もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

160717 毎日新聞:時代の風 改憲3分の2議席の意味=作家・中島京子

2016年07月17日 22時51分31秒 | 時々刻々 考える資料
7月17日(日):
毎日新聞時代の風 改憲3分の2議席の意味=作家・中島京子 2016年7月17日 東京朝刊
メディアの責務自覚を
  参院選後の各テレビ局の特番を見て、ほんとうに腹が立った。選挙がすべて終わったとたんに、どんな候補が出ていて、どんなふうに選挙戦を戦ったかを見せるって、どういうこと? みんな思ったはずだ。「そういうことは、選挙中にやって」。それがメディアの仕事であり、責任だろう。公示日から投票日まで、テレビは参院選をほとんど報道しなかった。13日の本紙の報道では、3年前と比べて3割も少なかったとか。
  「改憲の発議が可能になる3分の2議席」についても、テレビはきちんと知らせなかった。ものすごくだいじなことだったのに。選挙が終わると、改憲だの国民投票だの言い始めたけれど、また東京都知事選や天皇陛下の生前退位の話題で、早くも改憲は隠され始めている。
  麻生太郎財務相は、3年前に言った。「ワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。あの手口を学んだらどうか」
  麻生さんの真意は(明白だとは思うけれど)擱(お)くとしても、「憲法がいつの間にか変わっていた」という事態は、あってはならない。ましてや、国民投票で決めるものである以上、国民一人一人が、十分な知識を得るべきなのだし、メディアは全力で、周知徹底を図らなければならない。
  だいじな国民投票の実施方法についても、ほとんど知られていないのが現状だ。多くの人が漠然と「国民の半数以上の賛成で決まる」と思っている。
  でも、これは勘違いだ。国民投票法には、「憲法改正案に対する賛成の投票の数が投票総数(賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数)の2分の1を超えた場合」「国民の承認があったものとなり」改憲が成立するとある。つまり、投票した数から白票や無効票を除いた有効投票総数の過半数の賛成が条件なので、今回の参院選のように約50%の投票率だったら、25%、有権者の4人に1人超が賛成すれば改憲が決まる。最低投票率の規定がないので、投票率が30%だったら、有権者の15%超が賛成すれば決まる。国民が関心を持たなければ持たないほど、投票所に足を運ぶ人が少なければ少ないほど、改憲のハードルは低くなる。
  参院選の期間中、インターネットのSNSで、たいへんな勢いで視聴された映像があった。「創生『日本』」という超党派の議員団体が、2012年5月に開催した研修会を録画したものだ。ホームページによれば「創生『日本』」は「戦後レジームからの脱却」を理念としていて、そのためには憲法改正が成し遂げられねばならないと考える議員の団体であるらしい。
  映像の中では、自民党の閣僚経験者が「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3原則はなくさないと」と発言していた。別の議員は「尖閣、軍事利用しましょう」。首相補佐官は「いよいよ、ほんとに憲法を変えられる時が来た。これ以上延ばすことはできない」と言っていた。いずれの発言にも、会場から大きな拍手が湧いた。安倍晋三現首相の姿もそこにあった。
  この衝撃的な映像に関して、選挙中、新聞やテレビで報道されたのを見た記憶がない。私が知る限りでは、12日の本紙夕刊で、作家の平野啓一郎さんが言及したのが、初登場だ。
  必要があれば、憲法を変えることはできる。それは日本国憲法にも規定がある。しかし、ほとんどの国民が改憲に興味がなく、必要だとも思っていないのに、なぜ、誰が、それを進めようとしているのか。安倍首相が進めたがっているのは知っていたけれど、「創生『日本』」の映像のインパクトは強烈だった。「基本的人権はなくさないと」。「尖閣、軍事利用しましょう」。そうした発言が私の脳裏をぐるぐる巡っている。
  日本国憲法は(いまのところ)表現の自由を、そして、思想・信条の自由を保障している。だから、誰が何を言ってもかまわない。けれども、発言が誰からどういう文脈で為(な)されたのか、そうした発言をする人たちが進めたい改憲とは何なのか、メディアはきちんと検証し、報道してほしい。それが責務だということを自覚していただきたい。
  私たちが、知らない、知りたくもない、知らされない、という状況の中で、無風と低投票率のうちに粛々と国民投票が終わり、憲法が変わる、などという未来は、想像したくない。=毎週日曜日に掲載
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