ジョジョのオヤジはディーラーと組んでポーカーに勝つ方法を説明しはじめた。
カードさばきだけはポール・ニューマンのオヤジはポール・ニューマンと同じように何度も同じカードを見せたり、きったり、配ったりして、ロバート・レッドフォードな私の目を丸くさせた。
「いいかい。わかった?」
「凄いですね。凄いテクニックです」
と正直に私は感嘆の声を上げた。
感動の声をあげる私に満足したのか、オヤジの話しは次のステップへと進行した。
「実は、この近くにブルネイのお金持ちが住んでいるんだ。そのお金持ちをここに呼ぶから、一緒にゲームをやってそいつから金をしこたま巻き上げないか」
ブルネイ。
正式にはブルネイ・ダサッラーム国。
天然ガスが豊富なイスラム王国として知られており、位置はシンガポールから東へ飛行機で1時間ちょっとのところ、ボルネオ島の北半分にある。
ちなみに南半分はインドネシアだ。
ブルネイは一般の日本人にはあまり馴染がない名前の国であるにもかかわらず日本との関係は非常に深い。
その繋がりは戦前日本の植民地であったことにも起因するが、ここの天然ガスのほとんどを東京ガスや大阪ガスが買い上げており、私たちが自宅で使用している都市ガスの多くはここブルネイで産出するものなのだ。
また、ブルネイは東南アジア諸国で唯一貿易を円建てで行っている国としても知られ、1997年のアジア通貨危機の時に、この国だけはなんの影響も受けなかったことが有名でもある。
そういう天然資源に恵まれたブルネイ。
そのブルネイのお金持ちが、カード捌きだけがポール・ニューマンのこのオッサンの話によれば、ここの近所に住んでいるのだと言う。
しかもそのブルネイ人は性格劣悪でみんなの嫌われ者だとも言う。
おまけに先ほど聞いたようにカード捌きだけがポール・ニューマンのこのオッサンの女房は入院中で金も要るのだという。
ということで、
「イカサマ賭博に協力してくれ」
という趣向らしい。
でも、ここまで来ると私も確信を持てたのであった。
「ブルネイ」
は、イカサマトランプ詐欺話で登場する代表的な名称であるばかりか、「ブルネイのお金持ちを騙すため」と称して無知な日本人をギャンブル地獄にはめ込んで、
「約束と違うやん」
とディーラーのオッサンに文句を言うと、
「すまない。手違いがあったんだ」
とか、
「何を言いやがんだ。今さら」
と凄まれたりすることも有名な詐欺の手口なのでった。
むし取られる金額はだいたい50万円(一般的なカードご利用限度額)ぐらいだそうだが、この金額は大学卒業ホワイトカラーの初任給が12万円、高卒初任給が3万円くらいのこの国にとってはとてつもなく大きなものなのである。
もちろん50万円といえば日本人にとっても決して小さな金額ではない。
正直、40インチ以上のプラズマテレビを購入することのできる金額なのだ。
「手伝ってくれるか?」
とオッサンはニッコリ笑って私の気持ちを促した。
「必ず勝たせる」
とも言った。
しかしロバート・レッドフォードな私としては、このシチュエーションではカード捌きだけはポールニューマンのオッサンに加担するわけにはいかなかった。
なぜなら、オッサンがターゲットにしているカモはブルネイのお金持ちではなく、私だからであった。
したがって、答えは一つ。
「イヤです。協力できません」
というものだけだった。
オッサンは失望を顕にした。
昼飯も食わせた。
ディーラーの手口も教えた。
金持ちのブルネイ人がいるということも話した。
なのに、なんで話に乗ってこないんだ?
「どうして?勝たせるって言っているでしょう」
「はい。でも、できません」
「なぜ?」
私はオッサンに断る理由を提示しなければならなくなった。
正直、遊びの会話ではないので困った。
困ったが、私の口からは次のようなセリフが自動的に発せられたのであった。
「私のファミリーには家訓があり、その中にギャンブルをやってはいけませんよ。絶対に。というのがあるんです」
自分でもどうして「家訓」なんて言葉が出て来たのか信じられなかった。
第一、「家訓」なんて英単語を教わった覚えもないのに、「家訓で禁じられています」なんて自然にでてきたのは、いったいどういう力が働いたのだろうか。
ともかくオッサンは目を丸くして驚いた。
オッサンもどうきり出していいのか分らなかったのであろう。
つづく
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