小さな栗の木の下で

保護犬のミニチュア・ダックスを引き取り、
小型犬との暮らしは初めて!という生活の中で、感じたことを徒然に…。

犬たちへの献花

2014-04-07 | 犬&猫との暮らし
 ブナを見送った後、祭壇に花を欠かしたことがなかった。金欠で花束が買えなければ、たった一輪でも何かしら花を手向けてきた。

 かつて日本を代表するストックの育種家である黒川浩さんの圃場を訪ねたことがある。圃場は房総半島の突端にちかい館山市にあった。

 黒川さんが花卉栽培を手掛け始めたのは戦後まもなくのこと。食料も充分に行き渡るという時代ではなかったはずだと思い、私は「そんな時代に高価な花を買う人がいたのですか」と聞いた。

 すると黒川さんは遠くに目をやりながら、「そんな時代でも花は高値で売れました。花を求めている人が多くいたんです。あの戦争でどれだけの人が亡くなったと思いますか。何百万という人が亡くなったんです」と言って言葉を切った。
 そして、少しだけ強い口調で「自分が食べる物を我慢してでも、息子や夫の命日には仏前に一輪でも花を手向けたいという人がたくさんいたんです。あなたにそれが想像できますか」と言ったのだ。

 黒川さんの目がキラリと光った気がした。食べるためのお金を削ってまで花を手向けたいと思った人たちの情景が浮かび、目頭が熱くなった。私は黒川さんの目を見つめながら頬を伝う涙を拭い、何度もうなづいたのだった。

 取材中に涙をこぼすなんて申し訳なかったけれど、取材を終えて帰ろうとする私たちに、黒川さんは黙って温室の中に入り、ストックを大きな花束にして持たせてくれた。

 あの時の黒川さんの言葉と哀しみを湛えた瞳を思い出すと、今でも泣きそうになる。花は逝ったいのちに捧げ、悼むものであると同時に、生きている者を癒し、再生を祈る偉大なる自然からの贈り物なのだと思う。

 黒川さんが栽培を始めた当時、ストックは日本に入って来たばかりで栽培は難しかったけれど、水揚げもよく日持ちする切り花として珍重されたそうだ。花を求める人々の気持ちに応えようと、黒川さんはストックの育種を続けたのである。だから黒川さんの圃場がある館山を拠点に、房総半島ではストックの栽培が盛んなのだ。

 先週末、妹たちが房総に行くというので、私は妹に「クリの一周忌に手向ける花をたくさん買ってきて欲しい」とお願いした。
 道の駅などで売られている花は多分、卸売市場を通さず、生産者さんが直接持ち込んでいるからだと思うが、こちらで買うよりはるかに安い。お願いしたとおり妹が、私の好きなバラや香りのいいストックなどをたくさん買ってきてくれた。

  

 
 今朝、早起きして水揚げをし、朝の光の中で「主よ、人の望みの喜びを」をかけ、トチ、ブナ、クリを偲びながら色とりどりの花を活けた。水仙にデルフィニウム、カーネーションやスターチス……、部屋の中が明るくなり、清々しく満たされたひと時だった。

 

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