民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「ガマの油の口上について」 大宅 壮一

2013年03月16日 00時08分59秒 | 大道芸
 「新・日本発見 筑波山」 大宅壮一(1900~1970)

 私に言わせれば、この香具師(やし)の口上は、江戸時代の瓦版売りの流れをくむもので、
ジャーナリズムやマス・コミの原型である。
ジャーナリズムの基本的機能は、一口にいうと、ヒューマン・インタレスト、
即ち「人間による、人間のための、人間に関する興味」である。

 こういう観点からこのガマの油の口上を再検討すると、
心憎きまでに大衆の心をつかんでいることがわかる。
マクラあり、サワリあり、オチまでついているところは落語や講談と同じであるが、
ちがう点は、寄席のように金を払って入った客が相手でなくて、通りすがりの人々の足をピタリと止め、
終わりまで口上を聞かせた上で、財布の紐をとかせるのがねらいである。

 今から見ると、この内容にはインチキな点も多いが、
当時はこれで大衆の興味をつなぐことができたのである。
科学知識らしいものもあれば、伏線やサスペンスもあって、
ショート・ストーリーやテーブル・スピーチの諸条件をちゃんとそなえている。

 とにかく、この口上は相当なもので、当時これを作った男は一種の天才だったにちがいない。