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つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

台湾・三峡の歴史的な街並み=間口4~5m×奥行き20~80mの店+住居

2017年04月02日 | 旅行

1994 台湾の三峡老街
                             
 台湾の中心都市である台北は、18世紀初めに福建省泉州あたりから淡水河流域に移り住んだ漢族の開拓地が始まりになる。その後も移民が続き台北は発展を続けるが、同時に移民は淡水河上流にも進出した。淡水河沿いの三峡は開拓地の一つで、淡水河河口からおよそ40km上流に位置する。三峡からさらに10kmほど上った大渓も開拓地の一つである。
 いずれも淡水河を利用した舟運の拠点として栄え、大勢の人が住み始めた。とりわけ、このあたりの樟脳は品質がいいことから舟運を利用して台北に運ばれ、台北から台湾全土へと販売された。日本の占領時代には日本にも台湾産樟脳が運ばれたそうだ。ほかには、茶、木材、炭などが生産された。木材も良質だったらしく、彫刻家具が盛んに作られ、台北に運び込まれた。
 しかし、淡水河に流れ込む土砂のため河が浅くなったこと、1900年代初頭に台北~桃園に鉄道が通じたことから、舟運が衰退を始め、応じて三峡、大渓も発展を止めてしまった。その結果、三峡、大渓はその当時の街並みをいまに残すことになった。台湾では、こうした古い街並みを老街と呼んでいる。字そのままの意味である。
 1994年、台湾留学生・S君が卒業研究で三峡をテーマにしたいと申し出た。三峡を知ったのはこのときである。S君は1年のころから研究室に来ていて、積極的に勉強する優秀な学生であった。島根県の築地松調査や山形県の旧武家住宅街の調査にも参加し、実力もつけていた。
 多くの留学生は日本の先端建築技術の修得を目指している。ところがS君は、私の研究室で身につけた研究方法を用いて三峡の空間構造を把握し、それをもとに老街の保全について考えたいとの希望であった。もしかすると、築地松調査で地元新聞からなぜ台湾留学生が築地松住宅の調査に参加したのか取材を受けていて、そのときの応答がきっかけになったのかも知れない。
 漠然とした考えであっても先生や友人、あるいは取材などで応答していると、考えが次第に洗練され、骨格が明確になり、目標が定まることがある。築地松調査がきっかけとすれば、いい経験になったと思う。

 三峡は、中山路と呼ばれる道を挟んで短冊型の住居が並ぶ街並みである。最初の驚きは短冊形住居にある。
 街並みの全長はおよそ270m、そこに界壁を共有した、間口が4-5mの住居が50数軒ずつ、道の両側あわせて100数十の住居がすき間なく並んでいるのである。奥行きは、短い住居で20m強、長い住居はなんと80mに及ぶ。わずか4-5mの間口で奥行き20-80mの住居を想像できるだろうか。地籍図(図)を見たときの驚きは序の口で、中山路を歩いて間口の狭さに再度驚かされ(写真)、何軒かの実測調査で奥行きの深さにまたまた驚かされることになった。
 間取りは、中山路に面してとられる共有通路の亭仔脚、次に店、その奥に中庭、続いて部屋、また中庭、続いて部屋の構成になる。奥行きの長い住居は、中庭・部屋がくり返されていく。最初の店部分の列を一進、中庭の次の部屋の列を二進、その次の中庭の奥の部屋の列を三進、以下同じく四進、五進・・と呼ぶそうで、隣り合わせの住居はだいたい同じ位置に一、二、三・・進が並ぶ。言い換えれば、ほぼ同じ位置に中庭が並ぶことになる。
 界壁を共有し、間口が狭く奥行きが長い連続住居のため、採光通風は極めて不利になる。それを連続住居のほぼ同じ位置に中庭を並べることで解決しているようだ。そうでなければ、間口4-5m、奥行き20-80mで、界壁を共有した住居に住めようがない。
 では、どうして間口4-5m、奥行き20-80mの街並みをつくろうとしたのか、疑問になる。中山路を歩いて気づくことは、100軒を超える住居のすべてが店を構えていることである。中山路はおよそ270m、そこに100軒が店を構えようとすれば、必然的に1軒あたりの間口は270/50≒5mにならざるを得ない。中山路と平行してもう一本道をつくり、住居を4列にして間口を倍の10mほど、奥行きを半分にする都市計画も考えられるが、この方法だと道が二分されてしまう。そうなると人の賑わいも二分されることになる。一本の道に店がすべて並ぶ賑わい方と、二分されて店が並ぶ賑わい方とどちらが商いにむいていて、購買欲が高くなるのだろうか。少なくとも三峡の人々は一本の道に店を並べた賑わい方を選択し、結果として間口が4-5mになり、そのため居住性の不利をカバーしようと中庭をほぼ同じ位置に設けた、のではないだろうか。
 京町家の店構えに通じる都市デザインといえよう。

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