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とりがら時事放談『コラム新喜劇』



もしもここが日本であれば、石山さんと合流するのはわけもないことだったろう。
携帯電話を取り出して、ダイヤルをプッシュするだけで彼女の予定と私たちの予定をアレンジ。
どこかで待ち合わせするのは簡単なはず。
でも、ここはミャンマー。
そうは問屋が卸さない。

まず、携帯電話がない。
いや、正しくは携帯電話のサービスは、いくらミャンマーでもあるのだが私たちは持っていない。
バガンで携帯電話のサービスをやっているかどうか分らないし、第一、ミャンマーの携帯電話サービスは極めて高いのでTさんやタクシーの運転手が持っている、ということはまずない。
私の鞄の中には日本から持ってきた携帯電話が入っているが、東南アジアではどういうわけかここミャンマーだけがサービス圏外になっているので使えない。

「どうします?」
と私。
「とにかくニャウーへ行きましょう」
とTさん。
「まずはヤンゴンの事務所に電話しなければいけませんから」

石山さんが利用している旅行社はTさんの勤務する旅行社であることは先述のとおり。
まずは本社に連絡しなければならないのだろう。

タクシーは15分ほどで、ニャウーの街に到着した。
アスファルトで舗装された大通りが大きく弧を描き、デコボコの砂利道と交差している場所だ。
通りの両側には商店やホテルが建ち並んでいる。
タクシーは交差点の角地に建っている小さなホテルというかゲストハウスの前で停車した。

「ここで電話を借りてきます。ちょっと待っていてくださいね」

Tさんはタクシーの中に私を残しゲストハウスの中に入って行った。

タクシーの中でボンヤリと待つのも芸がないので、私はタクシーを降りてTさんがヤンゴンに電話をしている間にこの交差点周辺を探索することにした。

時間がちょうど通勤通学時間に当たるためか、学生の姿が多く見られる。
高校生ぐらいの年ごろの学生たちは自転車に乗って通学。
中学生ぐらいの年ごろの学生たちは馬車に乗って通学。
小学生の子供たちは手をつないで仲良く徒歩で通学。
という感じだ。
中学生ぐらいの年格好の男の子が手に下げている銀色に輝く筒状のステンレス製容器は重箱式の弁当箱。
初めてミャンマーへ来た時、ヤンゴンの市場で発見して「あれ欲しい」と思ったものの、「でも、荷物になるな」と買い求めずにいたものだ。

それにしても今日も天気がいい。
3日前に大雨に見舞われて列車で立ち往生したのが嘘のようだ。
ミャンマーは広い国なので場所によって天候がかなり異なるのだろう。

目の前を阪急バスの塗装が施された乗り合いバスが地面の砂を押しつぶしながらザザザザと通りすぎる。
そうかと思うと、農耕用トラクターの後ろに座席をつけたようなボロボロの乗り合い自動車が人の歩くようなスピードで通りすぎる。
目の前の万屋さんの前では、故障しているのかな、ボンネットのカバーを開けてトラクターを整備してる人がいる。
一階の店舗で日用品を売っている万屋さんも見くびってはいけないようで、二階の屋根には衛星放送のパラボラアンテナがついている。
交通量はかなりある。
ニャウーは大きな街のようだ。

Tさんはなかなかホテルから出てこない。
ヤンゴンと電話が通じにくいのかな。
ま、街の風景を眺めるだけでも結構楽しいので少々時間がかかろうが私はお構いなしだった。

やがてTさんがホテルから出てきた。

「は~.......」
「どうしたんですか?」
「大変でした。」
「何がです?」
「事務所にはすぐに連絡がついたんですが、石山さんのガイドとちょっと言いあいをしてしまって」
「言い合い......言い争いですか?」

Tさんの話を要約するとこうだ。
ヤンゴン事務所に電話を入れると、責任者はすぐにOKを出してくれたそうだ。
ところが、先ほどのホテルに電話を入れ、石山さんのガイドさんに連絡をとると、
「それは困る」
と言い出したというのだ。
「会社の指示ではるばるヤンゴンからバスに乗ってここバガンまでやってきた。私は契約のガイドだからお客さんを案内しなければ一日のチャージが貰えなくなる」
という理由らしい。
誠にごもっともではある。
しかし、
「お客さんの要望がビジネスでは一番大事でしょう。あのガイドはそれが分ってない」
とはTさんの弁。
石山さんもガイド料金を払っているのだから、石山さんのガイドさんは、私たちが一時的に彼女を連れ出したからといって日給を貰えないなどといった、そんな細かい話があるのだろうか、と思った。
ま、Tさんは契約ではなく正社員なので、そういう細かな心配をしなくてもいいのかも知れないが。

そこで、昨夜のレストランからの移動でも、わざわざ石山さんと私とTさんの乗るタクシーを近距離でありながら、きっちと分けた理由が合点いったのであった。

「で、どうなんです?」
と私。
「大丈夫です。後で合流することになりましたから。それまで市場を見学しましょう」
とTさんは気分を取り直し、私とタクシーへ乗り込んだのであった。

つづく

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