元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「青島アパートの夏」

2013-08-11 19:43:50 | 映画の感想(た行)
 (英題:Stand Up Don't Bent Over)92年中国作品。青島(チンタオ)のアパートに引っ越してきた作家の高夫婦の右隣にはガラの悪い張一家、左隣には党幹部の劉一家が住んでいた。彼らは何かといがみ合っているが、やがて勤めていた工場をクビになった張は会社を設立し、熱帯魚の飼育販売を始める。面白くない劉は娘をスパイとして張の会社に送り込み、営業妨害をしようとするが、事態は意外な方向へと進んでいく。

 監督は当時若手の社会派と言われた黄建新(ホアン・チェンシン、と読む)。2年間のオーストラリア留学の後、帰国してあまりの状況の変化に驚き、そのカルチャー・ショックがこの映画を製作する上での大きな動機となっているという。市場経済が急速に導入される中国の実状を皮肉ったコメディだ。

 冒頭、気の弱い作家の高がアクの強い張に仰天する場面で、これは「デリカテッセン」か「アダムス・ファミリー」ばりのブラックなコメディになると期待はしたのだが・・・・。

 言いたいことはよくわかるのである。要するにこれは、パワフルだが品のない庶民と杓子定規的な発想しか出来ない党幹部のドギツい“抗争”を通して、中国社会における新旧のパワープレイを描き、どっちつかずの曖昧な態度で皆の顰蹙を買い、最後はアパートを出ていくハメになる作家夫婦に口ばかり達者で実行力のないインテリの弱さを象徴しているのだ。

 作者のウェイトはこの弱気な作家に置かれていることは明白で、進歩的な言論界でイニシアティヴを取っても、実社会では何もできない社会のお荷物と化している知識人を自嘲をこめて笑い飛ばそうとしている。

 まあ、狙いとしては面白いといえる。だが、映画としてはいっこうに面白くないのはズバリ、演出がうまくないからだ。テンポの遅さとギャグのハズし具合は致命的で、あとからよく考えると“あー、こういう意味で笑いを取ろうと思ってたんだ。ふーん”てな調子で、あまり画面が弾まない。アメリカ映画だったら、いや、香港映画でも少々クサい演技とリズムのいい演出によって退屈させない作品に仕上げる題材だったろう。上映時間も2時間は長すぎる。1時間半程度でコンパクトにまとめてほしかった。
コメント
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