元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラストキング・オブ・スコットランド」

2007-03-30 06:46:15 | 映画の感想(ら行)

 (原題:The Last King of Scotland )フォレスト・ウィテカーに本年度のアカデミー賞主演男優賞をもたらしたケヴィン・レイノルズ監督作。

 確かに悪名高いウガンダ大統領イディ・アミンを演じるウィテカーは驚くべきパフォーマンスを披露している。軍部出身とはいえ最初は“国民のために何かしたい”という理想を持っていたはずの彼が、やがて権力におぼれ保身のみに執着するあまり、数々の蛮行を重ねるようになるまでのプロセスを鬼気迫る力演で見せる。特に、群衆の前での熱のこもった演説で喝采を浴びた後まもなく、政敵の陰謀に恐れおののく弱さ(二面性)を違和感なく表現するあたりは感心した。

 彼に見出されて主治医を務めるようになるスコットランドの若い医師ニコラスを演じるジェームズ・マカヴォイも、思い上がった白人のエセ理想主義者ぶりを下品になる一歩手前のところで上手く描出している。彼に特定のモデルはいないそうで、アミンに関わった欧米人の“一典型”として造型しているとのことだが、無理のないキャラクター設定だったと思う。

 レイノルズの演出はドキュメンタリー出身だけあって対象を即物的かつ効果的に見せる手腕は大したもの。特に戦闘シーンや残虐場面の切り取り方はカメラを必要以上に“放置”させず少ないショットで強いインパクトを観る者に与える。ラスト近くの“エンテベ事件”のサスペンスの盛り上げ方も申し分ない。

 それにしても、本作を観て“アミンを生んだのは先進諸国だ!”とか何とかいう一面的な感想を持つことは禁物だと思った。アミンが失脚したのはこの映画で描かれた時期よりずっと後年で、しかも彼が(亡命先で)死んだ日を国民の祝日として祝いながら、アミンを尊敬している国民もいまだにいるという事実はけっこう重い。確かに独裁者を育てたのは先進国かもしれないが、それを認知したのは国民だ。

 アミン亡き現在でも、スーダンのオマル・バシル大統領やジンバブエのムガベ大統領、赤道ギニアのヌゲマ大統領など、アフリカにはタチの悪い独裁者がのさばっている。私はそれらの国の民衆に対して同情を禁じ得ないが、何とか事態が好転するとはまったく思っていない。先進国とそれ以外の国々との格差(もちろん、民度を含めた)は、想像を絶するものなのだ。
コメント
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