日本国内で活動するミャンマー反体制派政治活動家やその支援者からは「トンデモ外交官」とされている元駐ミャンマー大使の山口洋一氏。
私がミャンマーという国に本気で関心を持つきっかけになったのは、この山口元大使が著した「ミャンマーの実像」という一冊の本だった。
スーチーさんと軍事政権しか表に出てこないミャンマー。
そのミャンマーの本当の姿とはどのようなものなのか。
「ミャンマーの実像」はテレビや新聞を通じて知っていた知識とは随分と違ったミャンマー像を描き出しており、正直言って私にはかなりのショックだった。
ホントにこれは事実なのか、とさえ疑った。
一方、国内のメディアは朝日新聞が連発する捏造、偏向記事を代表として信頼度が薄れ始めた時期でもあった。
「これは一度自分の目で確かめなければ」
と私は思った。
タイと違ってミャンマーへの渡航費は今もそうだがタイ旅行の120%~200%割高になる。
「ミャンマーの実像」を読んだ時は全日空が関西空港からヤンゴンのミンガラドン国際空港まで直行便を飛ばしていた頃なので行くには今より便利な筈だったが、航空運賃そのものが非常に割高なのに加えて、ミャンマーに入国する際の強制両替制度などが存在したため計画を立てるだけで実行に移すことがなかなかできななかった。
つまり予算の関係でなかなか足を前に踏み出せずにいたのだった。
その後、ミャンマーとの国境の町タイのメーサイを訪れた時、国境を自由に出入りす少数民族の人たちや、乳飲み子を背負った物ごいの子供たちの姿を目にすることになった。
タイで接したミャンマーという国。
どんな国なんだ、とミャンマーの空気に初めて直接触れた私はミャンマー旅行を決断した。
そして2年後、初めてミャンマーの大地を踏んだのだった。
実際に訪れ自分の目で見たミャンマーは新聞やテレビの情報よりも山口元大使の著作の方が現実であることを示していた。
ただ、訪問回数を重ねるたびに大使は少し政府の人たちの知人を作り過ぎたな、という感をもったことも確かである。
軍人で占められている政府の役人はかなり腐敗していたからだ。
それでもミャンマーはメディアが伝える北朝鮮と同じような国家ではなかった。
この山口元大使の本を発見したのは大阪本町にある紀伊国屋書店。
国際情勢のコーナーで偶然に目に留まって、少々割高だったが読んでみたくなって買い求めたのだった。
この元大使の著作との出会いはある意味運命的でもあった。
ある日、ヤンゴン市内をタクシーで移動していたときガイドで友人でもあるTさんが日本語の勉強を始めた頃の話を教えてくれた。
「私に初めて日本語を教えてくださったのは山口先生なんです」
とTさん。
「へ~、山口って先生が日本からヤンゴンに日本語教師で来ていたんですか。」
「いいえ、山口先生は山口大使の奥様だったんですよ。」
ミャンマーを訪れるたびにお世話になっていうTさんの最初の日本語先生は山口大使夫人だったのだ。
それを知って私は無論驚いた。
しかしそれ以上に、ミャンマーという国に私が来ることになったきっかけを作った一冊の本が妙な形で繋がっていたことに日本とミャンマー、同じ仏教国ならでははの「縁」というものを強く感じたのだった。
「思い込みの世界史」はその山口元大使が退官後に著した世界史の本。
ただ「ミャンマーの実像」と同じく従来の世界史とは視点の違っているところが本書の興味深いところである。
マスメディアが伝える姿とは全く違ったミャンマーの実像を伝えた山口氏の著作だけに、その視点が面白い。
「日本人の習う十字軍はヨーロッパ側から見た姿。ではアラブから見たらどうなるのか」
冒頭に記されていたそういう意味合いの一文にまたまた興味をそそられ買い求めた。
相変わらずミャンマーの軍政に味方しすぎの部分が気にかかるが、トルコの歴史やギリシアとの対立など、普段の日本人が知らない駐在経験のある外交官ならではの情報と視点が学校教育でしか知らない私たちの世界史を見る目を新しくさせてくれるのは間違いない。
~「思い込みの世界史 外交官が描く実像」山口洋一著 勁草書房刊~
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