元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「青 ~Chong~」

2007-03-25 15:38:27 | 映画の感想(あ行)

 「フラガール」のヒットで“若手職人監督(?)”との地位を確立した感のある李相日(リ・サンイル)が日本映画学校の卒業試験として作った映画で、2000年度の「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリを受賞。評判の良さからそのまま一般公開につながった。

 主人公(眞島秀和)は神奈川県内の朝鮮高級学校に通う在日三世。勉強はそこそこに野球部の練習と友人とつるんでのイタズラに余念がないフツーの高校生だ。ある日、姉が家に突然日本人の婚約者を連れてくる。朝鮮人としての誇りを教えられて育ってきた彼はとまどいを隠せない。さらに、幼なじみで同級生の女生徒が日本人と付き合っているのを知ったり、日本の高校との練習試合では大敗したりしたことで彼の動揺は大きくなる。

 一時間程度の中編だが、なかなか面白く観た。何より在日朝鮮人を主人公にしていながら“差別”や“イデオロギー”といった大仰なネタがまったく入り込んでいないのが良い。ここで示されるのは若者らしいナイーヴな感情とアイデンティティへの疑問という普遍的な題材だ。

 “自分とは何か”を考える場合、本人が置かれた状況が大きくモノを言うのは当然だが、彼の場合はたまたまそれが“在日三世”であっただけの話。悩みや喜びは他の高校生と同じなのに、在日という個的な事情によりほんの少し違ったアプローチをせざるを得なくなる。でも映画はそれに対して声高に何かを唱えたりしない。あるがままを受け入れ、前向きに生きることを淡々と描くだけだ。作者の冷静なスタンスがうかがわれる。

 演出はテンポがある。効果的なギャグの連発で飽きさせない。随所に北野武や森田芳光の影響が見られるものの、作劇自体(クールではあるが)シニカルなところはない。舞台になる朝鮮学校の描写も興味深く、快作と言って良い出来だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする