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日本経済新聞 「経済教室」 スウェーデンモデルの核心学べ 安心確保 活力と両立を

2009-09-19 20:03:28 | 政治/行政/地方分権
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9月17日に、鳩山内閣が発足しました。民主、社民、国民新党の連立政権で、選挙による非自民政権の誕生は1993年の細川政権以来、16年ぶりだそうです。この日の日本経済新聞の「経済教室」には湯元健治さん(日本総合研究所理事、07年7月から09年8月まで内閣府大臣官房審議官)による、次のような論説が掲げられています。



この論説の中で、湯元さんはまったく触れておりませんが、湯元さんがここにお書きになったことは、1996年に当時の社民党政権が21世紀前半のビジョンとして掲げた、2025年を目標年次とする 「緑の福祉国家 (エコロジカルに持続可能な社会) の実現」 の経済的側面および社会的側面の 「現状とそこに至るまでの進化の過程」 を分析した論説だと、私は理解しています。

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詳しくは湯浅さんの論説をお読みいただくとして、今日はこの論説の中にでてくる 「比較的新しい視点」 を紹介しましょう。この論説は、この分野の門外漢である私にとっては難解な記述が多く、また新しい発見もありますので、私が過去に書いた関連記事を添えることで、皆さんの理解と疑問が一歩深まれば幸いです。なお、①~⑨の小見出しは、読者の皆さんのために、私が勝手につけたものです。  


①日本の一般的な認識
高福祉は高負担を通じて企業の国際競争力を弱め、国民生活をも貧しいものにしてしまう―。わが国ではこうした認識が一般的であろう。厳しい国際競争にさらされる企業経営者にとって、先進国の中で最高水準の法人税負担に加え、高福祉国家に向け今以上の負担がのしかかれば、日本を逃げ出すしかあるまい

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②「高い経済競争力」と「高い国民負担率」を両立させる秘訣は
一方、高福祉で有名なスウェーデンは、今年の世界経済フォーラムの世界競争力ランキングで4位(日本は8位)である。国民負担率70%を超える高負担率と高い競争力を両立させる、「スウェーデンパラドックス」ともいえる状況は、なぜ可能なのか。

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③スウェーデンは「厳しい資本主義競争社会」
パラドックスを解く鍵は、同国が一般のイメージと異なり倒産も解雇も当たり前に生じる厳しい資本主義競争社会である点にある。企業は、原材料を調達するのと同じ感覚で労働者を雇用し生産活動を行っている。

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④企業の負担
企業は社会保険料負担が高い半面、労働者には賃金しか支払わず、仕事がなくなれば即座に解雇する。その賃金には日本のような通勤手当も扶養手当も年功序列の昇給も含まれない。病気で休めば2週間後から給与がカットされ疾病保険の支払義務も国に移る。企業の健康保険組合もなく、ブルーカラーの解雇については退職金も支払わない。


⑤同一労働・同一賃金が実現されており、最低賃金法はない
スウェーデンにおける賃金は、日本の非正規労働者に対する賃金と同じように考えられよう。つまりその賃金体系は、連帯賃金政策と呼ばれる政策の下で企業の生産性格差にかかわらず同じ職種なら賃金が同じという「同一労働・同一賃金」が実現している。最低賃金法は存在しないが、こうした連帯賃金政策で賃金格差は極めて小さい。


⑥日本とほとんど変わらない企業が支払う「労働コスト」 

スウェーデンの高福祉を支えている高負担の内訳を見てみよう。法人税負担は26.3%とわが国の39.5%より格段に低いが、企業は赤字でも支払賃金の31.4%もの社会保険料を払っている。日本の3倍近い重さだが、年功序列賃金や退職金負担などがないため、スウェーデン企業の労働コスト(賃金+福利厚生費+税・社会保険料負担)は意外なことに、日本より若干高いが、ほぼ同水準であり(図)、国際的に見ても高くない。



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⑦日本の生活保護法が求めるような「資力調査」はない
社会保障は、一般的な国民の誰もが直面するリスクへの備えという考え方がベースにあるため、その受給に際しては低所得かどうかをチェックするミーンズテスト(資力調査)は行われない。スウェーデンの競争的な社会、産業構造と社会保障制度は、一朝にしてできたわけではない。かつて食糧難と飢餓に悩まされた同国は19世紀の終わりから急速な工業化の過程で急激な出生率の低下に直面した。その時採られた少子化対策が、所得再配分を目的とする貧困対策ではないと位置付けられ、ミーンズテストの排除を原則としたことが今日の制度の原点となった。



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⑧1951年の「連帯賃金政策」が企業の生産性向上、国際競争力の強化へ貢献
こうした歴史を持つスウェーデンにおいて戦後1946年に成立した社会民主党のエルランデル内閣が、51年に採用したのが前述した連帯賃金政策であった。これは同時期に英国の労働党がとった基幹産業の国有化政策とは対照的な政策で、企業の生産性向上や国際競争力の強化につながり、60年の1人当たり国民所得は米国に次ぐまでになった。同年に4.2%の税率で導入されたのが今日25%の付加価値税である。

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⑨当初の批判を現実の政策で一変
厳しい競争の結果出てくる失業者に対し、積極的労働市場で対応するとの考え方について、当初は人々を従来の生活基盤から切り離し転職を強制する非人間的発想の政策だと非難された。しかし、その後のスウェーデンの現実が評価を一変させた。それは、人々を職歴・学歴の拘束や失業の恐怖から解放する「人間中心」の政策だと見なされるようになったのである。


⑩高福祉を支える最大の財源は地方所得税
スウェーデンの高福祉を支える最大の財源である地方所得税は、住民に身近な地方機会で議論、決定される。これが、同国における高福祉に伴う高負担を自らの選択として人々に受容させる大きな要因となっている。今日のわが国では残念ながら地方税が地方議会で議論されるという当たり前のことが行われていない。受益の対価である負担を国民の選択の自由と責任に委ねる仕組みこそが政府への信頼を生み、安心と活力の両立を可能にするのである。
 
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湯元さんはこの論説の最後を「試行錯誤しながらも市場原理を福祉国家の内部に取り込み、活力と安心を両立させているスウェーデン社会の仕組みを正しく理解することは、今後の新政権による政策運営を考える上で参考になろう」と結んでいます。私もその通りだと思います。


      
 

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