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とりがら時事放談『コラム新喜劇』



実際のところ、猿たちがいなければ、ホッパ山登山はかなり過酷なものとなっていたのに違いない。
というのも、ホッパ山の登山参道の傾斜は、めちゃくちゃ急なのであった。

「へ~、じゃあ香川県の金比羅さんの参道みたいなもんなんだね」
というあなた。
あなたの推測は甘い。

ともかく相手はデビルズタワーのようなホッパ山である。
頂上付近の山肌はほとんど垂直。
その垂直の壁面に張り付くように参道は通じているので傾斜は生半可ではない。
ほとんどが屋根のあるコンクリートとタイルで固められた歩きやすい参道なのであるが、急である。
関西の人なら分るだろうが、「探偵ナイトスクープ」に採上げても不思議ではないほど急であり、さらには到るところに猿や派手派手なお釈迦様像や精霊像があるところから、桂小枝のパラダイスシリーズでも通じそうな場所なのだ。
一部は傾斜角度70度から80度はあると思われる階段というよりも梯子といったほうが適当なのではないかというような部分もあるのだ。
ただし、度々テレビのバラエティー紀行番組紹介されるような、
「中国秘境、眼下までの落差はなんと2000メートル」
なんてバカバカしいところはまったく無い。
そんな特殊な参道を作ったりすると老若男女、総ての人がお参りすることのできないチンケな寺院ができてしまう。
ここ仏教国ミャンマーは、あくまでもお釈迦様の教えに則った、本当にすべての人に平等(注:欧米的な意味における平等ではない)な思想が貫かれているのだ。
ただ政府だけが、そのお釈迦様の教えを守れていないのではないかと思えることろが国際的な非難の対象になってしまっているのであろう。

このような急坂なので、ただ登っているだけであれば、ある種のトレーニングと同じになってしまい、とってもくたびれたものになってしまっていたことだろう。
ところが参道の途中ではひっきりなしに猿たちがちょっかいを出してくるので退屈しない。
ちょっかいを出さなくても、ちょっとした岩の上で親子でポケ~としている猿たちを見かけたりすると、思わず心が和むのであった。

石山さんも元気に一歩一歩ホッパ山の参道を踏みしめていた。
昨夜の宴会で飲み過ぎ食べ過ぎし、夜中に相当苦しんだようで、今朝はすっかり体力を消耗しきっていた様子だったが、猿のおかげなのかそれともTさんとの気心があっているのか、私の先導の仕方が上手いのかどうか、果たして不明だが、息を切らせながらも陽気に登山しているのであった。

「あなた大丈夫ですか?」
とTさんが私に心配りをしてくれた。
私が少々太っているのを気にして声を掛けてくれたのだろうが、日頃スポーツクラブで汗を流すことを忘れない私は、これくらいの登山でへこたれる分けがない。
汗は流しているが、これはいつものことである。
「大丈夫です」
「そうですか」
と、Tさんはそれっきり後は私のことはお構いなく、石山さんが登ってくるのをサポートしているのであった。
相変わらず冷たいのか暖かいのか、真面目なのか不真面目なのか、私をからかって楽しんでいるTさんなのであった。

登りはじめて1時間もかからず頂上にたどり着いた。
「やった~! 到着!」
私たちは叫んだ。
頂上にはキンキラキンに輝く寺院が聳え、清々しい風が私たちの頬を撫でていく。
「うわ~、きれい~!」
と指さしたのは寺院ではない。
ホッパ山からの眺めが、美しく絶景だったのだ。

ホッパ山から眺める下界はなだらかな丘のつながりで、緑豊かな木々がそれを覆い、遥か彼方まで続いている。
もしここが日本なら、きっとゴルフ場やショッピングセンターなどの目障りな人工物が点在していたことであろう。
しかし、ここはミャンマー。
まだ人の手で開発されることなく自然の地形が広がっているのだった。

私はホッパ山からはエヤワディー川の流れやバガンのパゴダ群が眺められるかも知れないと思い込んでいたが甘かった。
さすがにそういう景色は見えなかったのである。

「では、行きますよ」

ベンチで私と石山さんとTさんは一緒に暫くへたり込んで山頂のそよ風で涼んでいた。
しかし、やがてTさんが出発を促した。
では頂上の寺院群を見学と行きますか。

つづく

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