元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「きな子 見習い警察犬の物語」

2010-08-23 06:31:25 | 映画の感想(か行)

 主演女優と警察犬・きな子の奮闘以外は、何も見るべきものはない映画だ。小林義則の演出は(テレビ屋出身ということも関係してか)凡庸に過ぎる。冒頭、嵐の山中で救助活動を敢行する警察隊を描く空撮シーンは、何かの間違いではないかと思うほどお粗末である。

 荒天でも何でもない気象環境の中で漫然とカメラを回し、後からフィルムの上から縦に筋を入れて豪雨に見せかけているみたいな(まあ、実際にそんなことはしないが)稚拙な画面に観る側はまず萎えてしまう。

 救助の場面も緊張感がゼロで、ただ警察犬を走らせていたら、いつの間にやら遭難者が発見されたという芸のなさ。アクシデントの一つや二つ挿入してもバチは当たらないと思うのだが、作者はその程度のことにさえ頭が回らない。

 亡き父のような警察犬訓練士になることを夢見て警察犬訓練所に入所したヒロインが、言うことを聞いてくれない相棒の“きな子”や所長のシゴキに悩まされながらも、成長していくというストーリー自体には異存はない。ただしその語り口は平板そのもの。何の工夫もなく“ここがこうだから、こうなりました”という筋書きを追っているに過ぎない。さらには、登場人物による大量の説明的セリフが映画を盛り下げる。

 クライマックスであるはずの、豪雨の中での探索シーンもヴォルテージは低いまま。決死の覚悟で山に入ったはずが、途中で都合良く雨は上がり、死ぬ一歩手前で喘いでいるはずの幼い遭難者はノホホンとした顔で救助を待っている。おまけにヒロインと一緒に現場で眠り込むに至っては(そんなことをすれば身体が冷えて取り返しの付かない事態になる)、観ていてバカバカしくなってきた。

 作品の性格上、夏休みの家族連れを当て込んだ映画であり、手練れの映画好きがマジメに対峙するようなシャシンではないのは分かるが、こうも穴だらけの作劇ではせっかく映画館まで足を運んでもらったファミリー層も“引いて”しまうだろう。訓練発表会の場面も出てくるが、わざわざ挿入させた珍しい素材も見せ場が皆無であるため、完全に空振りだ。

 しかしながら、ラブラドール・リトリーバーの子犬“きな子”の仕草は、犬好きの観客にとってはたまらないだろう。発表会での顔面から転落する大失態をはじめ、いろいろな“コスプレ”で可愛らしさを強調。そういう場面だけを期待して作品に接すれば、あまり腹も立たないのかもしれない。

 そして主演の夏帆は相変わらず魅力的だ。今回の舞台は香川県丸亀市だが、彼女自身は東京出身ながら見事に地元の子になりきっている。可愛くて素直でピュアなキャラクターは誰にでも好かれるだろう。今後も映画に出続けて欲しい。所長役の寺脇康文やその妻に扮する戸田菜穂も的確なパフォーマンスだ。ただし、もうちょっとマシなスタッフと一緒に仕事をさせたかったというのが本音。映画自体はスクリーン上で接する価値はない。テレビ画面で十分だ。
コメント
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