book471 箱根の坂 上中下 司馬遼太郎 講談社文庫 2004
主人公は戦国大名の先駆けとなった北条早雲(1432?1456?-1519)である。早雲は箱根の坂を越えて小田原城を攻め落とし、のち小田原城は後北条氏の本拠として、1590年の豊臣秀吉(1537-1598)による小田原征伐まで栄えた。司馬遼太郎は早雲の生涯を物語りながら、日本が守護大名から戦国大名に変わる革新を描き出している。
上巻
若厄介
舞台は京の南東、宇治川の上流の山あいに小さな集落の田原郷で、まず次男のため若厄介と呼ばれる小次郎が登場する。冒頭で、司馬遼太郎は日本の百姓の有様を解説する。続いて、このあたりでは大百姓格の大道寺家に預けられていた伊勢家の支流の庶子である千萱が登場する。司馬遼太郎は、さらりと8代将軍足利義政、弟の義視、夫人日野富子、伊勢新九郎=のちの北条早雲と当時の不安定な政治に触れる。
京
大道寺太郎の指図で、小次郎と荒木兵庫は千萱の供をして伊勢家に向かう。窮民の次三男が寄り集まった足軽に触れ、戦いの変化を予感させる。一遍(1239-1289)の唱えた時宗の僧、願阿弥が登場する。
伊勢殿
願阿弥の案内で千萱一行は伊勢家に着く。足利3代将軍義満(1358-1408)は小笠原氏、今川氏、伊勢氏に殿中の礼式を再編させた。以来、伊勢氏は殿中の作法を取り仕切り、将軍の子は伊勢家で育てられ、行儀作法を会得することになった。千萱が訪ねた伊勢貞親は8代将軍義正の申次衆であった。
新九郎
伊勢氏の傍流の庶子伊勢新九郎は伊勢氏秘伝の鞍づくりの名手として登場する。伊勢新九郎こそのちの北条早雲である。
千萱
伊勢貞親から伊勢新九郎の妹の身分にされた千萱は、8代将軍義正の弟である義視家に奉公する。伊勢新九郎は足利義視の申次衆でもあった。司馬遼太郎は足利体制のもろさに言及し、戦を予感させる。また、今様とこのころの男が通う婚姻を解説する。
駿河舞
駿河国守護職を継いだ今川義忠が登場する。今川氏は歴代の将軍から手厚く遇されてきた。8代将軍義正は政争の混乱で警護に不安を感じ、義忠を上洛させたのだが、その義忠が千萱と出会い、臥所をともにする。
骨皮道賢
司馬遼太郎は国人・地侍、農民の台頭による変革を予感させる。伊勢新九郎は、鞍を届けた骨皮道賢に加勢して戦いを経験する。骨皮道賢曰く、室町御所のように位階で人を見ぬ、所領で人を見ぬ、人はこの目玉でじかに見る・・この目玉で見て人を信じる・・。
一夜念仏
今川義忠の駿河国で勢力争いが激しくなる。一方、千萱は義忠の子を宿す。
兵火
応仁の乱が進行している。東軍総帥細川勝元、西軍総帥山名持豊、中立のはずの将軍義正、日野富子らの権謀術数が渦巻く。義視は義正から東軍総帥を命じられる。
出奔
日野富子の脅しで、義視は伊勢新九郎の助けを借り、京を抜け出す。
早雲
8年経ち、山名持豊、細川勝元が死に、伊勢貞親も死ぬ。義視は没落した。牢人になった伊勢新九郎は早雲と自称し、旅に出た。千萱は竜王丸を生み、北川殿と呼ばれ、駿河国の館で暮らしていた。浅間宮の参詣の途中で偶然にも早雲を見かけ、駿河国で商いをする長谷川法栄の屋敷に行かせる。法栄は今川氏に仕えるよう話すが、早雲は「もとめられる場所で生きる」といい、京に戻ってしまう。
急転
早雲が京に戻ったある日、法栄が訪ねてきて、今川義忠が討ち死にしたことを知らせる。竜王丸はまだ7才、早雲は駿河行きを決意する。
ここまでが上巻で、応仁の乱の混乱と新たな時代の伏線を語っている。
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