元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「叫(さけび)」

2007-03-20 06:43:12 | 映画の感想(さ行)

 ラストがいかにも黒沢清監督作品らしいが、逆に言えば今回も“いつものパターン”を一歩も逸脱していないことになる。どうして“ああいう世界”にこだわるのか。何かの強迫観念だろうか。

 同監督のホラーもので唯一私が評価している「CURE/キュア」は“いつもの結末”に至る前で踏みとどまっているため、恐怖が日常レベルに拡散されヒヤリとした後味を残したものだが、本作のように話が“あっちの世界”に収斂してしまうと、観客は置いてけぼりを食わされるだけ。

 それでも中盤まではけっこう面白い。湾岸地帯で発見される若い女の死体。主人公の刑事は捜査を進めるうちに、自分自身が容疑者ではないかとの疑心暗鬼にかられる。彼は見捨てられたようなアパートで一人暮らし、時折訪ねてくる恋人との仲も淡白に過ぎる。私生活が完全に“閉じた”状態でのアイデンティティの危機という、ニューロティックな設定は興味をそそる。さらに彼の疑いを裏付けるように事件の被害者と思われる赤い服を着た女の幽霊が出てきて、これが頭の痛くなるような叫び声と共に昼夜区別無くまとわりつくのだから、悲喜劇の様相を呈してくる。

 そしていつもながらのロケハンの妙味。主人公のうらぶれた住居もさることながら、特に物語の鍵を握る湾岸に面したかつての精神病院の廃墟は、いったいどうやってこういう効果的な場所を探したのかと感嘆するしかない。

 黒沢監督とよくコンビを組む役所広司は追い込まれてゆく主人公像を手堅く演じている。恋人役の小西真奈美も儚げな雰囲気をうまく醸し出しているし、幽霊に扮する葉月里緒菜の自らの大根ぶりを逆手に取った傍若無人ぶりにはニヤリとしてしまった。

 しかし、しょせんはいつもの“黒沢ワールド”の描出に終わっているため、評価はしたくない。結局、彼の持ち味を巧みにコントロールして広範囲にアピールする作品に昇華させるようなプロデューサーが必要ということだろう。
コメント (2)
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