環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

菅直人新首相は、所信表明演説で「環境問題」について、何を語るか

2010-06-07 07:22:44 | 政治/行政/地方分権
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6月2日の鳩山由紀夫首相の辞任を受け、一連の党内手続きを経て、6月4日の衆参両院の本会議で菅直人・副総理兼財務相が第94代首相に指名されました。新首相の「今後の主な政治日程」では、7日に「新首相の所信表明演説」が行われる(?マーク付き)で報じられています。

私は、2001年の小泉純一郎首相から、安倍晋太郎首相、福田康夫首相、麻生太郎首相(以上は自民党政権)と民主党政権の鳩山由紀夫前首相の「所信表明演説」とそれに続く「施政方針演説」に示される「環境問題に対する認識」に期待し、そしてその結果にことごとく失望してきました。

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「所信表明演説」と「施政方針演説」(2007-10-03)

日本の社会を構成する「主なプレーヤー」の問題点(2)2000年以降の首相の「環境問題に対する認識」(2008-09-29)


とはいえ、まもなく衆参両議院で行われる予定の菅新首相の「所信表明演説」に、もう一度期待をかけ、注目したいと思います。

そこで今日は、2001年の小泉首相から2009年の鳩山首相までの歴代の首相が首相に指名されたときに行った「所信表明演説」とその後に首相として行った「施政方針演説」で何を語ったのか確認しておきましょう。

●小泉純一郎元首相
2001年5月7日の小泉首相の所信表明演説(米100表の精神)、9月27日に2回目の所信表明演説

2002年2月4日の小泉首相の施政方針演説

●安倍晋三元首相
2006年9月29日の所信表明演説が示す安倍首相の「環境認識」

2007年1月26日の安倍首相の施政方針演説

2007年9月10日の安倍首相の所信表明演説 ハイリゲンダム 美しい星50

●福田康夫元首相
2007年10月1日の福田新首相の所信表明演説  なんと「持続可能社会」が4回も登場

混迷する日本⑤ 福田首相の施政方針演説: 「持続可能な社会」はどこへ行ったのか?

●麻生太郎元首相
2008年9月29日の「所信表明演説」

●鳩山由紀夫前首相
第173回臨時国会招集 鳩山首相の所信表明演説(2009年10月26日)

21世紀のキーワード 「持続可能な」 が、出てこない約1万3600字の 「鳩山首相の施政方針演説」



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「鳩山首相の施政方針演説」と「持続可能な国づくりの会の理念とビジョン」の共通認識

2010-02-03 19:01:14 | 政治/行政/地方分権
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 1月30日のブログで、首相主導で練り上げたと言われる1万3600字におよぶ「鳩山首相の施政方針演説」に「持続可能性」(Sustainability)という21世紀のキーワード がまったく登場しなかったことを指摘しました。

 今回の鳩山首相の施政方針演説は、自民党政権下の歴代の首相演説と比べると、非常に型破りで新鮮ですので、これまでの発想や考え方や判断基準では「理念先行」とか「演説の中で『いのち』を24回も連発した」などと、揶揄せざるをえないのかもしれませんが、首相は、この演説の中で「私は、来年度予算を『いのちを守る予算』に転向しました。」とまで語り、演説の一貫性を整えているようですので、私は評価したいと思います。その内容が十分かどうかは大いに議論の余地がありますが。

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「所信表明演説」と「施政方針演説」(2007-10-03)  



 施政方針演説は「①はじめに」で「いのちを、守りたい。いのちを守りたいと願うのです」と始まっています。守りたい「いのち」は次のようです。

●生まれくるいのち、そして、育ちゆくいのちを守りたい。
●働くいのちを守りたい。
●高齢者のいのちを守りたい。
●世界のいのちを守りたい。
●地球のいのちを守りたい。

 それぞれの「いのち」に説明があり地球のいのちの説明には、なんと「この宇宙が生成して137億年、地球が誕生して46億年。その長い時間軸から見れば、人類が生まれ、そして文明生活をおくれるようになった、いわゆる『人間圏』ができたこの1万年はごく短い時間に過ぎません。しかし、この短時間の中で、私たちは、地球の時間を驚くべき速度で早送りして、資源を浪費し、地球環境を大きく破壊し、生態系にかってない激変を加えています。・・・・・」と続きます。ここに鳩山首相の「世界観(コスモロジー)」が見えてきます。この認識は「環境問題の本質」を理解する上で非常に重要な視点で、目の前に山積する問題の解決に終始する傾向が強い日本の政治家の中で極めてまれな政治的資質だと思います。

 この記述によって、私たちの会「持続可能な国づくりの会」は首相/政権与党と21世紀のあるべき日本の姿を議論するときの大前提で、「共通認識」を共有できる(あるいは、できている)のかもしれないという淡い期待を感じます。この共通認識こそ、私たちが提唱してする「エコロジカルな持続可能性」(Ecological Sustainability)であり、国際社会が模索している「エコロジカルに持続可能な社会」の基盤だと思うのです。ですから、この「①はじめに」の項に(あるいは別の項でもよいのですが)明確に「持続可能な」という言葉が登場してほしかったのです。

 「②目指すべき日本のあり方」では、インドのマハトマ・ガンジー師が、80数年前に記したとされる「7つの社会的大罪」に触れておられます。

●「理念なき政治」
●「労働なき冨」
●「良心なき快楽」
●「人格なき教育」
●「道徳なき商業」
●「人間性なき科学」、そして
●「犠牲なき宗教」

 そして、 「まさに、今の日本と世界が抱える諸問題を、鋭く言い当てているのではないでしょうか」と述べておられます。この部分は、私たちの会が提唱する日本の「エコロジカルに持続可能な社会」の社会的側面に対応するといってよいでしょう。

 続く、「③人のいのちを守るために」、「④危機を好機に-フロンティアを切り開く」、「⑤課題解決に向けた責任ある政治」、「⑥世界に新たな価値観を発信する日本」では、前述の「②目指すべき日本のあり方」とあいまって「日本が直面している解決すべき課題」と「日本がめざすべき社会の社会的側面および経済的側面」について語られているようです。そして、「⑦むすび」では、「人のいのちを守る政治、この理念を実行に移すときです。子どもたちに幸福な社会を、未来にかけがえのない地球を引き継いでいかねばなりません。・・・・・」と述べられています。この「⑦むすび」に示された認識も私たちの会は共有しています。 

 そこで、もう一度、私たちの会の「理念とビジョン」に掲げた次の図を見ていただきたいと思います。


 「協力社会で8つの安心!」の8番に「豊かな自然と平和の永続という安心」とありますが、この8番目の柱が中央に位置し、しかも、他の7つの柱より太くなっていることにお気づきになりましたか。この柱こそ、人を含めた生態系の「いのちの持続性」を支える最も重要な要因「環境の持続性」なのです。鳩山首相のおっしゃる「地球のいのち」と置き換えてもよいでしょう。

 私たちの会が提唱した「エコロジカルに持続可能な社会」の概念の源は、1987年4月に国連の「環境と開発に関する世界委員会」(WCED、通称ブルントラント委員会)が提唱した「持続可能な開発」(Sustainable Development)で、1992年の地球サミットで合意され、国際社会でも認識されている概念です。

 「持続可能な開発」という概念が公表された当時から90年代半ばにかけて、国内外で多くの議論があり、この概念に様々な解釈が生まれました。意外に知られていないのですが、この概念はもともとスウェーデン発の概念なのです。スウェーデンと日本のこの概念に対する解釈は大きく異なっています。スウェーデンが考える「持続可能な開発」とは社会の開発であって、日本が考える経済の開発、経済の発展、あるいは、経済の成長ではないのです。このことは次の図で明らかでしょう。 



最近では、「循環型社会」に加えて「低炭素社会」という十分議論されていない概念がマスメディアに頻繁に登場します。

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21世紀前半にめざすべき「持続可能な社会」の構築への法体系が未整備な日本(2007-12-19)


 私たちの会が「21世紀の日本の望ましい社会の構築」の参考になると考え、検証したスウェーデンの「エコロジカルに持続可能な社会」は、スウェーデンでは「緑の福祉国家」と表現されています。スウェーデンでは、「20世紀の福祉国家」から「21世紀の緑の福祉国家」への転換計画(1996年に始まり、2025年を目標年度とする野心的な国家の近代化計画)が、ほぼ順調にその中間点まで来ました。スウェーデンが考える「緑の福祉国家」には、

①社会的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
②経済的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
③環境的側面(環境を大切にする社会であるための必要条件)

の3つの側面があります。スウェーデンは20世紀に「福祉国家」を実現したことによって、これら3つの側面のうち、「人間を大切にする社会であるための必要条件」つまり「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。

 90年代には、21世紀前半社会を意識して、1999年の「年金制度改革」(「給付建て賦課方式」から「拠出建て賦課方式」への転換)をはじめとするさまざまな社会的側面の変革が行なわれました。

 経済的側面では、1970年以降、「エネルギー成長」および「CO2の排出総量」を抑えて経済成長(GDPの成長)を達成してきました。

 環境的側面とは、「エコロジカルに持続可能かどうか」ですが、この点では、スウェーデンは世界の最先端を行っているとはいえ、まだ十分ではありません。20世紀後半に表面化した環境問題が、「福祉国家の持続性」を阻むからです。そこで、21世紀前半のビジョンである「緑の福祉国家の実現」には、環境的側面にこれまで以上に政治的力点が置かれることになります。

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 このように見てくると、1万3600字におよぶ鳩山首相の施政方針演説に盛り込まれた「日本とスウェーデンに共通する個別の課題の大部分」は、すでにスウェーデンでは解決済みですからスウェーデンの考え方や解決方法を真剣に検証することによって、「日本の向かうべき方向性」がかなり明らかになってくると思います。目標が定まれば、その目標を達成するために、現状からの道筋を考えることになります。簡単に言えば、これが「バックキャスト的手法」です。ここに、政治のリーダーシップと優秀な官僚との協力関係(コラボという言葉が大好きな方は多いと思います)が必要になります。

 まったくの偶然だと思いますが、現在、発売中の雑誌「財界」(2010年2月9日号)のインタビュー記事で、経済学者の神野直彦さんが「スウェーデンなどの北欧の福祉経済学に学ぶべき点は多い。しかし今こそ日本独自の経済モデルをつくる時」とおっしゃっています。



 私もその通りだと思います。このことを私の言葉で表現すれば、次のようになります。
 

 「日本のこれからを議論する手がかり」として、そして、「エコロジカルに持続可能な社会の方向性を知る手がかり」として、「持続可能な国づくりの会」がまとめた「理念とビジョン」がきっと皆さんのお役に立てると思います。

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 そして、最近、次のような記事もありましたね。

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ついに、あの中谷さんも、あの竹中さんも「北欧の成長戦略に学べ!」と、???(2010-01-05)

         
 

21世紀のキーワード 「持続可能な」 が、出てこない約1万3600字の 「鳩山首相の施政方針演説」

2010-01-30 16:41:29 | 政治/行政/地方分権
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 鳩山首相が1月29日、衆参両院で初めての「施政方針演説」を行いました。私はテレビでこの演説を聞き、今日、1月30日の毎日新聞朝刊に掲載された鳩山首相の施政方針演説の全文を熟読しました。


 ネット上には、この施政方針演説に対する賛否両論が様々なレベルで渦巻いていますが、私が一つだけ注目していたことを、今日は書いておきます。おそらくほとんどの方が意識していないでしょうから。

 私は最近、鳩山政権への期待を込めて、次のブログを書きました。

●民主党政権誕生から4ヶ月、「現状追認主義の国」から抜け出すには?(2010-01-20)

●期待される「日本の鳩山政権の21世紀ビジョン」はどのようなものか(2010-01-21)

●持続可能な国づくりの会の理念とビジョン「協力社会で8つの安心!」が完成(2010-01-22)


 この3つのブログに共通するのは21世紀のキーワード「持続可能性」(Sustainability)という言葉です。私は1月22日のブログで、私たちが考える「日本がめざすべき21世紀の社会の理念とビジョン」をアップしておりましたので、1月29日に行われた鳩山首相の施政方針演説に大いに期待していました。

 「いのちを、守りたい。いのちを守りたいと、願うのです。」という「はじめに」で始まり、「いのちを守りたい」で始まる「むすび」で終わる約1万3600字の施政方針演説に21世紀のキーワード「持続可能な」(Sustainable)という言葉 が一言も出てきませんでした。

 自民党政権時代の施政方針演説づくりは各省からあがってきた短冊形の原稿をつなぎ合わせてつくる「ホチキス」と呼ばれる手法でつくるのが恒例だったと朝日新聞は解説していますが、今回、各省庁の関与を排してつくられた演説草稿をベースとして、26日の閣議で各閣僚に担当分野に関する部分だけ書かれた紙が渡され、平野官房長官が「修正点があれば回答を」と指示したと朝日新聞に報じられていますが、そうであれば、首相も、官房長官も、各閣僚も「持続可能な」という21世紀のキーワードに気づかなかったか、もともと、この政権の閣僚を務めている政治家の誰もにその認識がなかったのかもしれません。私が見落としたのであればよいのですが。

 このことをあえて政党レベルにあてはめてみますと、民主党、連立内閣である社民党(福島瑞穂大臣)および国民新党(亀井静香大臣)、ついでに言うならば、自民党の場合には小泉政権の下で2005年11月22日に採択した「新綱領」の中にただ一言「持続可能な社会保障制度の確立を」というのがあるだけです。「持続可能な」という言葉は、2010年1月24日に採択された自民党の「平成22年(2010年)党綱領」にも登場しません。その他の政党のリーダーの認識はどうなのでしょうか?

 マスメディアにも、そのような基本的な視点や認識が欠けているように思います。

 ちなみに、2009年10月26日に行われた鳩山首相の「所信表明演説」にも「持続的成長」という言葉が1カ所出てくるだけですから、もともと認識がないのかもしれません。 


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「所信表明演説」と「施政方針演説」(2007-10-03)  



期待される 「日本の鳩山政権の21世紀ビジョン」 はどのようなものか?

2010-01-21 12:32:09 | 政治/行政/地方分権
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私の基本認識では、日本は「現実主義の国」ではなく、「現状追認主義の国」だと思います。現状認識が十分でないと、21世紀のビジョンをつくるに当たっても、また、それを検討、あるいは、批判/反論する場合にも十分な議論ができず、方向を誤る危険もあります。

私は新政権の「21世紀の新しいビジョン」に期待しつつ、2000年から2010年までの10年間に私が理解している現状認識を明らかにしておきます。スウェーデンという実在する国の「考えと行動」と日本の状況を比較することによって議論がしやすくなると思います。

今日は次の3つの図を提供します。それぞれの方の置かれた立場、判断基準の相違によって、考え方に相違があるのは当然ことです。これらの図に示された情報はあくまで私個人の認識であり、見解であることをご理解下さい。

最初の図は、5年前の2005年に作成したものですが、5年後の今もまったく変わりません。

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経済成長は最も重要な目標か(2007-03-19)

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次の図も2005年に作成したものですが、この認識も修正する必要はないでしょう。小泉政権に続く、安倍政権、福田政権、そして麻生政権もニュアンスに違いはあるものの、とにかく、GDPの成長をめざしているからです。


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GDP 20年後にはトップ10「福田版」構造改革 来春策定へ(朝日新聞 2008年8月26日)






スウェーデンと日本の「持続可能な」という言葉の使い方の相違に注目して下さい。

最後の図で、スウェーデンと日本の21世紀前半のめざす目標(エコロジカルに持続可能な社会の構築vs持続的な経済成長)が決定的に異なっていることがおわかりいただけるでしょう。ポイントは「Sustainable Development」(持続可能な開発)というキーワードです。

スウェーデンが考える「持続可能な開発」とは「社会の開発」であって、日本が考える「経済の開発、発展、あるいは、成長」ではありません。このことは、1996年のスウェーデンの首相の施政方針演説の中の次の表現で明らかです。

Sustainable development in the broad sense is defined as community development that “meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs”. 

ここでは、「広義の持続可能な開発とは、将来世代が彼らの必要を満たす能力を損なうことなく、現世代の必要を満たす社会の開発」と定義されています。繰り返しますが、重要なことは「社会の開発」であって、日本が理解した「経済の開発、経済の発展や経済の成長」ではないことです。資源・エネルギーへの配慮を欠いた経済成長は「社会」や「環境」を破壊する可能性が高いからです。

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緑の福祉国家2 なぜスウェーデンに注目するのか(2007-01-12)

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さらに、2005年以降になりますと、2006年頃から日本では「低炭素社会」という妙な概念が登場し、ここ数年の間に見事なまでに日本社会に定着してしましました。この変化のきっかけをつくったのは福田首相だと思います。21世紀に日本がめざす社会は「低炭素社会」ではなくて「低エネルギー社会」、さらに言えば「エコロジカルに持続可能な社会」のはずです。誤った概念の普及は日本の社会を誤った方向に導くことになるでしょう。低炭素社会の構築のために、「原子力ルネッサンスだ!」などという発想は誤った考えだと思います。

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民主党政権誕生から4ヶ月、 「現状追認主義の国」 から抜け出すには?

2010-01-20 21:34:23 | 政治/行政/地方分権
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このところ、10年前の2000年と10年後の2010年、つまり、この10年間で「環境問題に対する基本的な認識」が国民の各セクター(学生、政策担当者、企業、一般市民)であまり変わっていないのではないかという私の個人的な印象を書いてきました。

民主党政権発足から4ヶ月が経ち、民主党政権による初めての通常国会が一昨日(18日)開会しました。昨日は衆議院で代表質問が、今日は参議院で代表質問が行われました。6月16日の会期末まで建設的な議論が展開されるのを大いに期待しますが、私は日本が向かうべき中長期の方向性に関する議論に関心があります。会期中にどの程度の議論がなされるのでしょうか。

私が特に「持続可能性(Sustainability」という概念を強く意識したのは、「このまま行けば、2010年は混乱、2050年は大混乱!」という図を作成した2000年頃でした。当時の状況を私の観察と私の環境論で判断した結果、次の図のような結論に達しました。



その頃に読んだ、竹中さんの一般向けの書籍「経世済民 経済戦略会議の180日」(ダイヤモンド社 1999年3月)、「ソフト・パワー経済」(PHP研究所 1999年12月)や「強い日本の創り方」(PHP研究所 2001年 4月)に私は強いショックを受けました。経済学者(エコノミスト)の21世紀論には、「エネルギー・環境問題」の視点がほとんど欠落しているのではないかと。であるなら、経済と環境問題の関係などは理解しがたいのではないか、環境問題の本質は理解できないのではないか、ましてや、「持続可能性」の概念などは・・・・・
2つの図を示します。



竹中さんの21世紀論は、エネルギー・環境問題に対する基本認識が極めて不十分という点で、問題は大きいと思いますが、次の2つは中谷さんと竹中さんの共著「ITパワー」(PHP研究所 2000年3月)に示された日本社会の問題点で、私もその通りだと思います。




そして、これらの状況を意識しながら、私の環境論に沿って書いた本が「安心と安全の国づくりとは、何か スウェーデンに学ぶ持続可能な社会」(朝日選書792 2006年2月)でした。この時以来、私の「持続可能性」(Sustainability)に関する関心はますます高まっています。

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ついに、あの中谷さんも、竹中さんも「北欧の成長戦略に学べ」と ???(2010-01-05)

10年前に考えた「このまま行けば、2010年は混乱、2050年は大混乱?」、 その年がやって来た 

2010-01-01 14:26:54 | 政治/行政/地方分権
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皆さん、明けましておめでとうございます。
心機一転のために、テンプレートを変えてみました。

私が10年前の2000年に考えた「このまま行けば、2010年は混乱、2050年は大混乱?」、その最初の年「2010年」がやってきました。そこで今日は、このブログにも何回か登場させた次の図から始めましょう。



私はこの図を2000年に作成したのですが、現在すでに国内外で経済、政治、社会、軍事、環境問題など難しい問題が山積しており、混乱の予兆が見え始めて来たように見えます。米国では昨年1月にオバマ大統領が登場し、政権が交代しました。日本でも8月30日に総選挙が行われ、民主党が大勝し、政権交代が行われました。また12月にはデンマークのコペンハーゲンで「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15」が開催され、結果は必ずしも満足のいくものではありませんでした。

この図は「将来を決めるのは誰か」を考えるとき重要な図です。2000年に生まれた赤ん坊は生きているかぎり、2050年には50歳になります。同じように、20歳の大学生は70歳に、50歳の人は100歳になります。このように考えれば、「明日の社会の方向を決めるのは今を生きる私たちだけだ」という至極当然のことが理解できるでしょう。

とくに日本ではいまなお、60歳以上の人たちが、社会のさまざまな問題に対して政治的、行政的、企業的な将来の決定を行なっている現状を思い起こす必要があります。その意味で、「日本の団塊の世代」は未来に対して大変な責任を負っていることになります。   

政治の分野では、先の長くない政治家が、およそ60年前につくられた古い法的枠組みのなかで「20世紀型の経済の拡大志向の考え」をほとんど変えることなく、20世紀の手法であった「フォアキャスト的手法」 で21世紀前半社会の方向づけをしているのが現状です。そして、これまでの日本の制度では、政策をリードしてきた官僚は数年で別の部署に異動し、政策決定の責任を追及されないのです。

このような状況は、民主党政権が登場したことで改革される期待が高まってはいますが、具体的な成果が目に見えるようになるまでにはさらなる時間が必要とされます。
 
関連記事
あれから40年、2010年は混乱か?-その1(2009-04-09)

あれから40年、2010年は混乱か?-その2(2009-04-10)

あれから40年、2010年は混乱か?-その3(2009-04-11)

あれから40年、2010年は混乱か?-その4 デニス・メドウスさん vs 茅陽一さん(2009-05-01)


今日、1月1日の朝日新聞は「社会は動く 世界と 日本前へ」という連載をスタートさせるそうですが、今日の記事の中に、日本の人口構成を示す図があります。この図は私の図を補うのに役立ちますので(特に、団塊の世代と団塊ジュニアの人口)、利用させていただきましょう。



また、今日の朝日新聞には「どうなる? 鳩山政権 2010年大予想」という記事もあります。

 ●どうなる? 鳩山政権 2010年大予想
   献金疑惑 国会大荒れ
   米に“辺野古はNO”
   内閣にトロイカ結集
   消費税・自衛隊で賭
   怒る社民 連立離脱か
   持論の改憲へ第一歩


21世紀に国際社会がめざすべき社会はここ数年、日本のマスメディアに頻繁に登場するようになってきた「低炭素社会」ではなく、「低エネルギー社会」であり、さらに言えば国内外共に「(エコロジカルに)持続可能な社会」であるはずです。その構築には日本が慣れ親しんでいる伝統的な「フォアキャスト的手法」ではなく、「バックキャスト的手法」が有効だと考えられます。

関連記事
低炭素社会は日本の政治主導による「持続可能な社会」の矮小化か?(2009-01-12)

混迷する日本⑥福田首相の変心? 「持続可能な社会」から「低炭素社会」へ転換(2009-01-20)

「混迷する日本」を「明るい日本」にするために(2009-01-13)
 

世界経済は、資源の制約とエネルギーの制約、そして環境の制約から、否応なしに「規模の拡大」から「規模の適正化」へ段階的に転換していかなければならないのだと思いますが、皆さんはどうお考えですか。
  
関連記事
「現行の経済成長」は50年後も可能か(2007-02-23)
 

朝日新聞の2010年大予想がどの程度的中するか、私が想定した2010年混乱(もちろんここでは混乱の始まりですが)がどの程度になるのか、2011年に向けて新しい、厳しい年が始まりました。2008年の今年の漢字は「変」、2009年は「新」ですので、必然的に2010年は「乱」ではないでしょうか。



第173回国会(臨時国会)が閉幕、成立した法案は?

2009-12-05 12:29:59 | 政治/行政/地方分権
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鳩山政権にとって初舞台となった第173回国会(臨時国会)は10月26日に招集され、会期を4日延長して、12月4日に閉会しました。 成立した法案は次のとおりです。



この図からおわかりのように、国会に提出された15本法案のうち、10本が「改正法」であることがわかります。つまり、これらの改正法はいずれも、現状に適応できなくなった古い法律を現状に適応できるように改正されたのです。法律の趣旨は20世紀の発想をそのまま引きずっている法律ですので、改正しないよりはましということです。

関連記事  
21日の衆院解散で通常国会は閉幕、その成果は?  成立した法律は、廃案となった法案は?(2009-07-22)



第173回臨時国会招集 鳩山首相の所信表明演説

2009-10-26 21:36:18 | 政治/行政/地方分権
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鳩山政権にとって論戦の初舞台となる第173回臨時国会が、2009年10月26日に招集されました。鳩山由紀夫首相は本会議で所信表明演説を行いました。記録のために、全文を保存しておきます。

鳩山由紀夫首相の所信表明演説(全文)


私の期待に反して、この所信表明演説では21世紀のキーワードである「持続可能性」(Sustainability)という概念がまったく登場しません。わずかに「持続的な成長」というような言葉が「四 人間のための経済へ」という節でたった1カ所出てくるだけです。

また私が懸念している「低炭素社会」という日本の概念が「五 『架け橋』としての日本」という節に「世界規模での『環境と経済の両立』の実現、『低炭素型社会』への転換に貢献して参ります。」という文脈で、ここ1カ所だけ登場します。

鳩山首相の所信表明演説が「持続可能性」という21世紀のキーワードにまったく触れていない点は失望ですが、「一 はじめに」の「戦後行政の大掃除」の項と「六 むすび」の「これまで量的な成長を追い求めてきた日本が、従来の発想のまま成熟から衰退への路をたどるのか、それとも、新たな志と構想力を持って、成熟の先の新たなる飛躍と充実の路を見いだしていくのか、今、その選択の岐路に立っているのです。」という記述に大きな期待を込めて、来年1月の通常国会の冒頭に行われる「施政方針演説」を待つことにします。





政治が決めるこれからの50年:日本とスウェーデンの「将来像」と「展望」

2009-09-20 17:29:54 | 政治/行政/地方分権
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9月17日に、鳩山内閣が発足しました。同日の日本経済新聞が「経済教室」の紙面で湯元健治さん(日本総合研究所理事)による「スウェーデンモデルの核心学べ 安心確保 活力と両立を」と題する論説を掲げましたので、昨日のブログで紹介しました。日本とスウェーデンの現実の相違に驚かれた方が多かったと思います。

今日は、私が2000年に考えていた「両国の将来像と展望」を記しておきましょう.総選挙で圧勝した民主党の鳩山内閣の今後に期待が持てると思うからです。内閣発足後わずか3日しか経っておりませんが、この間のめざましい行動に期待が深まります。


 
数年前までは選挙の争点にもならなかった日本の「環境問題」の議論も、民主党政権下では主要な政治課題になってきました10月の臨時国会での鳩山首相の所信表明演説が待たれます。 

関連記事
日本の社会を構成する主なプレーヤーの問題点(2) 2000年以降の首相の「環境問題に対する認識」(2008-09-29)





政治が本来の力を取り戻せば、次は市民、ジャーナリズム、企業の意識改革が必要です。


上の2つの図に示したような2000年当時の認識に基づいて、私は2006年2月に朝日新聞社から『スウェーデンに学ぶ持続可能な社会』(朝日選書 792)を刊行しました。おかげさまでこの本は8月に4刷りとなりました。

夏休みも終わりましたので、久しぶりにふとネット散歩に出かけました。そして、私のこの本に関するブログを見つけました。
発売以来3年半以上経ったこの本を取り上げて下さったのは、50代の車関係の国際ビジネスマンの方です。およそ40日前の8月14日のブログです。

小澤徳太郎『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』を読む(2009-08-14) 

「環境にやさしいことを、自分が毎日できることからはじめようね」という行為は、心の善的レベルで肯定され、総量でCO2削減目標に達成できなくても、「やるだけやったんだから、仕方ないね。まあ、水に流して、また明日からがんばればいいさ」と言ってもよいことが事前に決まっているということになります。したがって、本書を読んで、この小澤徳太郎氏がストレスフルな日々を送っていることは想像に難くない。自然科学者を叩き、経済学者を叩き、それこそもぐら叩きのような思いをもって、日本で環境論を語っているのでしょう。が、著者は2050年に「また、明日からがんばればいいさ」の明日がないかもしれないことに警笛を鳴らしています。

 『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』(2009-08-14)

小澤氏は「スウェーデンを真似しろとは言っていない」と盛んに書いています。「スウェーデン? 人口と経済規模が全然違うじゃない。そんな国をモデルにしろなんて非現実的」という反論を何千回も聞かされた人ならではの防御だと思いますが、ぼくは環境論のまったくの素人ながら、こと環境論のかなりの部分については、スウェーデンモデルを真似ることを厭わない「勇気」が必要かもしれないなと漠然とした印象をもっています。だから、文化的解決が非常に重要になります。



関連記事
混迷する日本」を「明かるい日本」にするために(2009-01-13) 




日本経済新聞 「経済教室」 スウェーデンモデルの核心学べ 安心確保 活力と両立を

2009-09-19 20:03:28 | 政治/行政/地方分権
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9月17日に、鳩山内閣が発足しました。民主、社民、国民新党の連立政権で、選挙による非自民政権の誕生は1993年の細川政権以来、16年ぶりだそうです。この日の日本経済新聞の「経済教室」には湯元健治さん(日本総合研究所理事、07年7月から09年8月まで内閣府大臣官房審議官)による、次のような論説が掲げられています。



この論説の中で、湯元さんはまったく触れておりませんが、湯元さんがここにお書きになったことは、1996年に当時の社民党政権が21世紀前半のビジョンとして掲げた、2025年を目標年次とする 「緑の福祉国家 (エコロジカルに持続可能な社会) の実現」 の経済的側面および社会的側面の 「現状とそこに至るまでの進化の過程」 を分析した論説だと、私は理解しています。

関連記事
エコロジカルに持続可能な社会「緑の福祉国家」の3つの側面(2008-12-23) 



詳しくは湯浅さんの論説をお読みいただくとして、今日はこの論説の中にでてくる 「比較的新しい視点」 を紹介しましょう。この論説は、この分野の門外漢である私にとっては難解な記述が多く、また新しい発見もありますので、私が過去に書いた関連記事を添えることで、皆さんの理解と疑問が一歩深まれば幸いです。なお、①~⑨の小見出しは、読者の皆さんのために、私が勝手につけたものです。  


①日本の一般的な認識
高福祉は高負担を通じて企業の国際競争力を弱め、国民生活をも貧しいものにしてしまう―。わが国ではこうした認識が一般的であろう。厳しい国際競争にさらされる企業経営者にとって、先進国の中で最高水準の法人税負担に加え、高福祉国家に向け今以上の負担がのしかかれば、日本を逃げ出すしかあるまい

関連記事
危機の時代、どうする日本 スウェーデン型社会という解答(2008-12-17) 


②「高い経済競争力」と「高い国民負担率」を両立させる秘訣は
一方、高福祉で有名なスウェーデンは、今年の世界経済フォーラムの世界競争力ランキングで4位(日本は8位)である。国民負担率70%を超える高負担率と高い競争力を両立させる、「スウェーデンパラドックス」ともいえる状況は、なぜ可能なのか。

関連記事
世界経済フォーラムが2009年の「経済競争力ランキング」を発表、スウェーデン4位、日本8位(2009-09-08) 

日本の国づくりの議論を混乱させる2つの指標 「国民負担率」と「環境効率」(2007-03-16)  



③スウェーデンは「厳しい資本主義競争社会」
パラドックスを解く鍵は、同国が一般のイメージと異なり倒産も解雇も当たり前に生じる厳しい資本主義競争社会である点にある。企業は、原材料を調達するのと同じ感覚で労働者を雇用し生産活動を行っている。

関連記事
フィランソロピー、メセナ、そしてCSR(2007-03-25)


④企業の負担
企業は社会保険料負担が高い半面、労働者には賃金しか支払わず、仕事がなくなれば即座に解雇する。その賃金には日本のような通勤手当も扶養手当も年功序列の昇給も含まれない。病気で休めば2週間後から給与がカットされ疾病保険の支払義務も国に移る。企業の健康保険組合もなく、ブルーカラーの解雇については退職金も支払わない。


⑤同一労働・同一賃金が実現されており、最低賃金法はない
スウェーデンにおける賃金は、日本の非正規労働者に対する賃金と同じように考えられよう。つまりその賃金体系は、連帯賃金政策と呼ばれる政策の下で企業の生産性格差にかかわらず同じ職種なら賃金が同じという「同一労働・同一賃金」が実現している。最低賃金法は存在しないが、こうした連帯賃金政策で賃金格差は極めて小さい。


⑥日本とほとんど変わらない企業が支払う「労働コスト」 

スウェーデンの高福祉を支えている高負担の内訳を見てみよう。法人税負担は26.3%とわが国の39.5%より格段に低いが、企業は赤字でも支払賃金の31.4%もの社会保険料を払っている。日本の3倍近い重さだが、年功序列賃金や退職金負担などがないため、スウェーデン企業の労働コスト(賃金+福利厚生費+税・社会保険料負担)は意外なことに、日本より若干高いが、ほぼ同水準であり(図)、国際的に見ても高くない。



関連記事
緑の福祉国家21 税制の改革② バッズ課税・グッヅ減税の原則


⑦日本の生活保護法が求めるような「資力調査」はない
社会保障は、一般的な国民の誰もが直面するリスクへの備えという考え方がベースにあるため、その受給に際しては低所得かどうかをチェックするミーンズテスト(資力調査)は行われない。スウェーデンの競争的な社会、産業構造と社会保障制度は、一朝にしてできたわけではない。かつて食糧難と飢餓に悩まされた同国は19世紀の終わりから急速な工業化の過程で急激な出生率の低下に直面した。その時採られた少子化対策が、所得再配分を目的とする貧困対策ではないと位置付けられ、ミーンズテストの排除を原則としたことが今日の制度の原点となった。



関連記事
進化してきた福祉国家⑦ 他の先進工業国の「福祉(政策)」との質的相違(2007-08-29) 


⑧1951年の「連帯賃金政策」が企業の生産性向上、国際競争力の強化へ貢献
こうした歴史を持つスウェーデンにおいて戦後1946年に成立した社会民主党のエルランデル内閣が、51年に採用したのが前述した連帯賃金政策であった。これは同時期に英国の労働党がとった基幹産業の国有化政策とは対照的な政策で、企業の生産性向上や国際競争力の強化につながり、60年の1人当たり国民所得は米国に次ぐまでになった。同年に4.2%の税率で導入されたのが今日25%の付加価値税である。

関連記事
緑の福祉国家20 税制の改革① 課税対象の転換へ(2007-04-20) 


⑨当初の批判を現実の政策で一変
厳しい競争の結果出てくる失業者に対し、積極的労働市場で対応するとの考え方について、当初は人々を従来の生活基盤から切り離し転職を強制する非人間的発想の政策だと非難された。しかし、その後のスウェーデンの現実が評価を一変させた。それは、人々を職歴・学歴の拘束や失業の恐怖から解放する「人間中心」の政策だと見なされるようになったのである。


⑩高福祉を支える最大の財源は地方所得税
スウェーデンの高福祉を支える最大の財源である地方所得税は、住民に身近な地方機会で議論、決定される。これが、同国における高福祉に伴う高負担を自らの選択として人々に受容させる大きな要因となっている。今日のわが国では残念ながら地方税が地方議会で議論されるという当たり前のことが行われていない。受益の対価である負担を国民の選択の自由と責任に委ねる仕組みこそが政府への信頼を生み、安心と活力の両立を可能にするのである。
 
 関連記事
国と地方の役割分担①(2007-12-17) 
 
国と地方の役割分担② 主役の変更:国から地方へ(2007-12-18) 

もう1つのスウェーデンに学べ 「地方財政の進路選ぶ地図」(2008-12-27)  


湯元さんはこの論説の最後を「試行錯誤しながらも市場原理を福祉国家の内部に取り込み、活力と安心を両立させているスウェーデン社会の仕組みを正しく理解することは、今後の新政権による政策運営を考える上で参考になろう」と結んでいます。私もその通りだと思います。


      
 

鳩山内閣 始動  「脱官僚 今こそ実践」

2009-09-17 13:11:49 | 政治/行政/地方分権
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ついに、鳩山内閣が9月16日夜、発足しました。民主党、社民党、国民新党の3党連立政権で、選挙による非自民党政権の誕生は1993年の細川護煕政権以来、16年ぶりだそうです。

期待と不安が交錯する報道がマスメディアを通じておもしろおかしく報道されていますが、ここでは、毎日新聞が報じる事実だけを将来の議論のために、保存しておきます。

毎日新聞 2009年9月17日

●鳩山内閣始動 「脱官僚 今こそ実践」(一面トップ)

●鳩山内閣 2009年9月16日認証

民主党政権交代の最大テーマ: 「官僚主導の政治」 から 「政治主導の政治」 へ

2009-09-16 20:45:32 | 政治/行政/地方分権
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2週間前の衆院選挙で、自民党が大惨敗。1995年11月に結党され、今日までの54年間、ほんの一時期(93年8月から10ヶ月間)を除き、政権政党であり続けた自民党の大敗北です。圧倒的多数で戦後初の本格的政権交代を果たした民主党の最大のテーマは「官僚主導の政治」から「政治主導の政治」への転換でした。

行政には「総合性」、「整合性」、「柔軟性」、「継続性」などが要求されますが、日本は「官僚主導の政府」ですので、よく言われるように行政組織は、いわゆる「縦割り行政」です。ですから、「総合性」、「整合性」、「柔軟性」に欠ける傾向があります。ただ、「継続性」だけはありました。その結果 “困った状態” が今なお継続しているのです。

関連記事
日本の社会を構成する「主なプレーヤー」の問題点(4)官僚と縦割り行政(2008-10-11)  



本来、行政の最も重要なことは「継続性」ですから、「継続性」があって、しかもスウェーデンのように、政治主導の政府で「総合性」も「整合性」も「柔軟性」もあることが望ましいのですけれども、日本はそうではありませんでした。



民主党は、「官僚主導の政治」から「政治主導の政治」への転換に当たって、議会制民主主義の大先輩の英国の制度に学んだようです。そして、民主党が掲げたマニフェストの重要項目「年金制度の変革」では、スウェーデンの制度に学んだようです。私は議会制民主主義の制度についても、9月13日のブログ「複雑な問題への対処の仕方」で紹介したスウェーデンから学ぶ点がもっと多くあると思っています。

関連記事
なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう① 国民の意識と民主主義の成熟度(2007-08-18)

なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう② ひと味違う「フロンティア国家」(2007-08-19)

なぜ、先駆的な試みを実践し、世界に発信できるのだろう③ 国の方向を決めた政治的選択(2007-08-25) 




2007年に英国の雑誌『エコノミスト』の専門組織が行った調査の結果が参考になるかも知れません。スウェーデンと英国の落差にご注目下さい。また、この調査結果は日本のほうが英国よりも上位にあることを示しています。



関連記事
EIUの民主主義指標 成熟度が高い民主主義国の1位はスウェーデン(2007-08-18)     



 

「複雑な問題への対処の仕方」の相違  スウェーデン vs 日本

2009-09-13 10:19:38 | 政治/行政/地方分権
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この図は1995年に私がある講演のために考えて、つくったものです。じっくり見て考えて下さい。およそ15年前につくったものを、今日のブログのトップに載せることになるとは昨日まで想像だにしませんでした。

関連記事
社会的な合意形成⑥ 科学者と政治家の役割(2007-03-05) 




今朝の朝日新聞を開いて大変立派な記事を見つけ、うれしくなりました。私がつくった図自体は自明のことだと思いますのでとくに私の説明はいらないと思います。この図で私がお伝えしたかったことを日本の第一線の若手官僚の方が見事に解説してくださっているように思えるからです

私の説明のかわりに、経産省の課長補佐の朝比奈一郎さんのお考えをご覧下さい。


じっくりと朝比奈さんのお考えを読み、日本の将来を考える手がかりをつかんでいただきたいと思います。

  
関連記事
日本の社会を構成する「主なプレーヤー」の問題点(4) 官僚と縦割り行政(2008-10-11) 

日本の社会を構成する「主なプレーヤー」の問題点(1) 科学者や研究者の専門家(2008-09-28) 

再び「科学者」と「政治家」の役割(2007-11-29)

十分に資料価値がある朝日の「にっぽんの争点」、14回シリーズ

2009-09-09 09:57:19 | 政治/行政/地方分権
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8月30日の総選挙の日まで「政権交代」に期待を込めて(?)、全国紙や週刊誌が競って選挙関連の特集記事を掲載しました。内容はまさに玉石混淆、何を取り上げ、何を捨てるかは読者の判断基準にまかされています。

「政権選択」がかかる総選挙まであと2週間に迫った8月16日から、朝日新聞は14回にわたって「自民、民主両党を中心とした各党のマニフェスト」を個別の政策ごとに検証する特集を始めました。この企画はとにかく、混迷する大量情報社会の中で「私の問題意識」を整理し、考える基本的な材料を提供してくれた大変よい企画だったと思います。

総選挙で「308対119」で圧勝し、「政権交代」を現実のものとした民主党によるこれからの日本の将来を議論し検証する際に、この14回にわたる「にっぽんの争点」は資料的価値が十分にあると判断しましたので、全14回のテーマをまとめておきます。それぞれのテーマは「どう違うの」、「実現できるの」、「それでもわからん!」という3つの部分からなっています。「実現できるの」という部分に問題解決の難しさが表れていますし、「それでもわからん!」という部分に本質的な問題提起がなされているように思います。


「09政権選択」 にっぽんの争点

①財源   消費増税か 予算見直しか(2009-08-16)
 どう違うの
 実現できるの:民主「9.1兆円削減」  自民「年2%成長」  根拠、甘い読み
 それでもわからん!

②子育て  新「手当」か 幼児無償化か(2009-08-18)
 どう違うの
 実現できるの:少子化 欠ける具体策
 それでもわからん!

③年金   「10年加入」か 一元化か(2009-08-19)
 どう違うの
 実現できるの:負担・給付見えぬ詰め
 それでもわからん!

④医療   「後期高齢」維持か 廃止か(2009-08-20)
 どう違うの
 実現できるの:避けられない財政負担 それでもわからん!

⑤景気対策 企業が先か 家計に分配か(2009-08-21)
 どう違うの
 実現できるの:長期戦略ともに抽象的 それでもわからん!

⑥雇用   派遣規制 日雇いだけか(2009-08-22)
 どう違うの
 実現できるの:働き方・機会兼ね合いは
 それでもわからん! 

⑦政と官 政治家主導か 官僚頼みか(2009-08-23)
 どう違うの
 実現できるの:議員の力量・連携カギ
 それでもわからん!

⑧国と地方 「分権」一色 表現には差(2009-08-24)
 どう違うの
 実現できるの:やる気・やり方 不透明
 それでもわからん
 
⑨公共事業 再び推進か 1.3兆円削減か(2009-08-25)
 どう違うの
 実現できるの:地方圧迫なら反発必至
 それでもわからん!

⑩農業   所得補償か 減反・転作か
 どう違うの
 実現できるの:競争力高める策に弱点
 それでもわからん!

⑪科学技術 行政一元化か 実績強調か(2009-08-27)
 どう違うの
 実現できるの:省庁の壁崩す人材は?
 それでもわからん!
⑫環境  実現性か 削減目標優先か(2009-08-28)
 どう違うの
 実現できるの:企業や家庭は負担増に
 それでもわからん!

⑬外交安保 対米「連携」か 「間合い」か(2009-08-29)
 どう違うの
 実現できるの:主張と現実の差
 それでもわからん!

⑭総集編 公約 有権者に届いたか(2009-08-30)
 暮らし・財源 論戦の軸    「まず交代」 かすむ政策
それでもわからん!
 

これら14のテーマの下に展開された議論はすべて、 2007年1月1日に開設した「私のブログのテーマ」である     
   「経済」 「福祉(社会)」 「環境」、不安の根っこは同じだ!
   「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ


の枠組みの主な構成要素であることがおわかりいただけるでしょう。つまり、日本とスウェーデンの両国の間には「この14のテーマ」について大きな落差があるということです。その具体的な事例はすでにこのブログでも数多く書いてきました。


つまり、この14の解決すべき日本の課題のすべてについて、スウェーデンではすでに、概ね、うまく対応できているということです。その相違は「民主主義の成熟度」の問題、具体的には、それに基づいて築かれた「社会システム(制度)」の相違によるものだと思います。 




追記

上の記事に、isoroku-hitosiさんからコメントをいただきましたので、「追加」として、私が2007年7月15日に書いた記事を参照していただくようコメントしました。しかし、この記事は2年以上前の記事ですので、当時は正しい理解であっても、現在も正しいとは限りません。その後議論を深めて民主党は、図中のA案(カナダ方式、スウェーデンの旧制度)ではなくて、B案(スウェーデン方式、スウェーデンの新制度)に近い考えを選択したようです。

そこで、最新の情報として、2週間前(8月30日)に行われた総選挙の民主党のマニフェストの18ページの「3.年金・医療」の項に書かれていることを記しておきます。


18.一元化で公平な年金制度へ

【政策目的】

○公的年金制度に対する国民の信頼を回復する。
○雇用の流動化など時代に合った年金制度、透明で分かりやすい年金制度をつくる。
○月額7万円以上の年金を受給できる年金制度をつくり、高齢期の生活の安定、現役時代の安心感を高める。

【具体策】

○以下を骨格とする年金制度創設のための法律を平成25年までに成立させる。

<年金制度の骨格>

○全ての人が同じ年金制度に加入し、職業を移動しても面倒な手続きが不要となるように、年金制度を例外なく一元化する。
○全ての人が「所得が同じなら、同じ保険料」を負担し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得比例年金」を創設する。
○所得税を財源とする「最低保障年金」を創設し、全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする。「所得比例年金」を一定額額以上受給できる人には、「最低保障年金」を減額する。

以 上

2009年9月13日 追記




総選挙の機会に改めて確認した民主党の「歩み、ロゴマーク、2010年解党宣言、当選者の政策位置」

2009-09-01 20:58:49 | 政治/行政/地方分権
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今日、9月1日から気分転換の意味でブログのテンプレートを変えてみました。



ついに、日本の政治にも大きな転換期がきたからです。私がこのブログを始めた2007年の最初のころに、次のような記事を書きました。

    ●「明日の方向」を決めるのは私たちだけだ(2007-01-04)

    ●政治が決める「これからの50年」(2007-01-05)


8月30日の総選挙の開票結果が31日に判明し、「民主308、自民119」で政権交代となりました。選挙結果の報道に集中した昨日の報道とは対照的に、今日の朝日新聞(2009年9月1日)には政権交代にかかわる背景記事が数多く掲載されています。

これらの中から、私にとって興味深く、また資料的価値があるものをこのブログに残しておきます。「民主党の歩み」、「民主党のロゴマークの意味するところ」、「96年の旧民主党結成時に当時の鳩山代表が示した2010年解党宣言」、および「朝日と東大の共同調査:当選者の政策位置および05年衆院選挙からの政党の変化」です。



民主党の歩み、民主党のロゴマーク、民主党の2010年解党宣言




民主党のロゴマーク

私はこれまで民主党のロゴマークを注視したことはありませんでしたが、今回改めて拡大してみると意外にも上のように円ではないことがはっきりします。 これほどの深い意味があったとは(ここをクリック)!



当選者の政策位置および05年衆院選挙からの政党の変化