もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

7 055 姜尚中「在日」(講談社/集英社文庫:2004/2008加筆)感想 特5

2018年05月06日 05時20分18秒 | 一日一冊読書開始
5月5日(土):  

256ページ     所要時間4:40    ブックオフ105円

著者53歳/57歳(1950生まれ)。熊本県熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。ドイツ、エアランゲン大学留学後、国際基督教大学准教授などを経て、東京大学大学院情報学環教授。専攻は政治学、政治思想史

2度目。前回は2010年1月4日に1:40の眺め読みをしている。今回は、じっくりと休まず一気に読んだ(読めた)。

非常に「誠実な内容」の本である。この本は評価を超えた<祈り>をもつ特別な本である。読後感は「うらをみせ おもてをみせて 散るもみじ」「盗人に とりのこされし 窓の月」「散る桜 残る桜も 散る桜」(良寛)、著者の根底には、何のかけ引きも、欲得もない。ただただ、『在日』の先人たち(父、母、叔父、亡友他、『在日』の一世たち)に恥じない生き方をするのだ、という覚悟だけがある

ただ、こういう生き方を誠実に行えば行うほど、激しく波打つ人生を突っ切って生きざるを得ない。本書を読んでいて去来したイメージを漢字にすると、悲痛、哀切、哀惜、鎮魂、憧憬、感謝、希望、失望、残念、孤立、覚悟、敢行、瞑目などとなり、全体に喜びよりも悲嘆の比率が多くなる。裏切られ迷い動揺し続けながらも、著者は絶望を拒み、逃げ出したい思いを抑えてとにかく前を向く、はってでも前進しようとしている。

そして、当然の帰結として、当初若い時は<光栄ある後衛>として、一番後方を守っていたはずが、気が付けば最前線にたった一人で立って、激しい攻撃を受けながらも前衛として闘い続けなければならなくなっている。俺は、そんな著者の生き方を応援せずにはいられない。父、母を尊敬する姿勢にも共感せずにいられない。

終盤、読んでいて何度も「2018年の現在を論じてるのではないか?」という錯覚に襲われた。本書の文庫化で大幅に加筆されたのは、2000年の金大中大統領と金正日の第一回南北首脳会談後も不調だった南北関係が動き出した2007年、盧武鉉大統領と金正日の第二回南北首脳会談について著者の見解を述べている部分が、現在の文在寅大統領と金正恩の第三回南北首脳会談に一々適切な解説として当てはまっているからである。

二度と朝鮮戦争を引き起こしてはならないという著者の信念、そのために「東北アジア共同の家」という著者の構想が如何に適切なものであるかが、現在の国際情勢から見てよくわかる。また、第一回、第二回で南北に日米中ロを加えた6カ国協議が成立していたのに対して、現在6カ国中で日本だけがはしごを外されて孤立していることで、今のアベ政権の外交が如何にでたらめであるかもよくわかった

ちょっと、力尽きてきたので、寝ます。

【目次】第1章 朝鮮戦争のときに生まれて/第2章 「在日」一世の軌跡ーふたりのおじさんの人生/第3章 「尚中」が「鉄男」を捨てた夏/第4章 故郷と異郷のはざまで/第5章 父の死と天皇の死と/第6章 時代に押されるように/第7章 時代の飛沫をあびて/第8章 恩讐を抱きしめて

【内容紹介】*一九五〇年、朝鮮戦争が始まった年にわたしは生まれた。なぜ父母の国は分断されたのか。なぜ自分たちは「みすぼらしい」のか。「在日」と「祖国」、ふたつの問題を内奥に抱えながら青年期を迎えたわたしは、今まで抑圧してきたものを一挙に払いのけ、悲壮な決意で日本名「永野鉄男」を捨て「姜尚中」を名乗ることにした。在日二世として生きてきた半生を振り返り、歴史が強いた苛酷な人生を歩んだ在日一世への想いを綴った初の自伝。文庫化にあたり大幅に加筆。
・わたしの原点になったのは、母(オモニ)だったのではないかとつくづく思うことが多くなった。あふれるような母性的心情と繊細さ。母はわたしの避難場所であったし、母もまたわたしを自分の繭の中で保護することを望んでいた。「在日」であり、同時に「文盲」であることは、終生、母に付きまとった「宿題」であったに違いない。「在日」であることが、わたしの思春期に暗い影を落とす宿命的な桎梏(しっこく)であったとすれば、母にとって「在日」を生きるとは、無念に失われた故郷の記憶を異国の地で新しく再生させることを意味していた。――<プロローグより抜粋>
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