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とりがら時事放談『コラム新喜劇』



この映画は英国版の「プロジェクトX」だ。
紳士靴の老舗メーカーが経営不振から一時は解散の危機に直面するが、誰も想像しなかったニッチな分野を発見する。
「男用婦人靴」
ドラッグクイーンたちの大きな体重を支えるセクシーなブーツ。
それこそ、彼らを救う奇想天外な商品アイテムだったのだ。

まず、この映画を鑑賞して一番最初に思ったことは。
「なんで、大阪で上映しているのが、ここ1館(梅田OS名画座)だけやねん」
という疑問だった。
映画の配給会社は、常に市場調査を怠りなく、どの映画がどの程度の観客を呼び込み、どれくらいの興行収入をあげるのか予想を立てているはずだ。
ところが、これもやっぱりビジネスで、当たる映画というのは「人気俳優が出演している」「テーマ曲がヒットしている」「題材が今の社会にピッタリ」「すごいファンタジーだ」など、安全牌が含まれている映画を積極的に公開しようとする傾向がある。
出来が良くても下手に力を入れて宣伝すると、広告費だけがかさんでフィルムのプリント代金も払えないような映画を配給することになってしまい、担当者は減給かクビ、悪けりゃ会社が倒産する。
その結果「面白いけど、絶対当たらないや」と考えられる映画は公開しても数館止まりか、DVDでのレンタル販売止まりになってしまうのだ。

「キンキー・ブーツ」はまさに、そういう「(メッチャ)面白いけど、絶対稼げないや」という映画なのだ。

「有名俳優は出演していない」
「ハリウッドでも韓流でもなくて英国映画」
「出来のいい音楽だけど、客を呼ぶには力不足」
つまり、日本で公開するには華がない。

もともとこの映画の予告編をアップルコンピューターのQuickTimeの予告編ページで見つけた時、その予告編だけで十分に面白そうな予感がした。
テーマがニッチで興味を引いた。
真面目(という言葉が適当かどうかはわからないが)なシューズメーカーが生き残りのために、ある意味プライドを捨てる。
しかし、その捨てたプライドは、言うなれば保守的な石頭で、メーカースピリッツまでは捨てなかった。
その職人魂こそが、ミラノの展示会で絶賛を浴びるブーツを作る原動力にもなったのだ。

突然の父の死をきっかけに会社を継いだ若社長。
その若社長が人生最悪の日と言った「15人に解雇を言い渡した日」が反動となり、どこよりも人を大切にする経営者に生まれ変わるのも見逃せない。
「工場は設備や建物ではない。人である」
終盤のセリフ。
まさに、これこそ映画のテーマなのだ。

ところで、昨日映画を見て帰宅して、たまたまインターネットの某サイトでアパレルの卸業を営む友人が「あなたの宝物はなんですか?」の問いに「社員たちです」と答えているのを発見した。
私は良き友に恵まれて幸せだ、と思ったのは言うまでもない。


~「キンキー・ブーツ」2005年ミラマックス映画 ブエナビスタ・インターナショナル配給~


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