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「ハプスブルク帝国」はヨーロッパに君臨した700年間の王朝を系統的に紹介している

2016年04月12日 | 斜読


book416 ハプスブルク帝国 新人物往来社編 新人物往来社 2010
 /2016.4読   (斜読・日本の作家一覧)
 すでに、「名画で読み解くハプスブルク家12の物語」、「ハプスブルク家の人々」を読んだ。前者は名画を題材に12の物語を紹介し、後者は本流から外れたエピゴーネンを紹介していて、それぞれ説得力があり、新たな知見を得ることはできるが、ハプスブルク家がヨーロッパ史、世界史に与えた影響を体系的に理解するのには向いていない。
 そこで見つけたのがこの本である。副題に「ヨーロッパに君臨した700年王朝」とあるように、ハプスブルク帝国を4時代に分け、系統的に記述しようとしている。
 
 目次を紹介する。 第1部 王朝草創 概説 ヨーロッパの変容と帝国の誕生 ルドルフ1世 忠実なる騎士、ドイツ王となる アルプレヒト1世 肉親殺しと雌伏の時代 ルドルフ4世 大胆不敵な偽文書 大特許状 アルプレヒト2世/フリードリッヒ3世 大愚図皇帝、帝位奪還

 第2部 世界帝国への飛翔 概説 改革の時代と帝国の解体 マクシミミリアン1世/カール5世 結婚政策で大帝国を築く フェルディナント1世 オスマン帝国からウィーンを防衛 マクシミリアン2世 信教に傾倒し、国を危うくする ルドルフ2世/マティアス 兄弟の不和が大戦を招く フェルディナント2世 30年戦争の泥沼に沈む帝国 フェルディナント3世 追い込まれた神聖ローマ帝国 レオポルト1世 度重なる戦争に潰えた平和主義 ヨーゼフ1世/カール6世 最大版図と不安な帝位継承 

 第3部 スペインの栄光 概説 日没なき大帝国の栄華と凋落 カルロス1世 数多の称号を得た帝王 フェリペ2世 日没なき大帝国の王者 ドン・ファン・デ・アウストリア 勝利を導いた神から使わされた男 フェリペ4世 王家に立ちこめる暗雲 カルロス2世 孤独な王の遺言とスペイン継承戦争

 第4部 帝国の衰退と終焉 概説 混迷の時代と世界大戦 マリア・テレジア ゆるやかな衰退の始まり ヨーゼフ2世/レオポルト2世 女帝の息子たちの改革と反改革 フランツ2世 ナポレオンの災禍にあえぐ帝国 フェルディナント1世 傀儡となり革命に翻弄される フランツ・ヨーゼフ1世 帝国とともに老いゆく国父 メキシコ皇帝マクシミリアン 野望の皇弟、異国に散る フランツ・フェルディナント大公 世界大戦の引き金となった死

 目次を読んでも、ハプスブルク王朝の系譜とヨーロッパ史、世界史の関係が体系的に理解できよう。登場する人物は前述の2冊とかなりダブっているが、系統だって記述されているので、起承転結の流れが理解しやすい。
 図版も豊富で、偶数ページにまとめてあり、読みやすい工夫がされている。付録のハプスブルク家関連略系図を参照すると、系統的な理解がさらに深まる。
 ハプスブルク家を知りたい、ハプスブルク家がヨーロッパ史、世界に及ぼした影響を大づかみしたいという初学者向けの格好の本といえる。

 もちろん、気になる点もいくつかある。一つは、第1部~第4部を4人の研究者が執筆しているのだが、4人4葉に論を展開したのに留まっている。
 ハプスブルク王朝全体としてどのような功罪があったのか、あるいはハプスブルク王朝の強みと弱みは何か、ヨーロッパ史、世界史に果たした役割は何か、といった700年に及んだ王朝全体の概説があるとハプスブルク家の理解が深まったと思う。
 もう一つは、これまでの理解とは異なった記述がいくつかあった。たとえば、p40にマクシミリアン1世がカルロス1世をスペイン王として即位させると書かれている。
 しかし、これまでの学習では、アラゴン王とカスティーリャ女王の娘フアナの息子カルロスがカスティーリャ王となり、次いでアラゴン王を継いでスペイン王国が生まれ、前後して神聖ローマ皇帝位を継いだと、理解していた。もし筆が滑ったのなら、ほかの記述にも不安を感じる。
 とはいっても、700年の王朝史には小さなことであろう。この本がハプスブルク王朝を系統的、体系的に理解する初学書としておすすめであることは間違いない。帝国をめぐる人物像やコラムも息抜きを兼ねた新たな知見になった。(
2016.4読)

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