民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「ガマの油」 茨城県の民話

2013年03月20日 00時14分20秒 | 大道芸
 ガマの油 「茨城県の民話」 偕成社    茨城県新治村

 江戸時代のはじめのころ、今の新治郡新治村今井に兵助(ひょうすけ)という百性がいた。
なにをやってもうまくいかない兵助は、ある日、筑波山のガマ石をながめていたが、
「そうだ。ガマの油を売ろう。」と おもいたった。
ガマ石は大きな石で、ちょうどガマのようなかっこうをしている。
からだが丈夫になるように、けがをした時 軽くてすむようにと、
いつのころからか、このガマ石に小石をのせておがむようになっていた。

 ガマの油という切り傷の膏薬は、筑波山知足院の光誉(こうよ)上人が工夫したもので、
慶長五年(1600年)の関が原合戦のとき、けがをしたものに塗ってやったところ、
大変効き目があるというので、評判になったという。
光誉上人は顔つきがガマに似ているので、<ガマ上人>ともいわれた。

 ガマの油をつくっている店から品物を仕入れ、
一軒一軒歩いて打っていたのでは たかがしれているから、
今井兵助は、薬をしょって、筑波山でつかまえてきたガマを入れた箱を持ち、
<天下の妙薬 筑波山 ガマの油>と書いた旗をおしたて、お祭りとか縁日とかで、
人のたくさん集まるところへでかけ、
「さあて、お立会い。」と 口上を述べることにした。

 紋付を着て、袴の裾をまくり、ひげ面に鉢巻、たすきがけ、腰には大小の刀をさして、
まるで仇討ちにでかけるときのようなかっこうだから、
「なんだ、なんだ。」と 人が集まってくる。

 今井兵助は、手を打ったり、扇を開いたりして、

「さあ、さあ、お立会い。ご用とおいそぎのないかたは、ゆっくりと聞いておいで。
遠出 山越え 笠のうち、聞かざるときは、ものの黒白(こくびゃく)善悪がとんとわからない。
山寺の鐘がゴーン、ゴーンとなるといえども、童子きたって撞木をあてされば、
とんと鐘の音色はわからない。
 さて、お立会い。
てまえ、ここにとりいだしたるは陣中膏 ガマの油。
ガマともうしましても、ただのガマとはわけが違う。
これより北、北は筑波山のふもとはオンバコという露草を食ろうて 育った四六のガマ。
四六、五六はどこで見分ける。
前足の指が四本、後ろ足の指が六本。あわせて四六のガマ。」


 兵助は、箱の中のガマをつかみだして、まわりの人に見せてまわる。

「山中深くわけいって、とらえましたるこのガマを、四面鏡張りの箱に入れたるそのときは、
ガマは、おのが姿の鏡にうつるのを見て驚き、たーらり、たーらりと油汗を流す。
これをすきとり、柳の小枝にて、三七、二十一日のあいだ、とろーり、とろーりとつめましたるが、
この陣中膏 ガマの油。」


 今度は、ガマの油をとりだして、あっちこっちの人の前でふりまわして、

「このガマの油の効能は、ヒビにアカギレ、シモヤケの妙薬。
まだある。大の男の七転八倒する虫歯の痛みもぴたりととまる。」
 それから尻をつきだして、ピタピタと叩く。
「まだあるよ。でばり痔、いぼ痔、はしり痔、はれものいっさい。
そればかりか刃物のきれあじもとめる。」


 兵助は、腰の刀をすらりとひきぬいた。

「とりいだしたるは、夏なお寒き氷のやいば。」

 見物のものは、なにをするかとびっくりしたが、
兵助は白い紙をだし、二つ折りにして刀にあててさっと切った。

「一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十四枚、
六十四枚が一束(ひとたば 百)と二十八枚。」


 と、かさねかさねて こまかに切っていって、それを片手に握ると、

「ほれ、このとおり、ふっと散らせば 比良(ひら)の暮雪(ぼせつ)は雪ふりの姿。」

 と、紙を一面に吹き散らした。

「これほどの名刀も、ひとたびこのガマの油をつけるときは、たちまちきれあじがとまる。」

 今度はどうするかと見ていると、紙を切った刀に油を塗り、それを左腕におしつけて、

「押しても、引いても、切れはせぬ。」

と、動かして見せ、

「というても、なまくらになったのではない。
このようにきれいにふきとるときは、もとのきれあじとなる。
さあて、お立会い、このようにガマの油の効能がわかったら、遠慮は無用だ。どしどし買っていきやれ。」


 見物の人は、口上がおわると、銭をだして、三ふくろ、四ふくろと買っていく。
兵助の口上と、姿かっこうは、大当たりに当たって、筑波のガマの油は、遠くの国にまでひろまった。

 四六のガマは筑波山にだけいるのかというと、そうではない。
どこのガマも四六の指を持っているのだが、
それを筑波山だけのものとおもわせるように、うまく口上をつくったというわけだ。
ガマの膏薬は、ガマの耳のつけねからでる白い液が主薬で、これをねりあわせたもので、
古い昔、中国から伝えられたという。


「ガマの油売り」 口上を紹介

2013年03月18日 00時06分47秒 | 大道芸
 先ずは 昔懐かしい「ガマの油売り」の口上を紹介しましょう。

「さあさ、お立ち会い。ご用とお急ぎでない方は ゆっくりと聞いておいで。
 遠出の山越し 笠のうち、聞かざるときは 物の黒白、善悪が とんとわからない。
山寺の鐘が ゴオーン、ゴオーンと鳴るといえども、童子きたって 鐘に 撞木を与えずば、
とんと 鐘の音色がわからない。
さて、お立ち会い。手前 ここに取り出したるは 陣中膏 ガマの油。」


 (ここで油売りの様子を紹介すると絣(かすり)、袴に白たすき、
ほう歯に白鉢巻といういでたちの大男で、
長さ三尺の太刀を腰にたばさみ、大音声をはりあげて。)

 「さーて、お立ち会い。ガマと申しましても ただのガマとは ガマが違う。
 関東は 筑波山の麓、おんばこという露草を食って育った 四六のガマだ。
四六五六はどこで見分ける。前足の指が四本、うしろ足の指が六本、併せて四六のガマ。
山中ふかく分け入って捕らえたこのガマを、四面ギヤマン(鏡)の箱に入れると、
ガマは己の姿が鏡に写るのを見て吃驚仰天、タラーリ、タラーリと脂汗を流す。
これをすき取り、柳の小枝で三七、二十と一日トローリ、トローリと煮詰めましたるが
この陣中膏ガマの油。
 ガマの油の効能は、ひびにあかぎれ、しもやけの妙薬。・・まだある。
出痔、いぼ痔、はしり痔、はれもの一切。
 まあ、ちょっとお待ち。ガマの油の効能はそればかりかというと、まだある。
切れ物の切れ味をとめるという。
手前持ちいだしたるは、鈍刀といえど、先が斬れて、元が斬れぬ、半ばが斬れぬというのではない。
ごらんの通り、抜けば玉散る 氷の刃だ、お立会い。」


 (ここで男は派手に三尺の太刀を抜き放つ。)

「取り出したるは 夏なお寒き氷の刃!一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、
十六枚が三十と二枚、三十二枚が六十四枚、六十四枚が一束(百)と二十八枚。
これこの通り、フウッと散らせば 比良の暮雪は 雪降りの型」


 (男が思い切り掌を吹くと一面に紙吹雪が散る。口上は一段と熱を帯び。)

「これなる名刀も、ひとたびこのガマの油をつけるときは、たちまち切れ味が止まる。
押しても引いても切れはせぬ。
と言うても、なまくらになったのではないぞー、お立ち会い!。
このようにきれいにふき取るときは、もとの切れ味になって、これこのとおり」と、
腕に刃を当てると 赤い血がしたたる。」


 (そこに ガマの油を塗って、出血をぴたりと止め 速効性のご披露に及ぶ。)

「さてお立ち会い。ガマの油の効能が分かったら 遠慮はご無用。どんどん買ってお行きやれ」・・・

 (この口上と太刀さばきが珍しくて、時間が経つのも忘れたものである。)


 蝦蟇(ガマ)の油 本舗も1998年、店を閉じてしまいました。
もう 蝦蟇の油の形で 売られることはありません。     
しかし 伝統ある配置家庭薬「六神丸」の主成分 蟾酥(センソ)として、
中国から輸入され、大量に 消費されております。
六神丸の 薬理効果は「動悸、息切れ、気付け」です。

 蟾酥(センソ)は「蝦蟇の油」そのものです。
蟾酥には 麻薬 コカインの数十倍の強い局所麻痺作用があり、      
更に 外用では血管収縮と抗炎症作用とが認められており、
溶剤の油に傷を保護する作用もあることから、  
刀傷を負っても出血や痛みも少なく、
当時は 素晴らしく良く効く塗り薬ではなかったかと推測されます。






「ガマの油の口上について」 大宅 壮一

2013年03月16日 00時08分59秒 | 大道芸
 「新・日本発見 筑波山」 大宅壮一(1900~1970)

 私に言わせれば、この香具師(やし)の口上は、江戸時代の瓦版売りの流れをくむもので、
ジャーナリズムやマス・コミの原型である。
ジャーナリズムの基本的機能は、一口にいうと、ヒューマン・インタレスト、
即ち「人間による、人間のための、人間に関する興味」である。

 こういう観点からこのガマの油の口上を再検討すると、
心憎きまでに大衆の心をつかんでいることがわかる。
マクラあり、サワリあり、オチまでついているところは落語や講談と同じであるが、
ちがう点は、寄席のように金を払って入った客が相手でなくて、通りすがりの人々の足をピタリと止め、
終わりまで口上を聞かせた上で、財布の紐をとかせるのがねらいである。

 今から見ると、この内容にはインチキな点も多いが、
当時はこれで大衆の興味をつなぐことができたのである。
科学知識らしいものもあれば、伏線やサスペンスもあって、
ショート・ストーリーやテーブル・スピーチの諸条件をちゃんとそなえている。

 とにかく、この口上は相当なもので、当時これを作った男は一種の天才だったにちがいない。

「ガマの油売り」 口上をやってみよう

2013年03月14日 00時56分23秒 | 大道芸
 「ガマの油売り」 口上

 「外郎売り」の次は「ガマの油売り」の口上をやってみようと資料集めをしている。
前にも借りたことがある本がほとんどだけど、前とは意味合いが違う。
前は、口上とはどんなものだろうという視点で借りたけど、
今度は「ガマの油売り」の決定稿を創(つく)るのが目的。

 大道芸、落語、民話、それぞれの口上があって、
それをまとめて一つにするのは大変だけど、けっこうやる気になっている。

 オレは民話を、声を使ったパフォーマンスとしてとらえていたところがあって、
そう言う意味で、口上はずっとやってみたかった分野だった。
(このブログでもいくつかの口上をとりあげている。)

 そして、「外郎売り」でちょっと自信をつけたので、違う演目をやってみたくなった。

 民話は子供を相手に語るものだろう。
だけど、口上は大人も子供も楽しめる。
語る相手(対象)が民話に比べて、圧倒的に広がる。

 そのうち、それらしき格好をして、やってみたいな。

「外郎売り」 三回目

2013年03月11日 00時15分22秒 | 大道芸
 昨日(3月9日)は、月に一度の定例ライブ。
ギターと口上の二本立て。

 ギターはさんざん。
暗譜で弾くようになって、忘れた時の不安がある。
そういう時のためのいいMCを思いついたのがいけなかった。

 ギターはいいか、ここは民話のブログだから。

 外郎売りをやった。
三回目、今までの中では一番、実際の口上に近かったかな。
オリオン通り(宇都宮一の繁華街)で、なにかやってんな、なにやってんだろう、どれどれ、
っていうノリで、聞いてくださいと、最初にお願いした。

 前回の失敗(数行飛ばし、など)はムダではなかった。
今までの中で一番、よどみなく言えた。
いつも噛むヶ所がはっきりしてきたので、その部分練習をみっちりやった成果。

 ひとつ、収穫があった。
この外郎売りの口上のクライマックスは、武具馬具 ぶぐばぐ だろう(と思う)。
今までマックスの速さでやっていた。
そこを最初はゆっくり、一粒飲んで、ちょっと速く、さらに一粒飲んで、さらに速く。
三段階の速さでやれば、この薬の効用が引き立つんじゃないかな。
今度、これでやってみようっと。