クリが少しでも口にしたものは、すぐに多めに買い出しに行き、特別療法食も高栄養食も切らさないように買い入れていた。まさかあれほどすぐに「もう、これはいらない」ということになるとは予想できなかった。いつも期待だけが先走ってしまっていた。
多めに取り寄せて、それが届いた頃には「それはもう食べたくない」というものもいくつもあったのに、そのときは夢中だったから気にも留めずに同じことを繰り返していた。
残ってしまった大量のおやつや普通のフードは、子犬が2頭増えた赤木さんに「ゲンとキーには生後6カ月を過ぎてから与えるようにしてください」という但し書きを付けて送り、特別療法食やブナ、クリに投与しきれずに残ったさまざまな薬は、酒井先生に使ってもらうことにした。
クリが亡くなった9日の夜、手提げ用紙袋に満杯のそれらを持って酒井先生に報告にいった。
最期まで水を口にしたことを告げると、「それは珍しいことで、苦しみや痛みがなかったから受け入れられたのだと思います」とおっしゃった。苦しみや痛みがなかっただろうことだけでも救われる。おなかの張りは「腹水の可能性もありますが、おなかが鳴り活発に動いていたことから察すると、おそらくガスが溜まっていたのでしょう」と。
そうか、だから排便して、朝にはおなかの張りも減っていたのね。
先生にクリの抗てんかん薬も血栓予防の注射薬も吐き気止めも、すべて渡して帰って来たのに、そこに横たわっているクリが亡くなっているにもかかわらず、存在を目にすれば「あっ、薬の時間だ」と慌てたり、水を飲ませようと注入器を用意してしまう自分がいた。
冷たくなった頭をなでてやりに行って気付いた。顔の下に敷いてやっていたペットシーツに血が滲んでいることに。
ウンチやオシッコはもう出尽くしていたようで、お尻の下のペットシーツは汚れていなかったが、クリは鼻血を出していた。亡くなってから10時間余り、トチもブナも鼻血を出すことはなかったのに。慌ててシーツを替えてやったが、クリはそれ以降、大量に鼻血を出し続けたのだった。
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