この北海道遠征中、レンタカーの中では、ロジェストヴェンスキーにお世話になった。まだ現役指揮者のはずだが、最近はトンとご無沙汰で中々話題にはならない。もう80歳は迎えているだろうから、指揮者界では「巨匠」と呼ばれる一人だろう。彼にまつわる思い出深い出来事と言えば、もう30年近く前に、彼の創設したソビエト国立文化省交響楽団を引き連れて来日した時のことだ。上野の文化会館の公演に出向いたその日、輸送不備か何かで団員たちの楽器やら衣装が間に合わず、急きょ日本のオケのものを借りて演奏する故であった。今思えば、当然なことで、その日に聴いた演奏は惨憺たる内容だった印象しか残ってはいない。練習不足ということもあるのかもしれないが、団員たちの精神状態がそのまま演奏に反映されてしまったのだと思う。(メインはショスタコーヴィチの第5)
そんな苦い体験はあるものの、ロジェストヴェンスキーは、オーケストラの魔術師と当時言われていたほど、色彩豊かな音楽を創る。きらびやかで派手な音色だ。そして油絵を描くように、音を塗り重ねていき重厚な豪快な音楽を構成していくやり方だ。このロジェヴェンの十八番は、やはりロシア物ということになるが、以外にもレパートリーが広く、フランス物やドイツ物の作品にも多くの録音を残している。ブルックナーの交響曲も異稿などを使用して全曲録音しているが、アントンKは採らない。個人的な意見だが、やはりブルックナーは演奏者を選ぶように思っている。
今回の遠征に連れ出したのは、チャイコフスキーの「Swan Lake」全曲。さすがに自国の作品には、無敵と言わんばかりの演奏内容であり、現存するCDの中では、先般のスヴェトラーノフと並んで筆頭の演奏だろう。誰でも知っているお馴染の楽曲も、ロジェヴェンにかかると、ただでは終わらないのだ。レンタカーのチープなオーディオが壊れそうになるくらいの圧倒的な爆音をさく裂させてしまったが、一般的には車の中でこれを聴く方が変わり者だろう。
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チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」 OP20
ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮
ソビエト国立文化省交響楽団(74321 66978 2 輸入盤)