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探偵スペンサーがケーキ6個で母を撃った犯人探しを引き受けるが意外な「真相」へ

2021年01月29日 | 斜読

book524 真相 ロバート・B・パーカー 早川書房 2003   <斜読 海外の作家一覧

 一都三県に緊急事態宣言が出され、不要不急の外出自粛が要請された。心身の健全の維持に文化的刺激は必須である。感染対策のうえ、空いた時間を狙って図書館に出かけた。人の通らない端の本棚のパーカー著のスペンサーシリーズが目に入った。
 R..B.ロバート(1932-2010)はアメリカの作家で、1973年のスペンサーシリーズ第1作「ゴッドウルフの行方」でデビューしたそうだ。スペンサーシリーズは好評で、40作も書かれ、映画化、テレビドラマ化もされているらしい。
 適当に手にした「真相」は2003年出版の30作目だった。これまでのシリーズで主人公スペンサーと関わったらしい人物が次々に現れるが、物語は独立して展開するので前作を読んでいなくても違和感はない。

 「真相」の物語は数ページずつ、65節のシーンに区切られて展開していく。描写は主人公スペンサーの第1人称で綴られていて、その多くは会話形式である。パーカーの特徴のようだ。
 スペンサーは元警察官でいまはボストンにオフィスを構える私立探偵である。体格はよく、ランニングで鍛えていて、トム・クルーズの映画のような超人的な活躍はしないが、敏捷である。状況分析は早く、疑問を解くための行動も積極的である。人柄の良さは、つきあいが広く、互いに信頼しあい、相手を思いやることからも推測できる。
 格闘、銃撃の場面もあるが、グリーニー著のグレイマンシリーズのようなダイナミックな活劇やスリリングな描写は少ない。
 クィネル著のクリーシィシリーズのような、社会を震撼させる事件の解決、国際的な陰謀のせん滅、社会正義のために悪を倒す、といったテーマではない。
 ダン・ブラウン著のラングドンシリーズのような、歴史、文化、宗教、科学などの新たな知見が織り込まれていることもない。
 アメリカ人の日常生活をベースにして、引き受けた事件の真実をたんたんと明かしていく展開である。

 終盤に近い55節で3人の殺し屋を倒しあと、56節で・・男を3人殺さなければならないというのはいったいどういう職業なのだ?・・今回は誰の助けになるのか?・・と自分を咎め、真夜中に恋人のスーザンに電話する。スーザンは、・・自分自身に対して誠実であろうとする、それがあなたの生涯の目的・・あなたがまともだから、あなたを愛す・・と答える。
 こうしたスペンサーの生き方やスーザンなどの登場人物との応答が読み手をとらえ、40作も続き、映画化、ドラマ化されるほど人気を博したようだ。

 1節、舞台演出家ポール・ジャコミンといっしょにスペンサーを訪れた舞台女優ダリル・シルヴァーが、28年前の1974年、母エミリイ・ゴードンがボストンのショーマット銀行でトラヴェラーズ・チェックを換金しようとしたとき、強盗に入った革命グループのドレッド・スコット・ブリゲイドに射殺されたが、未解決なので犯人を見つけてほしいと依頼する。
 ・・22節でダリルは母への復讐と本音を言い、43節では両親のことは何も知りたくないと飛び出していった。ダリルは空想に生きたかったようだ・・。
 スペンサーは、ポールからの手土産クリスピイ・クリーム6個に感激し、無料で引き受ける。・・こうした気っぷの良さが読み手をスペンサー好きにするようだが、ところどころで甘そうなケーキ菓子が出てくる。余計なお世話だが血糖値は大丈夫だろうか。

 2節で、ボストン警察のマーティン・クワーク警部から銀行強盗のメンバーは黒人の男、白人の女、車の運転手らしいことを聞く。3節で、クワークのオフィスで捜査ファイルに目を通す。ファイルは主任刑事マリオ・ベナッティが書いた報告書だが、FBIからの情報報告書が見当たらない。
 5節で、引退したベナッティに会うが記憶がないという。6節で、FBI特別捜査官ネイザン・エプスタインに会いに行くが、そのようなファイルは存在しないという。8節では、 新連邦庁舎国際コンサルティング局のアイヴズを訪ね、FBIからのファイルについて聞くが、手がかりはない。
 ・・スペンサーはフットワークがいい。次の節へと引き込まれる。

 7節に戻って、スペンサーの恋人スーザンと新しい子犬のパールⅡが登場する。スーザンと前のパールは前作で登場したらしい。
 10節もパールとスペンサー、スーザンのシーンである。・・犬が暮らしのなかにいるというのが、アメリカでは一般のようだ。犬と暮らす様子の描写も人気の一つであろう。

 9節でスペンサーの相棒ホークが登場する。ホークも前作で登場したらしい。黒人だが2人の信頼関係は強い。・・人種差別が何度か描かれる。まだ人種差別が根深いようだ。
 12節で、ホークの知り合いの黒人ソーヤー・マッキャンから、刑務所の黒人囚人と白人囚人の融和を図ろうとする運動が起こり、ドレッド・スコット・ブリゲイドが組織されたこと、刑務所から2人の囚人、1人がアブナー・ファンシイ=別名シャカ、もう1人がコヨーテ・・29節でリオン・ホルトンと分かる・・が脱走したことを聞く。
 14 節、被害者エミリイの姉=ダリルの叔母のシビル・プリッチャードに会い、エミリイとダリルの父バリイはヒッピイで、麻薬、マリファナを吸っていたことなどを聞く。
 飛んで27節で、スペンサーはサン・ディエゴに住むダリルの父バリイ・ゴードンに会う。バリイはマリファナを吸いながら、エミリイはコヨーテのあとを追いかけ、ダリルをバリイに預け出て行った、エミリイの友達はバニイ・ロンバードと話す。
 ・・さらに飛んで52節で、バリイからアブナー・ファンシイとバニイ・カーノフスキー、バリイとエミリイがペアになったと聞く。

 戻って15節、スペンサーがオフィスに入ると、勝手に侵入した政府の者と名乗る2人から、調査から手を引くよう忠告される。
 19節では、オフィスに男が現れ、いきなり電球の笠を銃で撃ち、エミリイ・ゴードンの一件から手を引けと脅す。
 20節で、ホークの仲間のヴィニイ・モリスが、ガンマンはハーヴェイで、ギャングのソニイ・カーノフスキイの依頼ではないかとスペンサーに教える。
 ・・なぜ、政府の者が現れたのか?、なぜソニイは28年前の反体制運動殺人事件の心配をするのか?。・・パーカーは読み手に謎解きを仕掛けるが、まだ謎だらけで展開の先が見えない・・。
 21節で、スペンサーとホークはソニイに会いに行く。話は決裂し、ソニイはハーヴェイに早くスペンサーを殺せと命令する。

 16節で、FBI特別捜査官エプスタインから事件担当捜査官がエヴァン・マローンだったことを聞く。23節で、スペンサーはエヴァン・マローンに話を聞くが、覚えていないと答える。
 24節、マローンの家を出た直後、スペンサーはショットガンを持った殺し屋に襲われ、何とか逃げ切る。25節、ホークがショットガン、ライフルを持参し、スペンサーの護衛につく。
 話は飛んで、32節でダリルからエミリイはタフト大学中退と聞いたので、34節でスペンサーを乗せたホークの車がタフト大学に向かう途中、尾行がつく。タフト大学でスペンサーとホークが二手に分かれると、3人の殺し屋が銃を構えてスペンサーを追いかけてきた。1人をホークが倒し、1人をスペンサーが撃つ。
 
 29節でロス・アンジェルス警察のサミュエルソン警部に会い、コヨーテの本名はリオン・ホルトン、サン・ディゴで2度逮捕、大量の麻薬が動いていたことを知る。30節でスペンサーとホークはリオン・ホルトンに会いに行くが、リオンはすべてを黙秘する。
  35節のタフト大学での取材で、エミリイと同じクラスにボニー・ロンバードがいて、2人とも1965年中退が分かる。
 36節、ボニーの住所がソニイ・カーノフスキーの屋敷だった。
 38節でソニイ・カーノフスキーはヴェリーナ・ロンバードと結婚し、娘ボニイが生まれたことをエプスタインから聞く。

 おおむね事件の重要人物の名前は出そろった。31節にはそれまでの事実と推理が整理される。・・これは読み手の謎解きの手助けになる。続きを読みたくさせるパーカーの筆裁きであろう。
 連邦捜査局とソニイ・カーノフスキーがそれぞれこの件を隠蔽したがっていることが分かってくるが、何を隠蔽しようとしてスペンサーの命を狙うのか。読み進むと点と点がつながり、糸口が次第に明らかになるが、この先はネタバレになるから読んでのお楽しみに。
 パーカーの描く奔放な男女関係、麻薬・マリファナ、ギャング、銃器はアメリカ社会の一断片のようだ。ゆえに多くの読者に違和感なく受け入れられ、映画化、ドラマ化されたのであろう。
 スペンサーの終盤の解決策はだいたんな奇策だが見事である。スペンサーファンが増えたのが納得できる。 (2021.1)

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