もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

4 088 高谷清「重い障害を生きるということ」(岩波新書:2011) 感想5

2015年05月31日 18時48分45秒 | 一日一冊読書開始
5月31日(日):

196ページ   所要時間 3:10    図書館→アマゾンに発注258円(1+257)

著者74歳(1937生まれ)。1964年京都大学医学部卒業。京都大学附属病院、大津赤十字病院、吉祥院病院小児科勤務を経て、1977年~97年びわこ学園勤務。うち1984~97年第一びわこ学園園長。2011年、教育に貢献した個人・団体におくられるペスタロッチ賞受賞。現在、びわこ学園医療福祉センター医師(非常勤)、特定非営利活動法人きらら(障害者作業所他)理事長。

 安っぽい評価論を超えた本はあるのだ。感想はと聞かれたら、5以外は付けられない。重症心身障害児(者)の存在を45年間見続けてきた著者による「人間が<生きる>意味論」である。神谷美恵子「生きがいについて」に通底する内容。

 前半で何度も涙腺を刺激された。人間を泣かすのは簡単だ。真実の重み思いやる優しさがあれば十分だ。本書の後半は、やや講釈的な感じになったが、著者をはじめ、著者の先人たちの考え方に十分に共鳴でき、良い言葉にもたくさん出会えた。

 浅ましい政治が行われている一方で、本当の世の中のあり様とあるべき姿・考え方を呼び覚ましてくれるような内容の本である。半ばまで読んだところで、アマゾンに注文を出した。「お守り」として所持してもいい本だ、と思った。

 本書で紹介された水上勉の逸話「拝啓 池田総理大臣殿」は別に載せる。

■目次: はじめに
序 章 「抱きしめてBIWAKO」―25万人が手をつないだ日
第1章 重い障害を生きる :1 はじめて「びわこ学園」を訪れる /2 子どもたちとの出会い
第2章 どのような存在か :1 脳のない子の笑顔 /2 感覚的存在―五感だけでなく /3 身体的存在―二次元の世界 /4 意識―生命体を維持・発展させる方向 /5 関係的存在―「わかる」とは /6 人間的存在―生きがいとは
第3章 重症心身障害児施設の誕生―とりくんできた人たちと社会 :1 小林提樹と島田療育園 /2 草野熊吉と秋津療育園 /3 糸賀一雄とびわこ学園 /4 おしすすめてきた家族の力
第4章 重い心身障害がある人の現在 :1 医学的視点から /2 さらに重い障害へ /3 人数と実態
第5章 「いのち」が大切にされる社会へ :1 「この子らを世の光に」 /2 「ふつうの生活を社会のなかで」―第一びわこ学園移転計画 /3 「抱きしめてBIWAKO」から何が生まれたのか /4 生きているのは「かわいそう」か
あとがき

紹介文:「人間」とはどういう存在なのだろう?
 「人の世話になってまで生きていたくない」という人がおられる。よほどご自分で頑張ってこられたのだろう。だけど「100%人に頼らないと生きていけない」人もいる。そういう人の生に「意味」はないのだろうか?
 この本の主人公は、重い身体障害と精神障害とを併せ持って生まれた「重症心身障害児(者)」と呼ばれる人びとである。聞き取りにくいながらも言葉をしぼり出す人もいれば、寝たきりで人工呼吸器をつけ目だけはよく動く人、手足が曲がり自分の意志とは関係ない体の動きに苦しげな人など、さまざまである。
 著者は滋賀県の重症心身障害児(者)施設「第一びわこ学園」(現・びわこ学園医療福祉センター草津)の園長をつとめた医師。何を思いどう感じているかが非常にわかりにくい重い障害のある人びとに40年以上にわたり接してきた。
 脳がない状態でもなぜ「笑顔」を見せることがあるのか、外界をどのように感じるのか、寝たきりの状態と少しでも身を起こした状態では人の意識にどんな変化をもたらすのか、言葉も反応も乏しいのに、親や親しい介護者はなぜ「(この子は)わかっている」と言うのか……。
 著者はその体験と観察から、重い障害を持つ人ならではの感じ方、さらには、人間とはどういう存在なのかということにまで思索を深める。
 重い障害のある人が持っているのは、極限的には「いのち」だけとも言える。そういう人が社会のなかでどのように生きられるかは、他の障害をもっている人にも、幼い子どもの福祉にも、あるいは高齢のため生活が不自由になった場合にも、何らかかかわる社会の根本の設計を表すことになるだろう。
 元気なときの自分の価値観がすべてではない。重い障害を持つ人の世界から社会を見直してみると、新たな発見がいくつもあるのはおもしろい。ぜひご一読を。 (新書編集部 大山美佐子)
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