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神樂坂隧道


 西秋生       西秋生作品集刊行委員会

 出色の短編幻想小説集である。昨年、早世した西秋生の初めての作品集。西は神戸を題材とした著作は「ハイカラ神戸幻視行」があるが、小説集が世に出たのは初めてだ。
 西秋生はもともとはSFを出発点とした作家。大学のクラブはSF研究会だった。眉村卓がパーソナリティを務めた深夜ラジオ番組「チャチャヤング」の常連投稿者となり、その後、筒井康隆主宰の同人誌「NULL」に入会。同誌にショートショートを投稿、あの筒井さんをして「完璧」といわしめた。今まで、「知る人ぞ知る」的な作家だった西秋生の作品が、こうしてまとめて読めるわけだ。
 内容は、西のエッセイと9編の短編小説。それに、眉村卓、高井信、かんべむさし、江坂遊、井上雅彦、森下一仁、堀晃、大町聡、西ゆかりの八氏の追悼エッセイ。あとがきは夫人の妹尾凛が書いている。
「1001の光の物語」12段の文章の光の点の集合体。一つ一つがハイカラモダン。タルホ的文章のルミナリエ。
「マネキン」兄貴は壊れたマネキン。筒井康隆が完璧といった作品。
「走る」バイクで走る。走り続ける。
「いたい」幻肢痛。姉さんは何を失ったのだ。
「星の飛ぶ村」村にUFO。村人は気にしない。それより神かくしの方が気にかかる。
「チャップリンの幽霊」実はチャップリンは神戸で死んだ。その神戸は新開地に新聚楽館ができる。西秋生ならではの摩訶不思議玄妙な架空歴史モノ。
「神樂坂隧道」神樂坂の隧道に招き入れられた主人公。隧道の中は妖しげな見世物小屋がある不思議な世界。旧かなづかひで書かれた傑作ホラー。
「翳りのそしてまぼろしの黄泉」大事件が続いている。夜見湖で見つかった不思議な二体の死体。それをネタに3人の作家が競作する。
「5:46」5:46とは1995年1月17日午前5時46分のこと。阪神大震災の瞬間を濃密に描写。
 かえすがえすも西秋生の早すぎる死が惜しまれる。年とって年季を経た西がどんな素晴らしいモノを書いていたことか。
 この本はオンデマンド出版。ご注文はこちらからどうぞ。

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