石山さんとの待ち合わせの場所はニャンウー空港に通じる幹線道路脇の茶店だった。
いや、茶店と表現していいのか、万屋と表現すれば良いのか、小さな食堂と表現すればいいのか、カテゴリー分けに困るような店だった。
いや、それよりもここって店?
ニッパヤシで葺いた屋根。
玄関らしきものはなく、店と住居の区別もつかない。
商品は少しばかり並んでいるが、周囲は何もないので、もしかして住宅なのか。
ともかくジュースなんかも売っている小屋のようなところだった。
この茶店では二羽のインコが放し飼いにされていた。
放し飼いという表現が適当かどうかはわからないが、ともかく緑色の羽をした綺麗なインコが二羽竹で作られた天井の梁に止まったり、木の枝に止まったりしながら飛び回っているのだった。
茶店の一画に、この屋の主人が作ったという餌入れ付きの止まり木があり、そこに二羽のうちの一羽が止まった。
「手乗りインコだそうですよ」
とTさん。
「へ~、だから開けっ広げでも、どこかへ飛んでいくようなことはないんですね」
と私。
動物好きのTさんはインコの捉まっている止まり木にそっと手を延ばした。
するとインコはピョコンとTさんの指の上に乗っかった。
「あ、ホントに手乗りインコだ」
「ヒナの時から育てているんですって」
ちなみに私が手を伸ばすと、このインコは完全に無視。
関心すら示さない。
「こいつ、オスのインコですかね」
「ハハハ」
でも、こいつは茶店の男主人の手のひらには止まるので、単に私のことが気に入らないだけなのかも知れなかった。
チクショウ。
ますます腹立たしいインコ野郎である。
で、このインコ野郎は、また変わった食習慣のある鳥であった。
餌入れには豆のようなものや穀物が入れられていたが、こいつはその中から緑色のトウガラシを選んで食らいつくという、味覚が麻痺しているのではないだろうか、と思えるような感覚の持ち主なのであった。
「これ、物凄く辛いんですよ」
とTさん。
その物凄く辛い緑色の生トウガラシを片方の足でつまみ上げ、まるで人間がバナナを食べるような持ち方で美味そうに齧っているのだ。
こうして暫くの間、Tさんと一緒にインコ野郎と遊んでいたが、石山さんがなかなかやってこない。
時折、乗客を満載したピックアップトラックが通り過ぎる。
「あいつら何やってんねん?」
という興味津々の顔つきで乗客たちは、私たちがインコ野郎と遊んでいるところを眺めつつ通り過ぎる。
こういう場合、もしここが日本ならば、
「今、どこにいるんですか?」
と携帯電話で一発確認というところだが、ここはミャンマー。
前述したように、携帯電話が通じない。
あれやこれや遊んでいるうちに、やっとこさ石山さんを載せたワンボックスが到着した。
「待ってましたよ」
「すいませ~ん」
石山さんの声はメチャ明るい。
満面の笑みを浮かべて、とても嬉しそうな表情をしていた。
やはり誘って良かったのだ、と思った。
一方、石山さんのガイドさんもニコニコしていたが、私とは簡単に挨拶を交わした後、Tさんとちょっと離れたところでブツブツと打ち合わせを始めた。
話の内容はだいたい見当はつく。
首を突っ込んで話をややこしくすると刺激があって面白いかも知れない、という衝動にかられたが、私も大人なので無視することに決めた。
やがて無事、平和裏にTさんと石山さんのガイドさんの話し合いが終った。
さあ、これでいよいよ私たちはホッパ山に向けていざ出発。
私とTさん、そして石山さんは私のチャーターしていたタクシーに意気揚々と乗り込んだのであった。
つづく
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