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ヨルムの死は、チェ・ヒョンジンにも、キム・ジウンにもショックを与えました。
流石に聞いた瞬間は、動きが止まり、表情が凍りました。
でも、それは一時の事でした。
キム・ジウンは今カノと出かける口実に、元カノヨルムの死を使えるくらいでしたし、チェ・ヒョンジンも友人とヨルムの話を軽くできましたし・・・。
彼らにとって、ヨルムは、完全に過去の人になっていると分かりました。
オPDの場合は、やはり一番大きいショックを受けたようです。死ぬ直前のヨルムを知っているのですから。
過去の人ではなく、今現在、ついこの間まで生きて会話していた人なのですから。
心が重いけど、表向きは平静でいるしかありません。
ただ、分かったのは、オPDには、同時進行している恋人未満の女性が一人じゃないってことです。
予定通り、パク・へジュンがラジオの生放送の為にスタジオにやって来ました。
スタジオに入った時から、へジュンは目でヨルムの姿を探していました。
それに気づいたのは、二人が元恋人同士だったと知ってるヨルムの先輩だけでした。
放送が終了した時、へジュンは、帰ろうとしたのですが、ちょっと躊躇した様子を見せました。
何か?・・・と聞いたスタッフに、へジュンが聞きました。
「このスタッフで全員ですか?」
意外な事を聞く・・・と言った風に戸惑いながら、オPDが答えました。はい・・・と。
そうですか・・・とへジュンがスタジオを出て行きました。
先輩スタッフが、その様子を見て、後を追いました。
「もしかして、ハン・ヨルムを探してるんですか?」
何と答えたらよいのか分からない様子のへジュン。
先輩スタッフは、ヨルムから二人の事を聞いていると言いました。
ヨルムは死にました、先週・・・。
先輩スタッフの言葉を一瞬理解できない表情を浮かべたへジュン。ショックを受けたというのではなく、戸惑っている・・・という感じです。
そうですか・・・と呟いて、行こうとしたのを、先輩スタッフが再度呼びとめました。
「6年も経ったので、もう関係ないでしょうが、ヨルムは6年間ずっとあなたに伝えたがっていた言葉があります。」
聞くべきですか?・・・とへジュン。
なるべくなら・・・と先輩スタッフ。
ヨルムがアメリカに行く前に、オPDは、他の人にもしてるから・・・とお小遣いを渡そうとしました。
ヨルムはその態度に、とうとう我慢できなくなって、気持ちを全てぶちまけてしまいました。
私を放送作家だと決めたのなら、仕事をしてください。お小遣いなど必要ありません。忠告しておきます。私は寂しいんです。ちょっとしたことでときめいたりします。そんな私や多くの女性にこんなことはやめてください。離婚した後、消極的なのは分かります。なぜ、失敗を成功に生かさないんですか?
私は、高校時代の元カレからは、黙ってても真意は伝わらないことを学びました。
20歳の頃の元カレからは、簡単に別れるとは言わないことを学びました。
そして、最も長く交際した人からは、身勝手に心を踏みにじると罰が当たることを学びました。
その他にも、雨の日にいい曲とか、ワインについてとか、全て過去の恋愛から学んで来たことです。つまみ食い感覚のあなたたちからも、わが身を守る柵が相手を傷つけると学びました。
それなのに、年上で結婚歴のあるオPDは、なぜ、そんなザマ?
この封筒で学んだのは、私はあなたにとって何でもなかったこと・・・。
オPDは、ヨルムのこの言葉が最期の言葉だったと気付きました。
彼の中に、ヨルムは確かに何らかの記憶を残したでしょう。
そして、チェ・ヒョンジンもまた、今になってヨルムの真意を知ったのです。
お見合い相手の女性の振る舞いを見て、女性は皆何故同じ事をするのかと怒ったように言った時の事です。
男性の前で、上品そうに振る舞う事です。
そういう芝居は嫌いだ・・・と言った時、相手の女性が気分を害し、フォークをガチャンと音を立てて皿に置くと、言いました。
「何故自分を作ると思いますか?」
さぁね、ずる賢い女の本性でしょう・・・と嫌味な感じでヒョンジンは、言いました。
「いいえ。そうではなく、あなたに好かれたいからです。」
その瞬間、ヨルムが他の男子学生の前で、自分には見せない笑顔を見せながら、嫌いだと言ったハンバーガーを大口で食べていたのを思い出したのです。
後に、それを問い詰めた時、ヨルムは小さな声で答えました。
「好かれたくて・・・。ただよく見せたかった。」
その言葉を、当時のヒョンジンは言い訳としか思えなかったのですね。これこそ、若気の至りです。ヨルムの真意を理解できなかったのですから。
後悔しても遅いです。
キム・ジウンも、恋人の激情に遭うと、ついつい“別れよう”と言ってしまう自分を反省していました。
ヨルムが昔、言ったのを思い出したのです。
「安易に別れを告げないで。意味が分かる?これから死ぬまで二度と会わないって意味よ。別れを告げた瞬間、私は死んだ人になるの。あなたもそうよ。」
恋人にきちんと謝りました。
へジュンは、結婚したくないと言った理由をヨルムに聞いた時のことを思い出していました。
ヨルムは言いました。
私は、欲がある。自分の人生に対して上を見てるの、だからあなたとじゃ不幸なの・・・と。それでも大丈夫?・・・と。
それを聞いたへジュンが、ヨルムに聞きました。
「俺を愛してるのか?」
ヨルムは、なんて答えたのでしょう。
あの表情は、聞かないと分からないの?・・・と言いたげにも見えましたし、改めて考えると自分でも愛しているかどうか分からないという戸惑いにも見えます。
そして、ヨルムは部屋を出て行ったのです。
行くな・・・と言うへジュンを残して。
6年間、ヨルムがずっと言いたかった言葉は
「ごめん。」
という言葉でした。
へジュンは、泣きました。ヨルムのために泣いてくれたのは、彼だけでした。
へジュンは、泣きながら謝る恋人が、あの時の自分・・・ヨルムと別れた時の自分と重なったのかもしれません。
優しく寄り添う事ができました。
“私は元気です。くしゃくしゃの手紙の中で、破れた写真と一生開けない箱の中で、引き出しの奥や削除フォルダの中で、叫びに行った海の底で、あなたと一緒だった時間の中で。だから、私が泣いてても憐れまないでください。私は輝きながらも辛かった。全て自分によって”
ヨルムの独白です。
ある時、ヨルムが先輩に言いました。
「私は今が惨め過ぎるのか、愛されていた時の記憶が夢みたい。」
ヨルムは愛して来た人たちのおかげで様々なことを学び、ヨルムを愛した人たちも、ヨルムから様々なことを学んできたわけです。
チェ・ガンヒさんの演技はリアルで自然。
人生でただ一人を想うというドラマチックなストーリーではなく、出会いと別れを繰り返していくのだけれど、そのどれもが正直で真剣な想いゆえの経験です。
ヨルムは、いつも愛したいと思っています。
愛し方が歳を重ねるにつれ、少しずつ形が変わっていくのも、仕方が無いわけで。
ヨルムは肌でそれを感じつつ、焦りやじれったさ、どうしようもない悶々とした思いを抱いているのです。
短編なのに、とても内容が濃く、深い作品だと思いました。