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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「燃えあがる女性記者たち」

2023-12-11 06:37:10 | 映画の感想(ま行)
 (原題:WRITING WITH FIRE )今まで知ることも無かった事実を紹介してくれることがドキュメンタリー映画の特徴の一つだが、本作においてはその真実が殊の外重い。いや、本当は誰しもそのことに薄々気付いてはいるのだ。単にそれを直視せず、あるいは“仕方がないことだ”としてスルーしている。そこを敢えて取り上げることこそ、映画人としての矜持であるはずだ。その意味では、本作の存在価値は高い。

 インド北部のウッタル・プラデーシュ州に拠点を置くネット媒体の新聞社カバル・ラハリヤは、被差別カーストの女性たちによって立ち上げられている。取材対象は、この地に暗い影を落とす貧困や階層の実態、そして差別による社会の分断などである。女性記者たちは家族や周囲の者らの反対に遭いながらも、果敢に問題に向き合っていく。



 インドは多大な人口を抱え、今や世界第5位の経済大国であり、今後も成長が見込まれている。しかし、この国は先進国ではない。言語は統一されておらず、社会的格差は(宗教的要因もあり)確定されている。ヒンドゥー教徒とイスラム信者の確執も深刻だ。そんな中、本作で描かれるカースト外の“不可触民”として差別を受けるダリトの女性たちが嘗める辛酸は筆舌に尽くしがたいものだろう。

 特に、プレッシャーに耐え切れず主要メンバーのひとりが結婚退職を余儀なくされるシークエンスは痛切だ(後に復職したという)。それでも、カバル・ラハリヤの記者は前を向くことをやめない。購読者は着実に増え、時にそれは当局側を動かし、地域の治安やインフラの整備に貢献する。やはりジャーナリズムの力は大したものだと思わざるを得ない。また、初の海外出張でスリランカを訪れた記者の一人が、海辺で“素”の表情でリラックスしている様子を挿入するなど、等身大のキャラクターとして捉えている箇所があるのも好印象だ。

 リントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュによる演出は、いくらでも煽情的に扱えるネタを扱いながらもニュートラルな姿勢を崩さない。もちろん、絶対的な中道というものはあり得ないが、それを指向すること自体が重要なのだ。彼らにとってこれが長編第一作だが、サンダンス映画祭におけるダブル受賞をはじめ、200以上の映画祭で上映されており、米アカデミー賞ドキュメンタリー部門の候補にもなった。今後も注目したい人材だ。
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「マーベルズ」

2023-12-08 06:11:17 | 映画の感想(ま行)
 (原題:THE MARVELS )マーベル・コミックのヒーローたちが活躍する、いわゆる“マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)”が末期的状況に入り込んだことを如実に示す一作。もっとも、そう思うのは私のようなアメコミの門外漢に限った話らしく、コアなファンはとても喜んでいるようだ。しかし、面白くないものは面白くない。個人的に楽しめないシャシンを持ち上げるわけにはいかないのだ。

 キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァースは、宇宙の平和を守るために今日も幅広く活動しているが、そんな彼女の前に、的外れな復讐心を抱いた難敵ダー・ベンが現われる。ダー・ベンは異次元のパワーをもたらすバングルと呼ばれる腕輪を探し求めており、そのためには手段を選ばない。一方、女子高生ヒーローのミズ・マーベルと強大なパワーを覚醒させたばかりのモニカ・ランボーは、それぞれの力を解放させるとキャロルを含めた3人がランダムに入れ替わってしまう状況に追い込まれる。そんな珍妙な事態に戸惑う間にも、ダー・ベンの脅威は迫ってくる。



 正直言って、キャプテン・マーベルは前作(2019年)でスクリーン上に初登場した時点から愛嬌に欠け感情移入しにくいキャラクターだった。それに加えて今回はミズ・マーベルにモニカ・ランボーという、馴染みの無い面子が何の前振りも無しに登場。敵方の事情やバングルの由来も判然としない。それもそのはずで、この映画はディズニー提供の配信ドラマを逐一チェックしている観客のみを対象としているらしい。

 もっとも、従来からマーベル等のアメコミ作品は“一見さんお断り”の傾向はあった。ただしそれは、関連した映画を観ていれば何とか付いていけるレベルだったと思う。しかし、2019年の「アベンジャーズ エンドゲーム」より後のMCUフェーズ4以降の展開は、ネット配信作品も含めたすべてのネタを網羅していなければストーリーを追えない体制に移行したようだ。これでは、一般的な映画ファン(?)としては敬遠するしかない。

 また、映画単体として見ても、本作のヴォルテージの低さは如何ともし難い。活劇場面は平板だし、SFXも大して上出来だとは思えない。主人公以外の登場人物たちは深みは無く、ヘンなお笑いネタが散りばめられるのも愉快になれない。加えて“ニャーベルズ”の登場も唐突で、よほどの猫好きでなければ楽しめないだろう。ニア・ダコスタの演出は凡庸で、盛り上がる箇所を見つけるのが難しい。まあ、上映時間を105分に抑えた点だけは評価出来る。

 ブリー・ラーソンにテヨナ・パリス、イマン・ベラーニ、ゾウイ・アシュトン、パク・ソジュン、そしてサミュエル・L・ジャクソンといった顔ぶれはパッとせず、印象的な演技もしていない。今後はMCU作品はよっぽど興味を惹かれる題材のシャシンは別にして、スクリーン上で対峙するのは原則として遠慮したい。
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「緑のざわめき」

2023-09-29 06:11:31 | 映画の感想(ま行)
 これは是枝裕和監督の「海街diary」(2015年)と似たような線を狙っていたのかもしれない。しかし、出来としては凡庸だった是枝作品にも及ばないほど低調な仕上がりだ。聞けば本作の当初の脚本は、そのまま映像化すれば4時間にも及ぶ“大作”だったとか。それを無理矢理に2時間弱に圧縮した弊害が出ているのかもしれない。いずれにしろ、評点は辛いものになる。

 東京で女優として活動していた28歳の小山田響子は、体調を崩したこともあり仕事を辞めて福岡市に移住する。実は彼女には本橋菜穂子という腹違いの妹がいるのだが、響子は菜穂子の存在を知らない。菜穂子は偶然を装って響子に近づき、招かれた彼女の部屋でこっそり連絡帳から情報を盗み出す。響子の実家は佐賀県嬉野市なのだが、そこに書かれていたのは伯母の芙美子の電話番号だった。芙美子は高校生の小暮杏奈を引き取って育てているが、杏奈は響子と菜穂子の異母妹である。



 それまで交流が無かった三姉妹の人間模様を描こうという方向性は悪くなく、上手くやれば「海街diary」よりもヴォルテージの高い内容になったかもしれないが、話自体がまるでダメである。まず、主人公たちの父親は相当な放蕩者であったことが想像できるが、映画はその点に関してまったく言及されていない。三姉妹はもちろん、親戚や周囲の者たちも多くを語らないのだ。

 そして、菜穂子は確たる理由も無く響子をストーキングする。姉に何かコンプレックスを持っているというわけでもなく、終盤には唐突にヤバい行為に走る。響子の元カレである宗太郎や、菜穂子の友人たちも存在理由が希薄。村の“長老”とされているオッサンも、何しに出てきたのか分からない。

 極めつけは、終わり間際に展開する謎すぎるエピソードの数々。いつの間にかヤクの売人がどうのこうのという流れになり、警察が介入する事態になったと思ったら、芙美子はヘンなところで退場してしまう。脚本も担当した夏都愛未の演出は行き当たりばったりで、求心力はほぼゼロ。そもそも、この企画を通したプロデューサーの意図が見えない。

 響子役の松井玲奈は今回は演技指導が不十分だったためか、身体の動きも表情も硬い。菜穂子に扮する岡崎紗絵のサイコパスぶりも取って付けたよう。杏奈を演じる倉島颯良をはじめ、草川直弥に川添野愛、松林うらら、林裕太といった顔ぶれも“華”に欠ける。カトウシンスケと黒沢あすかの働きもイマイチだ。福岡市内や嬉野の風景はよく出てくるが、さほど効果的ではない。
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「ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE」

2023-08-26 06:05:52 | 映画の感想(ま行)
 (原題:MISSION:IMPOSSIBLE DEAD RECKONING PART ONE)上映時間が2時間44分というのは、いくら何でも長すぎる。先日観た「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」も2時間34分という長尺だったが、大河ドラマでもアート系フィルムでもない活劇映画の分際で、これだけの上映時間を必要とすること自体おかしいと思う。しかも本作は「PART ONE」と銘打っていることからも分かる通り、前半部分に過ぎないのだ。

 もちろん、いくら尺が長くても中身が充実していれば許せるのだが、これがどうも弱体気味。ロシアが次世代潜水艦用の推測航法(デッドレコニング)のために開発した高度なAIシステムが突如として“自我”に目覚める。搭載された艦は沈没するが、その心臓部分は海底にて半永久的に作動。世界中のITデバイスを支配できるこのシステムを制御するには2つの鍵が必要だが、今回イーサン・ハントに課されたミッションは、この鍵がテロ分子に渡る前に見つけ出すことだ。



 ここ2,3作では“IMFが組織的活動を停止させられ、ハント及びその仲間が追われる身となる”という設定ばかりだったので、今回のネタは新鮮味はある。だが、最新のAIをコントロールするのが、アナログな鍵というのが何とも脱力する。しかもこの鍵の造形は安普請で存在感が希薄だ。こんな物のために大のオトナたちが右往左往する様子は、滑稽でしかない。

 敵の首魁はハントがIMFに入る前に出会って深い因縁があるというガブリエルという男だが、ハッキリ言ってシステムを手に入れて何をしたいのか分からない。まあ、その真相は続編で明かされるのかもしれないが、説明抜きでの狼藉ぶりは愉快になれない。それでも予告編の段階から何度も見せられた派手なアクションシーンが小気味良く展開されるのならばあまり文句は無いが、これが一つ一つが無駄に長くて飽きてしまう。このあたりが上映時間が引き延ばされた要因だろう。

 しかも、活劇場面はいずれも過去にどこかで観たような御膳立てであり、アイデア不足は否めない。ならばドラマ部分はスムーズなのかというと、これも違う。今回の重要なネタとして“ヒロインの交代”が挙げられるが、その顛末が冗長で観ていて面倒くさくなる。あと、交渉場所にわざわざ山岳列車のような不安定な場所を指定したり、仲間から案内された現場とのアクセスポイントが断崖絶壁だったりと、無理筋なモチーフの連続。

 これでシリーズ三回目の登板になるクリストファー・マッカリーの演出は相変わらずピリッとせず、シナリオを追うだけで手一杯の様子だ。トム・クルーズのパフォーマンスはいつもの通り。ヘイリー・アトウェルにビング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソンら他の面子も大したことは無い。敵役のイーサイ・モラレスは貫禄不足。印象に残ったのは前回に引き続いて登場のヴァネッサ・カービーと、女殺し屋役のポム・クレメンティエフぐらいだ。本編を観た関係上、パート2が公開された際も劇場に足を運ぶことになるが、期待はしていない。
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「ミックスド・バイ・エリー 俺たちの音楽帝国」

2023-08-06 06:05:18 | 映画の感想(ま行)

 (原題:MIXED BY ERRY )2023年5月よりNetflixより配信。取り上げられた題材は興味深く、各キャラクターは十分“立って”いる。正直、ストーリー自体はそれほどでもないのだが、作品のカラーは捨てがたく、観て損しないレベルに仕上げられていると思う。特に音楽好きにはアピールするところが大きいだろう。

 1980年代のナポリ。フォルチェッラ地区に住むDJ志望の若者エンリコ(通称エリー)は、兄と弟と共に既存の音楽ソースから自身で選曲したカセットテープを作成し、それを大量生産して売りさばくビジネスを始める。これが大当たりして販路を全国規模に広げるが、サンレモ音楽祭の未発表音源を海賊版としてリリースしたことを切っ掛けに警察からマークされるようになる。実話に基づいたシモーナ・フラスカのノンフィクション小説の映画化だ。

 冒頭、くだんの三兄弟が服役する場面が描かれるので結末は分かっている。映画はそれから時制を遡ってエリーたちがこの一件に手を染めた経緯が示されるのだが、DJとして芽が出ないことを思い知らされたエリーがミックステープの作成に行き着いたという話は、いささか強引ながら納得できる。音楽に関わる仕事という意味では同じだし、この時代はそれが許されていたのだ。

 しかも、三兄弟の父親はニセ高級酒の詐欺販売という香ばしい稼業に身をやつしており、それを子供の頃から手伝っていたエリーに罪の意識など最初から無かったと推察される。とはいえ、ストーリー展開は一本調子で捻ったところは見られない。それが不満点ではあるのだが、当時の音楽業界の事情は分かりやすく描かれている。

 著作権という概念が一般的ではなく、音楽雑誌などにもブートレッグ盤の広告が大っぴらに出回っていた時代。それがCDの登場により無断複製が問題視されるようになるプロセスが平易に紹介されている。また、80年代の楽曲が鳴り響くのも楽しい。個人的にはこの頃のポップスを積極的に聴いたことはないが、現時点で接すると懐かしい気分になる。

 シドニー・シビリアの演出は突出したところは見当たらないが、破綻無くドラマを奨めている。ルイジ・ドリアーノにジュゼッペ・アリーナ、エマヌエーレ・パルンボ、フランチェスコ・ディ・レーヴァ、クリスティアーナ・デランナといった顔ぶれも申し分ない。また、劇中で描かれるナポリの下町の風景は、古いイタリア映画を思い起こさせて効果的だ。
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「見えない目撃者」

2023-08-04 06:05:26 | 映画の感想(ま行)
 2019年作品。キャストは頑張っている。ドラマ運びもスピーディーだ。しかし脚本があまりにも不出来である。2011年公開の韓国製サスペンス映画「ブラインド」(私は未見)のリメイクということだが、この企画が持ち上がる際にプロデューサーはシナリオをチェックしなかったのだろうか。それとも、作劇に勢いさえあれば筋書きの欠点など余裕でカバーできると踏んだのか。いずれにしろ、評価しがたい内容だ。

 新人警察官の浜中なつめは、警察学校の卒業式の夜に弟の大樹を車に乗せて帰宅中、事故を起こしてしまう。大樹は死亡し、なつめ自身は視力を失い警察官の道を諦めるしかなかった。それから3年経ったある晩、盲導犬のパルと共に外出中、なつめは車の接触事故に遭遇する。そこで車中から助けを求める少女の声を聞いた彼女は、誘拐事件の可能性を考え警察に通報する。だが、警察は目の見えない彼女の言い分を聞き入れない。納得できないなつめは事故現場で車に接触したスケボー少年の国崎春馬を探し出し、独自に捜査を始める。



 まず、ヒロインが失明する原因になった自動車事故は、完全に彼女の過失だ。新米とはいえ、警察官がやらかすミスとは考えにくい。そして真犯人はどうして初めの接触事故の際に“目撃者”であるなつめと春馬を始末しようと考えなかったのか、大いに謎だ。ハッキリ言うと、犯人は誰なのか早い時点で見当が付く。だが、その先入観を覆すような仕掛けも無い。

 目が見えないため動作の遅いヒロインを、これまたノンビリと歩いて追い詰めようとする犯人。地下鉄の駅に逃げ込んだなつめだが、そこには駅員が一人もいない異世界(苦笑)。当のなつめも、運良く乗り込んだ地下鉄で他の客に助けを求めようとせず、下車した駅にはいつの間にか犯人が待ち構えているという意味不明の展開。

 敵のアジトを突き止めて応援を要請したにもかかわらず、それを待たずに単独で行動する刑事。加えて、銃声が聞こえてヤバい状況になったにも関わらず、あえて敵地に乗り込むなつめと春馬。さらには応援の警察隊が駆けつけるのは要請から数時間も経った後という、あり得ない顛末。まさに、ツッコミどころ満載の中身だ。森淳一の演出は歯切れは良いが、ストーリー自体がこのような有様なので空回り状態。

 主演の吉岡里帆は健闘している。同世代の女優の中ではそれほど演技が上手い方だとは思わないが、それでも必死でやっているのは認めて良い。高杉真宙に大倉孝二、浅香航大、酒向芳、國村隼、松田美由紀、田口トモロヲと、演技が下手な者はいないのだが、話がこの程度なので“ご苦労さん”としか言いようがない。改めて、同様のネタの元祖とも言うべきオードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って」(1967年)がいかに快作だったのか思い知らされた。
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「マッシブ・タレント」

2023-04-15 06:20:55 | 映画の感想(ま行)
 (原題:THE UNBEARABLE WEIGHT OF MASSIVE TALENT )アクションコメディとしては凡庸で、敢えてコメントするほどのレベルではない。しかし、あのニコラス・ケイジが現実のケイジ自身を彷彿とさせる映画スター(?)をヤケクソ気味に演じるという設定は効果的で、それほど退屈しないで最後まで観ていられる。こういうシャシンもあっていい。

 かつては売れっ子で主要な映画アワードの受賞歴もある俳優ニック・ケイジは、今では落ちぶれて多額の借金を抱える身だ。しかも嫁さんには逃げられ、娘にも愛想を尽かされている。そんな彼に、スペインの大富豪の誕生日パーティに参加するだけで100万ドルが得られるという、実にオイシイ仕事の依頼が来る。



 胡散臭さを感じながらも借金返済のためにスペインまで足を運んだ彼を迎えたのは、パーティの主賓でニックの大ファンであるという大金持ちのハビ・グティエレスだった。彼の大らかな人柄に惹かれたニックはすぐに意気投合するが、そんな中、ニックはCIAの幹部からある依頼を受ける。実はハビは国際的な犯罪組織の首領らしく、彼の動向をスパイしてほしいというのだ。

 この一件の裏にはカタロニアの政治家の娘が誘拐され、ハビが所有する広大な敷地のどこかに監禁されているという背景があるのだが、それほど効果的には扱われていない。そもそも監督トム・ゴーミカンの腕前がイマイチで、面白そうなシチュエーションは用意されているものの、演出のテンポが悪くサスペンスもギャグもキマらない。また、後半ニックの妻子もスペインに来てしまうという筋書きは彼女たちの“活躍”を挿入するためとはいえ、無理矢理感が強い。

 それでも何とかスクリーンに対峙できたのは、ニコラス・ケイジのセルフ・パロディが満載だからだ。誘拐される娘が観ているたのが「コン・エアー」で、以下「フェイス/オフ」や「ザ・ロック」、「月の輝く夜に」、「コレリ大尉のマンドリン」、「ゴーストライダー」等々、ニコラス御大のネタが性懲りもなく出てきて、それだけでもニヤついてつまう。果ては彼の“心の声”を象徴する謎なキャラクターが登場し、興趣は高まるばかり。

 キャストではハビ役のペドロ・パスカルが絵に描いたような好漢ぶりでインパクトが高く、シャロン・ホーガンやアイク・バリンホルツ、ティファニー・ハディッシュ、リリー・シーンらのパフォーマンスも良好。音楽担当はマーク・アイシャムで、ライト過ぎる作劇にはもったいないほどの堅実なスコアを提供している。
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「もう、歩けない男」

2023-04-02 06:13:47 | 映画の感想(ま行)
 (原題:ADAM)悪くはないが、それほど良くもないという出来の映画だ。実話を元にした“難病もの”の体裁を取り、それなりのルーティンをなぞってソツなく仕上げているように見えて、大きなインパクトは受けない。実録作品であることに寄りかかり、観る者を惹き付ける工夫が疎かになったような案配だ。ただ、キャストの奮闘に関しては評価は出来る。

 ミシガン州在住のアダム・ニスカーは、勤め先の保険会社で実績を上げ、恋人のクリスとの結婚も間近で、立派な一軒家も手に入れてまさに人生は順風満帆だった。しかし新居を祝うパーティの最中に酔った弾みで池に頭から飛び込み、脊髄損傷で半身不随になってしまう。すべてが暗転した状況の中でアダムは自暴自棄になるが、家族やリハビリ施設の仲間、そして型破りなヘルパーらの支えにより徐々に自分を取り戻していく。



 同様のシチュエーションの映画は過去にいくらでもあるのだが、本作が特段優れているわけではない。そもそも、アダムの境遇は随分と恵まれている。クリスは離れてしまうが、元々有能なビジネスマンであった彼にはそれなりの蓄えがあり、元の上司からは復職を打診されたりする。両親は健在で経済面での不安は無く、兄は無能だが根は良い奴で決して主人公の足を引っ張ることはない。

 言い換えれば、これらの有利な条件の一つか二つ欠けるだけでもアダムの再起は困難になるのだ。いくら実話だと言っても、映画の内容としては普遍性に関して疑問が残る。筋書きは型通りで、ロシア系介護士のイフゲニアの思い切った言動こそ印象的だが、それ以外はあまり感心出来るところは無い。

 そういえばこの映画、製作年度こそ2020年だが、撮影は2010年に完了している。だから何となく新作として向き合うには不自然な雰囲気で、そもそもどうして10年ほども手付かずのままだったのか分からない。マイケル・アッペンダールの演出は可もなく不可もなしで、映像や作劇における特段の工夫も見受けられない。

 主役のアーロン・ポールは好演。脇にレナ・オリンやセリア・ウェストン、トム・サイズモア、トム・ベレンジャーらベテランや実力派を配し、クリス役のシャノン・ルシオはエロ可愛い(笑)。しかしながら映画のクォリティがイマイチなのでアピール度は高くない。それにしても、酒に酔って無鉄砲な行動に出るとロクなことにならないのは確かだ。気を付けねばならない。
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「窓辺にて」

2022-12-05 06:23:02 | 映画の感想(ま行)
 2時間23分という長尺ながら、退屈すること無く最後まで付き合えた。これはひとえに語り口の上手さによる。ストーリー自体は大きな盛り上がりは期待できず、登場人物も何やら煮え切らないキャラクターばかりだが、観る者の共感を呼ぶ内容にまで押し上げているのは、絵空事に終わらせない作者の確かな人間描写の賜物だ。本年度の日本映画の収穫である。

 フリーライターの市川茂巳は編集者である妻の紗衣と二人暮らしだが、実は紗衣が担当している若手作家と浮気していることに気付いている。しかし、なぜか彼はその一件に対して怒りも悲しみも湧いてこない。そんな自分に驚いてもいる。ある時、新人文学賞の授賞式の取材に出かけた茂巳は、ひょんなことで受賞者である女子高生作家の久保留亜と知り合うことになる。彼は留亜の受賞作「ラ・フランス」が気に入っており、小説の主人公にモデルがいるのなら是非とも会いたいと話す。



 留亜の著作の内容は詳述されていないが、どうやら登場人物は苦労して入手したものを呆気なく捨ててしまうという筋書きらしい。茂巳はその設定に自らの境遇に通じるものを感じたのだろうが、自分の内面をそう簡単に他者の心情に重ね合わせられるはずもない。しかしながら「ラ・フランス」のモデルと思しき留亜の周囲の者たちと触れ合ううちに、次第に“自分は自分でしかない”という普遍的な結論に近付いていく。

 茂巳の友人である有坂正嗣は、モデルの藤沢なつと不倫関係にある。そのため正嗣の家庭は修羅場になっているのだが、それも茂巳にとっては彼から見た“風景の一部”でしかない。実は茂巳はかつて小説を一冊上梓しており、ある程度の評判を得たのだが、それ以来書いていない。彼にとっては、すべてのことはその著作の中に置いてきたのだろう。いわば人生から“降りてしまった”主人公と、いまだ人生の現在進行形にある他の者たちとの対比を抑制されたタッチで綴ったのが、本作の身上だと言える。

 脚本も担当した今泉力哉の演出は冴えており、長回しを多用した静かな展開でありながら、気の利いたエピソードを連続させて飽きさせない。特に茂巳が初めてのパチンコ屋で戸惑う場面や、留亜とラブホテルに入り2人で延々とババ抜きに興じるシークエンスには笑った。主役の稲垣吾郎は好調で、彼もこういう優柔不断な中年男を違和感なく演じられるようになったのだ。

 若葉竜也に中村ゆり、志田未来、倉悠貴、穂志もえか、佐々木詩音、斉藤陽一郎など、キャストは皆良い仕事をしている。個人的に気に入ったのは留亜に扮した玉城ティナで、この年代の女優では屈指の個性派(≒変態派?)である彼女のキャリアを今後も追いかけたくなる。池永正二の音楽も適切で、四宮秀俊のカメラによる柔らかい画調も要チェックだ。
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「マイ・ボディガード」

2022-11-20 06:17:16 | 映画の感想(ま行)
 (原題:My Bodyguard)80年作品。教育現場ではいまだに深刻であるイジメ問題については、私はかねてよりイジメられた側は逃げるべきだとの意見を持っている。もちろん対策は個々のケースで打ち出すべきだが、まずはイジメの現場から離れることが肝要だ。しかし本作はアメリカ映画らしく、とにかくイジメには果敢に立ち向かえという主張を展開している。もちろんこのテーマ自体には賛成できない。だが、そこを観る側に気を使わせずにエンタテインメントとして昇華させているのは、映画としては評価すべきだろう。

 15歳のクリフォード・ピーチは、家庭の事情により私立高校からシカゴ市内の公立校に転校する。ところがそこはいわゆる“底辺校”で、不良どもがのさばっていた。さっそくクリフォードはリーダー格であるムーディとその子分どもに目をつけられ、イジメの標的にされてしまう。一計を案じた彼は、同じ学校の生徒で一匹狼のタフガイであるリッキー・リンダーマンにボディーガードになってくれるよう頼む。リッキーはかつて弟を射殺したという噂が流れており、ムーディたちもビビッて近付くことさえできない。はじめは断固として拒否していたリッキーだが、徐々にクリフォードに心を開いてゆく。



 リッキーの造形が秀逸だ。一見無口でガサツな大男ながら、内面は誰よりも繊細でデリケート。辛い過去を周囲の者たちに打ち明けられずに、結果として孤立を招いている。それが真剣に接してくるクリフォードに触発され、徐々に自身の人生に向き合うようになってくる過程には説得力がある。

 クリフォードは辛い立場に置かれるものの、逃げようとは微塵も思わない。他のイジメられっ子たちも同様で、泣き寝入りするどころか自らの境遇をジョークで笑い飛ばそうとする。やがてクリフォードは、リッキーの助けを借りずに自力で事態を打開しようと考える。現実にはそう上手く行くわけがないのだが、弱い者が友情を得て奮起し、堂々と戦いに挑むという娯楽映画のルーティンを踏襲しているために気にならない。

 トニー・ビルの演出は実に手堅く、しっかりとドラマを引っ張る。ナイーヴな持ち味のクリフォード役のクリス・メイクピースも良いのだが、やっぱリッキーに扮するアダム・ボールドウィンのパフォーマンスが目覚ましい。彼らがバイクで街を走るシーンは高揚感が横溢する。ムーディを演じるマット・ディロンの太々しさも特筆もので、彼のキャラクターはこの頃確立されたと言っても良い。

 ルース・ゴードンにジョン・ハウスマン、ジョーン・キューザックといった他のキャストも良い味を出しており、デビュー間もないジェニファー・ビールスが顔を出しているのは興味深い。音楽担当は名手デイヴ・グルーシンで、さすがのスコアを提供している。
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