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「さて、そろそろ大阪に帰ろうか」
と、東京メトロ日比谷駅を下車。
地上に出ると何やら女の子の集団がわんさかいるので「なんだなんだ、宝塚か」と思っていたらジャニーズの某の公演が帝劇で行われていた。
宝塚にしたら客の年齢層が固定されているし、東京なのにファッションセンスが「?」なので、合点がいった。
こんなチャラチャラしたところは早々に通過するに限るわいと思い、時間があったらちょっとだけでも覗きたかった出光美術館も諦めて有楽町駅方向に歩いていくと、左手に東京国際フォーラムのでっかい建物が見えて来た。
「何か、イベントしてないかな」
と中庭を覗いてみると、ガラスの壁面にパネルがズラーと並べられ、なにやら人だかりがしていた。
「なんだなんだ」
と近づいて見てみると、なんと国際建築会議が開かれていて、その作品の写真パネルが展示されていたのだ。
見入っていた人たちは会議に訪れていた世界中からの建築家や学生たちなのであった。
こういうイベント。大阪ではなかなか遭遇することができない。
これが東京と大阪の違いも知れないな、と思うとちょっと悔しい感じがした。
でも、そんな感情も吹き飛ぶほどイベントの展示パネルは興味溢れる建築作品で一杯だった。
気がつくと、私も建築家やその卵たちと一緒になって作品見学に夢中になっていた。
招待券も無いし、建築家協会員でもないので入り難かったが、会場のエントランス迄来ると、宮城大学の学生さんたちがオープンイベントを実施していて、これもまた楽しそうでユニークだった。
そのエントランスホールからガラス越しにエコ関係の建築展示会の様子が伺え、なかなかいい雰囲気。
ひと通り、見て回れる所をさっと歩いて帰ろうと出口にくると、何やらダンボールでできたオブジェがドンと置かれていた。
「これも建築からみかな」
と見てみると、英語の解説と一緒にタイ語が記されていた。
「なんじゃい。タイからの展示かいな」
タイへの旅行の好きな私は違った視点で展示会に興味が湧いて、再度国際フォーラムの中へ歩いって行った。
建築会議のイベントの一つとして相田みつお美術館を借りてタイ王国大使館が「足るを知る哲学」という展示を行っていたのであった。
「足るを知る」
なかなか意味深な言葉なのであった。
説明文を読んでみると、これはプミポン国王の哲学ということで、その趣旨に私はいたく感動し、かつ国王が今日もなお国民から絶大なる信頼を寄せられている理由がはっきりと手に取るようにわかったのであった。
もともとタイはあくせく働かなくとも生活だけはしていける自然の富が備わっていた。
これはベトナムのケースになるけれども「サイゴンから来た妻と娘」の著者近藤紘一はそのエッセイの中で、「東南アジアは自然が豊かで、メコンデルタの中では一日中椅子に座って果物が樹から落ちてくるのを待っているだけで生活することができる。戦争中でも日本と違い市場に食物が溢れている」という意味あいのことを記していた。
タイもこれと同じ。
米なら三毛作、バナナやパパイヤ、椰子の実などは何をしなくてもニョキニョキと育つ。
川には鯰や鰻、その他食べられる魚がうようよいる、
つまり、自然の恵みに溢れている。
しかし、国王はこうもおっしゃる。
利益追求で明け暮れて国土がもつ本来の豊かさを忘れ、権力や欲望に身を任せる風潮が強くなってしまった。
仏教ではひとつのものを持つと、またそのものを持ってしまったという悩みが発生し、それが永遠に続くと説く。
そのために世界中で争いごとが起きてなにも解決しない。
タイはそのような精神的に乏しい国ではない。
というのだ。
ある意味、タクシン一族のような華僑中心の拝金主義へのお叱りの言葉とも見受けられるのが。これまた興味溢れる。
ここで、出てくるのが「足るを知る」という言葉。
なるほど、何でもかんでも欲しい欲しい。
誰にも負けたくないし、権力や金が欲しい、と思い続け欲に任せて走り続けるのは人間として決して美しい姿ではない。
展示会場ではバンコクの中央を貫いて流れているチャオプラヤー川のほとりに建設中の新しい国会議事堂の模型が展示されていた。
説明によると国王の説かれる「足るを知る」の思想を反映した美しい建築になるのだという。
東京国際フォーラムに立ち寄って、建築会議が開催中で、しかもタイ王様の豊かな思想の一端を知ることになった、大変ラッキーな一瞬なのであった。
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