いよいよ板橋へ戻る列車が到着する時間が迫ってきた。
私は改札口をくぐりエスカレーターに乗ってコンコースを経由しプラットホームへ降り立った。
その時、腹が鳴った。
やはり昼飯を食いっぱぐれた影響が体に表れている。
胃袋は正直なのであった。
「板橋に戻ったら地下鉄に乗って西門駅で降りよう。
西門は板橋から約15分。
台北の渋谷といわれるところで、大きな繁華街だ。
きっと美味しくてオシャレで、安いレストランがあるに違いない。」
と、台北に戻ってからのことを考えている時に、トンネルの奥深くから地響きが聞えてきた。
板橋行きの新幹線が近づいてきたのだ。
ヘッドライトを点灯させ、警笛音はさせずにインバーターの減速音を轟かせながら台湾高鉄700T系が桃園駅上りホームに滑り込んでくる。
ボディ下部を彩るオレンジ色が美しい。
雨で車体が濡れているためだろうか、ボディの白い部分もオレンジ色になっているのように見える。
いや、見えるのではなく、その通りボディの白い部分もなにやら汚れて薄いオレンジ色になっているのであった。
なんでじゃ?
列車が停車して扉が開いて乗り込もうとした時に、ボディがオレンジ色に染まっている原因がわかった。
なんと、車体全体が薄く赤土色の泥に覆われていて、扉のフチの部分には走行中に生じたと思われる泥の塊が5ミリから10ミリぐらいの巾で付着していたのだ。
その泥の塊に触れて服が汚れないように注意しながら乗り込むと、車内はやはりポツリポツリと空きのある中途半端な満席状態なのであった。
ここにもフランス製座席予約システムのいい加減さが示されていたのだった。
帰りも私の座席はC席なのだったが、やはり往きと同じようにA席、B席は空席で、私は窓際のA席に移って、板橋までの短い時間、窓外の景色を楽しむことにしたのだった。
それにしても疑問が残る。
どうして新品の新幹線の車体が、こうも赤土で汚れているのだろうか。
台湾の雨には赤土が混ざっているのだろうか。
そんなアホなことはあり得ない。
もしかするとトンネルを通過している時にトンネルの天井から赤土の混じった湧水がドドドド、と降りそそぎ、新幹線の車体を汚しているのかもわからない。
でも、それはそれで少々恐ろしいことだ。
数年前、山陽新幹線でトンネルの一部が崩落し、破片が走行中のこだま号の屋根にぶつかり損傷した事故があった。
あのときマスコミは大騒ぎをして、ビビったJR西日本も全トンネルを緊急点検した。
しばらく新幹線より飛行機のほうが安全かも分らない、と思わせた事故だった。
台湾の新幹線が新品の車両にも関わらず薄い赤土で汚れているのは、トンネルの天井が崩れてきている兆しなのではないか、とも思えてしまい気持ちのいいものではなかった。
色々考えてみたが、新幹線の汚れは結局、台湾旅行の疑問として残ってしまった。
帰国してから「おしえてgoo」で質問してみようかとも思ったのだが、それも面倒くさいので止めにした。
桃園国際空港を遠目に、加速していく新幹線の中から静かに景色を眺めていたら、またまた腹がグーと鳴った。
ぱっと視線を前の席に移し、窓際のハンガーを見ると、そこにはビニール袋に入れられた弁当箱が吊るされていた。
幕の内弁当のような弁当箱なのだ。
ジャケットでもジャンバーでもなく弁当箱を吊り下げているところに台湾を感じたが、よくよく考えてみると、まるで温泉地へ向かうJR在来線の特急列車「サンダーバード(大阪~富山)」のような光景なのであった。
「弁当.........どこで売ってるんやろ...........」
私は呟いた。
それにしてもいくつかの疑問は残り、腹は減ったものの、待ち時間も含めて往復たった1時間少しの台湾高鉄の旅だったが、想像以上に楽しい鉄道の旅であったのは間違いない。
次は絶対に高雄まで利用してみようと、私は堅く心に誓ったのであった。
完
台湾高速鉄路(台湾新幹線)のホームページはこちらへ。
座席予約ができるみたいです。