ブナが徘徊していた頃、ボッチはむやみに歩き回るブナに困惑していた様子だったが、遊び半分にときどきブナに猫パンチをくらわすことはあっても、ほとんどの時間を座面を壁のほうに向けていたソファの背もたれの上の縁を定位置にしてじっとしていた。
ところが、動き回っていたブナが亡くなると、ボッチは静かに横たわっていることが多くなったクリを尻目に我が物顔に部屋中を走りまわり、敷きつめてあったヨガマットで盛大に爪研ぎを始めた。足元がおぼつかなくなったクリのためにヨガマットは必要だったので、ボッチが爪研ぎをするたびに「こら~、これはお前の爪研ぎじゃな~い!」と叱るのだけど効き目なし。
ピンク色のヨガマットはとうとうボロボロになってしまい、買い替える羽目になった。ボッチの爪研ぎも何個か新調してやったのに、やはり新しく敷き直したヨガマットで爪を研いだ。クリは寝た切り同然だし、ボッチには怖いものなしであった。ソファの上からゲロを吐いてクリにかけてしまったり(わざとクリに吐きかけたわけじゃないけど)、寝ているクリにも猫パンチをして走り去っていったり、やんちゃし放題であった。
タオルに潜り込んだつもりのボッチ
私は、巨大結腸症で頑固な便秘を患い、あまり抱かれることも好まない、ちょっぴりへそ曲がりのそんなボッチを「引き取ってあげた」くらいに思っていた。
ものすごい奢りだった。
クリが亡くなると、ボッチはストレートに淋しさを訴え、私にくっついて回った。ボッチが我が家に来たときにはトチもまだ健在で、3頭はボッチをいじめることもなく快く迎え入れてくれた。大きな仲間が1頭、また1頭といなくなり、ボッチも淋しいのだ。私がトイレに入ると、ドアを閉める前に駆け込んで来たりした。
ブナとクリを相次いで亡くし、ガラ~ンとしてしまった家の中に、私にすり寄って来るボッチがいたことで、どんなに救われたことだろう。小さな猫の形をした「いのち」が、そこにいるだけで息をするのが少し楽になった。
ああ、この日のために神様は私にボッチを預けてくれたのだ。ボッチを「引き取ってあげた」のではなく「授けてもらった」のだ。私はなんと奢っていたんだろう。ボッチがいなかったから、誰もいなくなった空間の重さに押し潰されていただろう。
この痛みに一人で耐えたピッコイ母の辛苦を思った。新たに家族になったピッコイ似のアユンギも授かるべくして授かった神様からの贈り物なんだな。
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