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親父の目玉をアイバンクに提供してみる

2011年07月08日 | 雑記
【初回作成日:2011.8.13、最終改版日:2011.9.2】

 このエントリでは、(親父の意志というか遺志により)その眼球をアイバンクに提供したときの体験や感想を記載します。


1. アイバンクへの登録を決意するまで

2011年7月1日(金)

 この日横浜から福岡出張していた私は、余命少ない親父と週末を過ごすべく、その足で大分の実家に帰省。22時頃に最寄り駅に到着。普段は母(おかん)が向かえに来てくれることが多いのだが、おかんは現在病院に泊まり込みで親父の近くにいるため、今回は姉が向かえに来てくれる。
 そして実家に帰って一息ついたときに、次のようなことを言われる。

 「父ちゃんの財布から臓器提供意志表示カードが見つかった。実際に提供するかどうかは、長男であるあなたが考えなさい。」
と。


親父の財布から見つかった臓器提供意志表示カード(表)



親父の財布から見つかった臓器提供意志表示カード(裏)


 目の前に出されたボロっちいカードを見てみると、確かに12年前に親父とおかんが署名した臓器提供意志表示カードが。そういえば、自分も含めて家族揃ってこのカードを書いたなぁ…と、昔の記憶が甦ってきます。

 私自身は臓器提供には理解があり、「死んだ後だったら、使えるものは何でも使って構わんよ」という考えの持ち主。親父もそんなタイプで、意志表示カードには全部の臓器を提供しても構わない旨の記載がありました。

 本人がいいと思っているなら、迷うことなく提供すればいいじゃん…と思われるかもしれませんが、困ったのは親父が意思を表示したのは12年も前だという点。ひねくれ者の親父のことだから、「やっぱりやめた。あの世に行って目が見えないと困るから、目玉は取り出したりするな。」とか、今現在は思ってるかもしれません。

 親父にその意志を確認したいところですが、末期癌で強い苦痛のある親父は、苦痛が酷いときは(モルヒネ等の麻薬より強力な鎮痛作用のある)麻酔薬で眠っていることも多く、起きていても薬の影響でうまく意思疎通が取れないことも多くなっています。

 もしこのまま亡くなったら、提供するかどうかは自分で判断しなければなりません。激しく困ってしまいました。(;´Д`)

家族に意見を聞いてみたところ、
 ・おかん=「父ちゃんがよければ問題なし。好きにさせたって。」
 ・姉貴 =「どっちの結論でもよい。あんたが決めな。」
ということで、結局ボールは自分の手に戻ってくることに。

この日はいろいろ思い悩みながら就寝。



2011年7月2日(土)

 この日は親父が入院している病院で、家族揃っての説明を受ける。その中で、親父の余命はあと1週間持つか持たないかということや、亡くなった後の処置などについて説明を受ける。その打ち合わせの際に、先生に臓器提供意志表示カードのことを話すと

 「臓器提供は義務ではないので、ご家族でじっくり考えてください。ただし提供される際には、病院側もサポートします。この病院でも過去にアイバンクへ献眼した患者さんがいます。」

とのこと。そしてアイバンクに献眼するのであれば、
 ・事前にアイバンク協会に確認して欲しい点があること(後述)。

 ・普通であれば臨終後より直ちに実施するエンゼルケア(※補足1)は、献眼処置後に実施することになるので、親父と一緒に自宅に戻れる時間が遅くなってしまうこと。

に注意する必要があるとの説明を受ける。

※補足1: エンゼルケアについて
 エンゼルケアは、死後遺体を拭いたり、化粧をしたり、尻・耳・鼻の穴に詰め物をして体液が漏れないようにする作業のこと。看護師さんが行う。
 参考リンク: エンゼルケア (漂流生活的看護記録)


 その後、姉を病院に残して私とおかんは一旦自宅に戻るが、その間に姉が

 「こんなもの(意志表示カード)が出てきたけど、どけえすんのな?」

 と親父に対してダイレクトに確認。

 そうすると、この日体調が若干よかった親父は

 「死んだ後なら何やっても構わん。腎臓もやって構わんけど、癌治療の薬で傷んでるから、内臓は使えんやろうなあ。」

 と答えたとのこと。格好いいぜ、父ちゃん。(つД`)
 親父の意志が確認できたので、迷い無く、その旨をアイバンクへ伝えることに。


2. アイバンクへ連絡・登録してみる

2011年7月3日(日)

 この日の昼頃、アイバンクに連絡してみることに。ネットで調べると、アイバンクは各都道府県に事務所があって、詳しくは最寄りのアイバンクに問い合わせるとよいらしい。大半のアイバンクの事務所は、医師会や医科大学の中にあるっぽい。

<参考リンク>
 ・(財)日本アイバンク協会の公式サイト
 ・最寄りのアイバンク 連絡先一覧

 大分県では、医大(※補足2)の眼科が担当になっているとのこと。

※補足2:
  ここでいう“医大”とは大分大学医学部(旧大分医科大学)のこと。大分県人が単に「医大」というときは、デフォルトで旧挟間町にある元大分医大の医学部+付属病院を指す。(豆知識)


 早速大分のアイバンクに電話をかけ、単刀直入に「末期癌でそろそろ死にそうな親父が、アイバンクに目を提供したいと言っているのですが、どうすりゃええでしょうか?」と聞いたところ、とても申し訳なさそうに(丁寧に)対応をいただく。

 そのときの電話では、次のような内容の確認・連絡を行う。

【アイバンクから聞かれたこと・連絡事項】
 ・(ドナーになる予定の)親父の名前と年齢。

 ・家族の名前と連絡先。
   → とりあえずこのときは、姉の携帯を第一連絡先に指定。

 ・入院している病院と主治医名。
   → 「角膜移植に影響のある感染症にかかっていないか等を、事前に主治医に確認させて頂きます」とのこと。

 ・亡くなったときに連絡を頂ければ、直ちにスタッフ(医大の眼科医)が眼球の摘出にお伺いするとのこと。

 ・移植に使うのは角膜という目の表面の部分だが、移植準備の関係で眼球そのものを取り出す必要があるので、ご了承頂きたいとのこと。

 ・ただし眼球摘出後に義眼を入れるため、見た目は変わらないとのこと。

また、病院の先生から聞いておいてと言われた点について確認することに。

【病院の先生からアイバンクに確認しておいてと言われたこと(及びその回答)】
 ・Q: 亡くなった時間が夜間でも、アイバンクは対応できるか?
   → A: 24H体制なので対応可能。この電話にかけてもらえればOK。

 ・Q: 病院側で必要な手順等はあるか?
   → A: ドナー(遺族)側・病院側とも、特に対応不要。

 ・Q: 眼球摘出の所要時間はどのくらい?
   → A: 小一時間程度。場所は病院のベッドのままで可。

 ・Q: 連絡してからアイバンクの人が病院到着までに要する時間は?
   → A: 恐らく一時間程度、長くても2時間か。
      (ちなみに眼球摘出のタイムリミットは死後6時間程度らしい)

とのこと。事前登録はその場で完了。
この日は、その後福岡空港経由で帰京。



3. 親父が亡くなった当日の記録(献眼処理)

2011年7月5日(火)

 前日の夜遅くに親父が危篤との連絡を受けた私は、羽田を6時台に出発する始発便で再び大分へとんぼ返りすることに(横浜滞在時間、わずか1日半)。
 大分空港からレンタカーを借りて病院に直行した私は、9時半に病院に到着。病院到着時にはまだ息のあった親父も、家族や仲の良かった会社時代の同僚にワイワイがやがや見守られながら、ついに11:21に永眠。(T_T)

 亡くなった直後より、立ち会っていた人たちが一斉に親戚や関係各所に電話連絡を開始する中、いの一番に姉がアイバンクに連絡。到着予定等は、折り返しで連絡をもらうことになる。

 12:00頃より、看護婦さんと姉によるエンゼルケアを開始。ただしこのときは、これから目の手術を行う頸部より上の部分には手をつけず、体を拭いたり服を着せ替えたりするような作業を開始する。その後アイバンクより、12:45頃に病院に到着予定との連絡がある。

 そして12:35頃、予定より10分早くクーラーボックスを持ったアイバンクの担当者(医大の女医さん)1名が到着。これから親父の目玉を取り出して、あのボックスに入れて持ち帰るのかと思うと、あまり良い気はしなかった。

キャンパーズコレクションスーパークールボックス(37L) CC37L-DX ブルー
クリエーター情報なし
キャンパーズコレクション

 ↑クーラーボックスのイメージ (実際に女医さんが持っていたものは赤白系のもの)



親父が入院していた207号個室。ここで眼球の摘出が行われる。

 アイバンクの人が来たので、エンゼルケアを行っていた看護婦さんには一旦退席いただき、女医さん+私+姉でこれから行う作業の説明を受ける。

 はじめに献眼いただけることへの感謝のお言葉があり、続いて同意書等への署名を行う。署名した紙は3枚あり、1枚は献眼への同意書、1枚は葬儀の際にアイバンクからの献花を希望するかどうかの紙、もう1枚は失念。

 希望すれば目玉を取り出す作業を見学できたかもしれないが、さすがに自重。その間家族はラウンジで待機するが、葬儀屋への連絡とかで忙しい状態。そうしているうちに献眼処理は13:35には完了。(予定通り1時間弱で完了)

 献眼処理の終わった親父の顔を見ると、下まぶたのところにちょっとした縫合後の傷(しわ)と凹みがあったものの、目立たないレベル。

「目玉を取り出した後、見られないような顔になっていたらどうしよう」

と危惧していたものの、このレベルであったら全然大丈夫。
 その後親父は、中断していたエンゼルケアの続きを受けるが、シャンプーし、髭を剃り、顔のマッサージを受け(これで目元のしわが取れたらしい)、さらにたっぷり時間をかけてメイクされた親父は、「目の手術した」と聞かされなければ、全く気付かないレベルの元の顔に復帰。これで一安心。

 その後、病院の人のお見送りを受け、自宅を経由して葬祭場に入る。この日は線香番の姉の旦那を残して、自宅に引き上げる。


4. 親父の通夜と葬式の記録

2011年7月6日(水)

 この日はお通夜の日。午前中に納棺を行う。アイバンク関係のイベントでは、アイバンクから姉の携帯に葬祭場の場所や通夜・葬儀日程に関する確認の電話が入る。夕方の通夜が始まる頃までには大分県のアイバンク協会よりお花が届けられる。


アイバンクからのお花1


アイバンクからのお花2

 通夜のお参りに来て、親父の顔を見ようとする人には、
 「きれいな目してるだろ、義眼入れてるんだぜ、それ」

 といってアイバンクに目玉を提供したことを説明する。(※補足3)

※補足3: 実際の口調とは多少異なる場合があります。


2011年7月7日(木)

 この日は葬儀の日。葬儀は13時開催であり、11時過ぎより葬祭場の人と式の段取り確認を行う。
その際に
 ・葬儀の10分前(12:50)よりアイバンクからの感謝状贈呈が行われる
 ・葬儀中、アイバンクからの弔辞がある
との説明を受ける。

そして祭壇の横に2つの感謝状が置かれ、予定通り葬儀前に感謝状贈呈式が行われる。


2つの感謝状(県知事とアイバンクから)

 そして13時より葬儀(お坊さんの読経)が開始され、焼香後の弔辞にて、大分県知事の代理の方から弔辞が読み上げられる。その中で
 ・親父の目は、まもなく医大で2名に移植される予定
 ・厚生労働省からも感謝状が贈られる予定
とのことも取り上げられる。ちょっとびっくり。

※ ちなみにアイバンクからのお香典はありません。香典をもらったら金で目を売ったように邪推される恐れがあるので、当然と言えば当然ですが。

 こうして葬儀は無事に終わり、火葬・初七日法要・取り上げ(食事会)を経て、長い一日が終了。



5. その後

2011年7月15日(金)

アイバンクの方に、葬儀への参列&お花をいただいた件の御礼の電話を入れる。その際にダメ元で

「葬儀の弔辞の中で、親父の目がまもなく移植に使われるって聞いたのですが、その結果はどうでしたでしょうか?」

 と聞いてみたところ、確認して折り返しで連絡をくれるとのこと。
そしてしばらくしてアイバンクより連絡があり、
 ・親父の目は60代の男性と70代の女性に移植され、手術は無事終了。現在はその経過待ちになっている。

 ・執刀医の先生曰く、「きれいな角膜でした」とのこと。

 とりあえず親父の目が無事に使えたということで、送り出した方としてもとても嬉しく感じる。やったぜ、親父! いいことやったぜ、親父!


2011年8月上旬

 実家にアイバンクの方から「初盆を前に」ということで、ろうそくとお線香のセットが届く。また葬儀の際に話のあった、厚生労働大臣からの感謝状も届く。それと一緒に入っていたお手紙によると、親父の角膜の移植を受けた人は、無事に目が見えるようになったとのこと。本当によかったです。(´∀`)



6. ドナーの家族になってみた感想(全体を通して)

・アイバンクに献眼するということは、肉親の体の一部を切り取る (今回は目玉をえぐり出す)ということですが、死んだ後とはいえ、身内がそのようなことをされることに、拒否感が無いと言ったらウソになるかと思います。
 ※ 「想像したら負け」な部分も多いですが。

・遺族としては、なるべく綺麗な(生前と変わらない)格好で故人を送り出したいとの思いがあります。そのため今回、献眼する際に一番恐れていたことは「献眼後、見るに堪えない姿になったらどうしよう」ということでした。しかしそれは杞憂であることが判って、安心しました。

・親父の目が他の方に移植されたことにより、親父の一部が今でもどこかで生きているのかと思うと、とても嬉しい気持ちになります。親父の目を受け取った方には、退職後の楽しい時間を満足に過ごすことが出来なかった親父の分だけ、その目にいい光景をみさせてあげて欲しいと考えることしきりです。

・臓器提供に関しては、「どうせ死んだら2日後には骨になってしまうのだから、使えるものがあれば、それを必要とする人に回してあげてもいいんじゃないの?」という考えは、親父が病気になる以前から持っているのですが、その思いは特に葬儀と火葬が終わって一息ついてから、さらに強く感じるようになりました。

 前述の通り、亡くなった直後は「親父の体の一部を切り取る」ことに若干の拒否感があったのですが、火葬が終わって骨の欠片になって骨壺の中に入った親父を見てると、親父の生きた体の一部をこの世に残せてよかったと思います。

・今回、親父の目玉を提供したことについての家族の考えは、
   「とってもいいことをした。やってよかった。」
 の一点のみ。これは全員一致で、自信を持って言えます。

・うちのおかんは、(新しく切り替わった国保の保険証の裏にある)臓器提供の意思表示欄に迷い無く丸を付けて、おいらの署名を求めてきました。おいらもレーシック手術を受けてしまった身ですが、もしこの目が使えるのなら親父と同じように使って欲しいと思います。



7. 献眼後の見た目について(詳細)

 これからアイバンクへの献眼を考えている方は、やはり術後の見た目が気になると思いますので、参考までにうちの親父がどうであったかの詳細を記載します。

(1) 献眼処置の直後について
 前述の通り、下まぶたのところにちょっとした縫合後の傷(しわ)と凹みができていました。目立たないレベルではありますが、死んだ直後と比べるとさすがに違いは分かる状態です。
 そのときの写真(目の周りの周辺)がありますので、見たい方はどうぞ。グロ画像ではありませんが、一応死体写真の一部なので閲覧注意ということで。リンクは貼らず、URLのみ晒します。
 http://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6e/c2/e91a581b8fc2cd231b83d0e9cf6477d5.jpg


(2) 見た目の回復について
 こちらも前述の通り、献眼処置が終わった後で顔や目の周りをマッサージしてあげると、しわが取れて見た目は本当に通常に近い状態に戻りました。そしてまぶたを閉じてあげると、献眼したことは判らなくなります。

 親父の目は翌日の通夜の頃までは閉じていたのですが、その後時間が経つに連れて、薄目が開くようになってきました…。そうなってくると義眼の瞳が見えてくるのですが、義眼は良くできていて、ぱっと見た感じでは、本物の目と全然区別が付きませんでした。

 ちなみにWikipediaで義眼の項目を見てみると、アイバンク用には装着感を考慮せず、燃える素材で出来た義眼が使われているとのこと。なるほど。



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アイバンクへの挑戦
坪田 一男
中央公論社


超入門 眼科手術基本術式50 DVD付
クリエーター情報なし
メディカ出版


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2 コメント

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なるほど。 (みかん)
2012-03-05 00:59:27
今まで、目だけは提供するのやだなと思っていたけど、考えが変わりました。
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Unknown (Unknown)
2020-05-22 14:23:04
涙がでました。記録ありがとうございます。
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