「 その店はバス停前にあった。私は学校の帰りに少し遠まわりして、その店に寄りキャロットケーキを食べるのを日課としていた。特にここのキャロットケーキがおいしいわけではなかったけど。アーリーアメリカンっぽいこの店の雰囲気が好きだし、BGMに流れるギルバート・オサリバンの “ アローン・アゲイン ” がとても気に入っていた。 」
「 お店の名前が “ バスストップカフェ ” というのもおかしい。バス停が移転したらお店の名前、どうするのかしら。その辺の無造作なネーミングを考えたこの店のオーナー … 。私は、この人が一番好き。とにかくカッコいい。無口で優しそうでシブくて、私は、この中年に恋していた。 」 「 二杯目のコーヒーは必ずサービスしてくれたし、私にはとっても居心地のいい空間だった。明日もその次の日も、私にはそれが永久に続く楽しい日々のように思われた … 。 」
矢島正雄・作、弘兼憲史・画 『 人間交差点 25 』 ( 1990年 ㈱小学館発行 ) の 「 バス停 」 の書き出しである。ストーリーは主人公が高校生の頃通ったカフェのマスターの思い出から始まる。時が経ち、OLとなった彼女は恋人に去られ失意の人になったが、思い出のカフェ 「 バスストップ 」 が売りに出されていることを知る。彼女は、かつてのマスターがそうであったように自分の人生を取り戻すために、カフェを始めるのだった。かつてのカフェ 「 バスストップ 」 がそうであったように、思い悩む人のための居心地いい空間なのであった。彼女もまたそういう人のためにも貯金と退職金をはたくのである。
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