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日めくり万葉集(19)

2008年01月31日 | 万葉集
日めくり万葉集(19)では、万葉を代表する歌人、山上憶良の歌。選者は20年にわたる裁判官生活の折に触れて万葉集をひもといてきたという、九州の大分地方裁判所で判事をつとめる浅見宣義(あさみのぶよし)さん。

【歌】
天(あま)ざかる
鄙〈ひな〉に五年(いつとせ)
住(す)まひつつ
都(みやこ)のてぶり
忘(わす)らえにけり

巻の5・880  作者は山上憶良(やまのうえのおくら)

【現代文】
遠い地方に5年も住み続け、都のみやびな振る舞いもすっかり忘れてしまった。万葉を代表する歌人の一人、山上憶良が都から赴任した九州筑前で詠んだ歌。

【選者の言葉】
浅見さんは裁判官というのは職責上、全国に転勤しなければならない中で、時には単身赴任したり、故郷を離れるということで思うことがあるが、万葉集を読んでいると、同じ気持ちを詠っているのがあるじゃないかと。

こんなに世の中紛争が多いのかとびっくりするほど紛争がある。軽いものから、最後は命にかかわるものまで、山のようにあって、扱うものは基本的に人間関係。人間の紛争。

財産をめぐっていろいろ争うとか。その過程で、大事なものを再確認すること。そういうものをきちっと素直に詠っているのはなんなのかと考えると、大事な価値観を詠っているのは万葉集かなということで、特に仕事に就いてから惹かれるようになった。

自分の故郷とか、東京などの大都会以外のところへ行ったとき、裁判官のやりがいということがすごくある。その地域の全事件が来て、自分の知らなかったカルチャーがあり、違う地域の歴史を感じるので、ものすごく勉強になる。

それが日本社会の人間や歴史紛争を見るときのいい視点になるかなと思うので、転勤もマイナスばかりではない。私は3,4年だが(憶良は〉五つとせだから5年?もう早く帰りたいな、という気持ちがすごく出ている。

単に地方にいたから、ちょっとつらいなという気持ちだけではなく、故郷に帰りたいという気持ちがあるんじゃないかという気がする。(おわり)

【壇さんの語り】
万葉の歌人の中でも浅見さんが特に惹かれる歌人の一人が山上億良。社会に目を向け、弱者への愛を詠った歌人。憶良が地方長官に任命され、筑前に来たのは60代後半。

筑前は今の福岡県に当たり、大陸との外交の窓口が大宰府〈だざいふ〉に置かれた重要な地だった。この地で憶良は都では知ることがなかった貧しい人々の暮らしに触れ、人間の苦悩や弱さを見つめる歌を数多く作った。

九州に滞在すること5年。都のふるまいもすっかり忘れてしまったと詠った憶良は、任期を終え、都へ帰ると、一年余りで世を去った。

〈父が生前に、ここへ転勤になった人は二度泣くと言われているという話をしていた。一度目はこんな北の遠いところまで飛ばされたなあという気持ち。二度目は温かい地元の人々の人情に触れて、任期を終えて帰るときには去りがたい気持ちになるということだった。)

☆天(あま)
〈造語〉《本来、【天あめ】より古い形か。【天あめ】の交替形》
☆天(あめ)
〈名〉《交替形に【天あま】がある》
 ①「地」「国」に対して空。天上。②天上の世界。
☆さかる〈離る)
(自ラ四) はなれる。遠ざかる。隔たる。「かる」とも。
(天ざかるで、鄙にかかる枕詞)
☆鄙(ひな)
〈名〉都から遠く離れたところ。地方、田舎
☆てぶり〈手風)
〈名)ならわし、風俗、習慣
              ~岩波書店「古語辞典」~