石山さんと合流する時間まで、私たちはニャンウーの市場を訪れることになった。
市場は電話を使わせてもらったホテルからすぐのところで、
「ここですよ~」
とTさんに言われるまで着いたことすら気づかないほどの近さだった。
さらに市場といえるようなコンリート作りの建物が建っているわけでも、それらしい看板が出ているわけでもなく、木造の建物の小さな商店が密集している昔ながらの市場だったから、なおさら気づかなかったのだ。
ミャンマーでのお買い物はだいたい市場で、ということが多いようだ。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアというのは未だ一般的ではなく、日本や欧米式のスーパーマーケットに至っては私の見たところヤンゴンにあるシティマートというチェーン店が数店あるだけのような。
あとは昔ながらの市場ばかりで、どちらかというと私はスーパーマーケットのような殺風景なショッピングモールは好きではないので、それはそれでいいのだが、コンビニがないのは、かなりアンコンビニエントなことだと思っている。
お隣のタイにはカルフールやトップスという欧州系のスーパーチェーンがあちらこちらにあり、さらにはジャスコまであるので日本とほとんど変わらないし、コンビニに至ってはファミマ(日本資本)とセブンイレブン(日本資本)が壮絶な戦いを展開しており、だいたい困らない。
そういうコンビニ生活に慣れきってしまった「ヘタレ日本人」の私なんぞには、ミャンマーやベトナムは多少不便に感じる場所ではある。
とは言いつつ、普通の市場は昔の日本の公設市場や街角の市場を想起させ、懐かしくあり、かつ楽しい。
ニャンウー市場の敷地はかなり広い。
お店のジャンルも多岐に渡っていた。
衣料品のお店から日用雑貨、金物店、花屋、薬屋、米屋、八百屋、肉屋に魚屋などなど、なんでも揃っていた。
正直、肉屋と魚屋は衛生面で????という感じは否めないが、八百屋は作物が溢れているし、ベトナムの田舎の市場に比べると通路などは綺麗に掃除もされているので、どちらかというと快適な場所であった。
場所柄、観光地のバガンに隣接しているためか観光客相手に土産物を売る店も数多い。
地元の名産品の一つである漆器類。
あやつり人形。
ミャンマーサッカーの竹で編んだ蹴鞠などなど。
「ヤンゴンで買うよりもずっと安いですよ」
とはTさんの弁。
他のガイドさんが「安いですよ」と言う場合は「本当は高くて、ガイドさんに紹介手数料が入ってしまう」というのが普通なのだろうが、Tさんは違う。
Tさんが「安い」というものは本当に安く、信頼できる。
というのもTさんはガイドさんにしては妙に律義なところがあり、バックマージンは絶対に受取らないというスピリットがあるのだ。
初めてミャンマーを訪れた時、私が買い物をした後でTさんが憮然として私に突然キャッシュをつき出してきたことがあった。
「これ、店の人が私へのマージンだと言ってわたしてきました。こんなお金受取る理由はありませんから○○さんに返します」
私はビックリして、
「いいんですか? バックマージンは普通でしょ」
と言うと、
「他の人は知りませんが、私は嫌です」
とキッパリと断ったのだった。
ということで、なぜ私がTさんをミャンマーでの旅の案内人、もとい、友としているのかお分かりいただけたことと思う。
でもTさんはバックマージンのような灰色のお金は受取らないが、私と旅をして市場を訪れたりすると、どういうわけか客の私が買い物をせずに、Tさんが買い物に勤しむことが多い。
気がつくと、私が彼女の買い物のお伴をしているのだ。
私はもともと、どこへ行こうが何をしようが土産物を買いあさることがあまり好きではない。
好きではないどころか嫌いである。
なにも「土産物を買うとお金がかかる」というケチイ理由があるわけではない。
土産を買うと、荷物になるというのが私が土産物を買わない最大かつ唯一の理由だ。
一人旅を旨とする私は荷物が増えると、移動の時に困ることが多々あるからだ。
で、ここニャンウー市場でも、私が市場の通路で走り回っているガキを相手に写真などを撮っていると、Tさんは服地屋さんで反物の物色なんぞをしているのであった。
「ねえ、これとこれはどっちが良いと思いますか」
とTさん。
「........それは少し派手ですね」
と子供の写真を撮りながら私。
「そうですかね.......う~ん、これはどうでしょう?」
「.....それ、いいですね。」
「これにしようかな......て真面目に考えているんですか?」
「えっ、私が、ですか?」
「そうです」
という具合に、結構面白いのだ。
さらに、Tさんが店の人と値段の駆け引きを交わしているのを見るのも面白い。
最近の日本では値札のまま買い求めてしまう傾向が強い(大阪人と京都人は除く)が、買い物は一種のゲーム。
値段交渉をしながらお買い物をするのは楽しいことに違いない。
Tさんは、訪れた地方で布地だけ購入し、ヤンゴンの仕立屋さんで服に仕立ててもらっているのだそうだが、そのファッションセンスは悪くない。
石山さんをして、「Tさんて、センスいいですよね」と言わしめたくらいなのだ。
私はきっとTさんは衣装持ちなのだと思っている。
「では石山さんと合流してホッパさんへ向かいましょう」
さてさて、待ち合わせの時間が迫って来たようだ。
つづく
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