母を向かえに

2018-09-14 | 日記

        

        

午後5時前の帰り道で撮ったもので、上の写真は菅畑の集落(遠く守門岳の頂きが雲で隠れている)で、下は夕陽の落ちる栃堀高徳寺集落で、その奥の山並の上には厚い雲がかかる。やはり雲の裂目からは光が差しているのが何だか有難い。稲刈りももうそろそろ終わりになってきたから、周りの風景ももうじき寂しくなるのである、間近に冬がやって来る。夕方、母を病院に定期健診のために連れて行かなければならなかったから、用を早めに切り上げてこの帰路の時間になったのである。そして終業間際の病院の待合いで僕は文庫本を読む。病院での待ち時間ほどMOTTAINAIものはないから、僕は本を読んでいる。今日は柳田国男著『 野草雑記・野鳥雑記 』(岩波文庫版) を持っていった。

鳥が我々の前に来て最も自由に物を言う動物であることは、恐らくは昔話の特に彼等のためにいつまでも成長した理由の一つであろう。昔話の管理者はかなり久しい以前から、老人とその孫たちであった。そうして彼等にはまた昔話の、時刻というものがあったらしいのである。椰子の葉蔭に横たわって日を過ごす人々は別として、働かねばならぬ温帯の国の田舎では、日の夕暮はただこれ等の人々にのみ寂しかった。兄姉はまだ野仕事から還らず、母は勝手元に火焚き水汲みまたは片付け物に屈託をしている間、省みられざる者は土間の猫鶏、それから窓に立ち軒の柱にもたれて、雲や丘の樹の取留めもない景色を、眺めていることの出来る人たちであった。年寄りがいなければ子供仲間で、物蔭を怖れて遠くへは行かずに、心ばかりを誰よりも自由に、働かそうとしたのもこの時刻であった。(以下略)

とても胸打たれる一文であったのである。夕暮れの「寂しい時間」は弟妹の心を成長さす「時刻」であった。夕暮れはこの「取留めもない」大切な時間なのである。

 


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2 コメント

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初出本を (水馬亭)
2018-09-15 10:02:15
柳田国男の「野草&野鳥雑記」の初出本を持っています。野草、野鳥雑記はそれぞれ分冊製本、しかもうれしいことに文庫サイズで和紙貼りの函入でシックな仕上がりです。最近寝転んでの読書が多いので、軽い本は大好きで「野草&野鳥雑記」には得難い軽味がありますね。

https://ameblo.jp/yojiro/image-12272822213-13932561053.html
Unknown (m.sakai)
2018-09-15 21:24:05
今度また寄らせて下さい。ぜひ、その「初版本」を見せていただきたいですね。楽しみにしています。

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