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混迷する日本⑤ 福田首相の施政方針演説: 「持続可能社会」はどこへ行ったのか?

2008-01-19 18:52:46 | 政治/行政/地方分権
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昨日、私は福田首相の施政方針演説をテレビで注意深く聞きました。首相が21世紀のキーワードである「あの言葉」を何回とり上げ、どのような文脈で説明するかを期待しながら・・・・

ところが、私の期待はまったく裏切られ、この演説の中でこの言葉は1回も聞かれませんでした。聞き洩らしたのかと思い、新聞で確認するとあろうことか一言も使われていないことがわかりました。その代り、異なる概念の言葉が5回も使われていました。私が期待した言葉というのは「持続可能(な)社会」という言葉で、概念が異なる言葉とは「低炭素社会」という言葉です。

そこで、今日もまた、私の環境論の根底にある「今日の決断が将来を原則的に決める」という経験則について、勉強することにしましょう。教材はもちろん昨日の朝日新聞夕刊に掲載された首相の施政方針演説(全文)です。



赤の網をかけた部分は環境問題に関する部分(「低炭素社会への転換」の部分は後で拡大して示します)です。小泉首相の施政方針演説所信表明演説、そして安倍首相の施政方針演説所信表明演説の中の「環境やエネルギー」に比べると、今回の福田首相の施政方針演説では「環境やエネルギー」の登場する頻度が高いことがわかります。水色の網をかけた部分は「持続可能」という言葉を示しています。「持続可能」という言葉は「社会保障制度の持続性」と「持続的な経済成長」というように、限定的に使われています。青の網をかけた部分が「低炭素社会」という言葉です。5回出てきます。私が期待していた21世紀にめざすべき新しい社会の方向性としての「持続可能(な)社会」という言葉はゼロ福田首相の10月1日の所信表明演説では4回も登場したというのに・・・・


次に「低炭素社会への転換」の部分を拡大します。

最初に赤の網をかけた部分「地球環境問題は21世紀の人類にとって最も深刻な課題です」とあり、私の基本認識と一致します。私の知る限り、このように述べたのは公式の演説では福田首相が初めてではないでしょうか。「我が国が有する世界最高水準の環境関連技術」という言葉には異論がありますが、青の網を掛けましたように、4か所に「低炭素社会」という言葉が出てきます。しかし、「低炭素社会とはどのようなものなのか、どうすれば実現できるのかなどをわかりやすくお示しできるよう、有識者による環境問題に関する懇談会を開催することとしています」と述べていますので、「低炭素社会」という極めて新しい概念がまだ出来上がっていないことを示唆しています。

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皆さんはお気づきになったでしょうか。新聞一面を覆い尽くすおよそ1万2000字のこの演説の中に一言も出てこなかったのは「持続可能な社会」だけではありません。日本のマスメディアや環境NPOが大好きな「循環型社会」という言葉もまったく出てこないのです。

次の図をご覧ください。

福田首相はこのような図があるのをご存知ないのでしょうか。福田首相の施政方針演説の草案作成にかかわった側近の政治家、官僚、学者はいかがでしょう。10月1日の福田首相の所信表明演説で、福田首相は「持続可能社会」を4回も繰り返しました。この図にははっきりと、 「21世紀環境立国戦略に示された統合的取り組みの概念」 (私はこの図の表現がよくないと思います。図だけが一人歩きしますと誤解を招きそうな気がします)とあります。 

日本は現在の「持続不可能な社会」を「持続可能な社会」へ転換していかなければなりません。ですから、この図を私の環境論からあえて好意的に解釈すれば、 「持続可能な社会」が21世紀にめざすべき社会であって、持続可能な社会は低炭素社会的側面(地球温暖化への対応のために化石燃料の消費量を抑えた社会)とか循環型社会的側面(廃棄物の排出が少ない社会)とか自然共生社会的側面(自然が豊かな社会)の3つの側面のからなっていると解釈すべきなのです。そのように理解すれば、福田首相の「低炭素社会」は持続可能な社会の一成分である低炭素社会的側面に重点をおくということになります。福田首相は「循環型社会や自然共生型社会の側面はすでにこれまでに手がつけられている、だから、低炭素社会の側面は自分がやらなければいけない」とお考えなのかも知れませんね。

でも私には、このような発想で「持続可能な社会」が構築されるとは思えません。「持続可能な社会は3つの側面を持っている、だから、それぞれ3つの側面が完成すれば、持続可能な社会が完成する」という考えは20世紀の伝統的な考えであるフォアキャスト的な考え方です。21世紀に有効なバックキャスト的な考え方では、先に「持続可能な社会の望ましい姿」を描きます。そして、望ましい姿を描いたら、それを実現するために「低炭素社会」の側面はどうするべきか、つまり、どのようなエネルギー体系に変えなければならないのか、「循環型社会」の側面は、つまり、生産物はすべて廃棄物になるのですからどのような産業構造に変えなければならないのか、そして、「自然共生社会」の側面は、つまり、どのような生態系を維持すれば私たちの生活の安全と安心が守られるのかを考えることになります。

このようにフォアキャスト的発想でつくる「持続可能な社会」とバックキャスト的発想でつくる「持続可能な社会」とはまったく完成図が異なるはずです。フォアキャストでつくった「持続可能な社会」は、その意図するところと違って、「持続不可能な社会」である可能性が高いことになるかもしれません。

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福田首相は、安倍前首相が掲げた「21世紀環境立国戦略」はしばらく棚上げ、あるいは放り出してしまったのでしょうか。私にはこの国はますます混乱するばかりに思えてなりません。皆さんはいかがですか。




昨日の福田首相の施政方針演説に示された決断が将来の日本の状況を原則的に決めてしまうというのが、私の環境論の経験則です。21日から始まる国会の代表質問で、与野党の質問者が昨年10月1日の福田首相の所信表明演説と今回の施政方針演説の相違を詰めることができるかどうかが私にとっては関心のあるところですが、与野党の関心は別のところにあるのでしょう。
 


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