をやってのける。そのプロセスが自然に捉えられているので、それだけインパクトは大きい。

 ドキュメンタリー作品は初めてだという大嶋拓の演出は節度を守っており、余計なケレンもなく、観る者に圧迫感を与えない。素材自体の存在感をそのまま写し取ろうと腐心しているようで、好感が持てる。上映規模は限られるが、幅広く奨められる映画だと思う。
コメント
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