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ブックレビュー「張栩の詰碁」

「張栩の詰碁」(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4839921245/ref=sr_11_1/503-2337465-1532766?ie=UTF8)という本を買ってきた。張栩九段は、台湾出身の若手棋士で、正確な読みに裏付けられた独特の迫力があって、私の好きな棋士だ。同郷の天才、山下敬吾九段と共に、若手棋士の中では、特に応援している。もっとも、詰め碁の本は、まだ詰め終わっていないものがたくさんあって、現在、是非とも必要だというわけではなかった。だが、本屋で手に取って見るうちに、風変わりな本だなと思い、気になったので、購入した。

さて、この本の風変わりな点の一つは、「夫婦合作」である。囲碁を知らない人も、お暇があったら、書店に行って、この本の22ページから数ページにわたる小林泉美さん(張栩九段の奥様)の「詰め碁と張栩と私」と題するエッセイを立ち読みしてみて欲しい。結婚に至る、若い恋人たちのデートの様子が出てくるのだが、このデートの様子が凄まじい。

本当に読む価値のある名文なので、是非読んでみて欲しいのだが、たとえば、最初のデートの際の話題は「地合いの正しい計算方法」だったという。張栩九段は、持論を説明した後に、泉美さんに「この地は何目か」という問題を出題して延々と考えさせたのだという。張栩九段の言い分は、「泉美ちゃんには、もっと強くなってほしい。まず自分が一番力になれるとしたら、この分野だから」というものだったという。何という直球勝負の恋愛戦略か!

小林泉美さんは、日本が生んだ名棋士の一人である小林光一九段の実の娘さんで、お母さんも女流棋士だった。NHK教育テレビでは、男子プロ相手に、強手を連発して活躍する場面を何度も見ていたので、詰碁が得意かと思っていたが、張栩九段のレベルから見ると、まだまだ不足だったということか。これは、意外だった。

その後、張栩九段自作の詰碁を大量に渡されて、これを解いて、答え合わせをする、というようなデートが繰り返されて、結婚に至る顛末が書かれているのだが、詰碁を頭の中に入れて考えることで、頭の中に、クリアな碁盤が出来ると、読みの力が増して、強くなるのだという。

詰め将棋なら、将棋盤は9×9なのである程度までは頭の中に入れて考えることができそうだが、頭の中に碁盤(19×19)をクリアに入れた状態というのは、今一つ想像しがたい。ただ、プロのレベルで強くなろうとする場合に、詰碁や詰将棋をこういった形で解くことが、有効なトレーニングになることは分かる。スポーツでも、ゲームでも、どのレベルを目指すのかによって、トレーニング方法は違う。高いレベルを目指す場合は、最初から、それなりのトレーニングが必要なのだ。

私は、目下、囲碁も将棋も実戦の機会が殆ど無いのが残念なのだが(どちらも、「それほど強くないアマ4段」くらいだ)、詰将棋なり、詰碁なりの、トレーニングをやってみたいというような気持ちはまだある。基礎的なトレーニングをしっかりやれば、もう少し強くなる筈だ、という実感(と共に希望)があるのだ。基礎的なトレーニングを積んで、レベルが上がると、もちろん自分の実力もアップするし、新聞やテレビを見る際にももっと楽しめるようになるはずだ。

とはいえ、囲碁をやるか、将棋をやるかにも迷うし、それ以前に、PCの前に居ない時間に、頭の中では、次に書く原稿のことを考えていたりもするので、こうしたトレーニングの時間を取るのは、趣味であっても、なかなか難しい。

「頭の切り替え」と「計画性」と「強い意志」の重要性を、改めて認識する。しかし、先ずは、詰碁から、始めてみるか・・・。向上するものが何かないと、人生はツマラナイ。
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