<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





米国TVシリーズ「スター・トレック」にはレプリケータというハイテク機器が登場する。
形はいたってシンプルで、電子レンジのようなものだと思えばいい。
で、電子レンジと何が違うかというと、電子レンジは食べ物を温めるだけだが、レプリケータは、
「ホットコーヒー、ブラックで」
と言葉でオーダーすると、物質を合成してカップに入ったコーヒーを作り上げてしまうのだ。
24世紀の宇宙旅行は食べ物はレストランの厨房で作れるのだが、レプリケーターでお手軽に、ということも可能になるようなのだが、私はそんなコーヒー飲みたくないのは言うまでもない。

このレプリケーターほどではないけれども、パソコンでちゃかちゃかでデザインした立体の造形物を自動的に生成できる時代に入っていることを皆さんはご存知だろうか?
世に言う「3Dプリンタ」というハイテクマシンだ。

3Dプリンタはパソコンの3D-CADで設計したデータを受け取り、樹脂や木を自動的に硬化させたり削ったりすることで、そのモデルを作成してしまう卓上立体プリンタで、安いものならUSドルで1000ドル程度、高いものは上限はなかかなか無いが、数百万円とインクジェットプリンタとゼロックスの上位機種のようなラインナップが揃っている。
CADソフトも昔のように何十万円も何百万円もすることはなく、安いものならAutodesk社の123Dのように無料のものまで存在する。
つまり自宅で年賀状を作成するように、これまでは工場でなければ作れなかった例えば飛行機の模型だとか、レゴの部品なんてものが自宅の卓上で作れてしまう時代に突入しているということなのだ。

この、21世紀における新・産業革命を衝撃的にレポートしているのが、あの「ロングテール」の著者クリス・アンダーソンの最新刊「メーカーズ」(NHK出版)なのだ。

この「メーカーズ」。
書店で初めて見つけた時は、あまり読んでみたいな、という気がしなかった。
「今更モノづくり本なんて、ありふれ過ぎているよな」
と思ったのだ。
ところが手にとってパラパラとめくってみたら、買わずにはいてもたってもいられなくなってしまったのだ。
なぜなら、この書籍にはモノづくり最前線だけではなく、それを販売し、ブラッシュアップさせ、しかもそれを始めるための全く新しい資金作りの仕組みまで紹介されていたのだ。

読み終わった今となっては、なぜ日本のモノづくりは危機に陥っているのかが新・産業革命という分野から、よく見えてきてもどかしくなっている。
巨大なプラントで同じ製品を大量に作る時代が19世紀から20世紀のモノづくりの理想形なら、デスクトップで様々な製品を1個から作るのが21世紀のモノづくりだと本書は語りかけている。
このような少量多品種の時代は、産業革命が訪れる前は当たり前の時代だった。
一人ひとりの職工が手作りでモノづくりをしていた頃は1つを作るのも1000個を作るのも手間は変わらなかった。
しかし、一度大量生産の時代が訪れると、コスト重視で安く、規格化された製品が全地球上を席巻し、今の世界が存在している。

ところが、この大量生産の時代はパソコンの登場で、まず印刷業界から大きな変革を迫られた。
いわゆるMacとXeroxの組み合わせによるデスクトップパブリッシングの世界だ。
最初、デスクトップパブリッシングは大きな印刷会社でしかできなかった。
理由は簡単で、設備が極めて高かったからだ。
Mac1台が100万円以上もし、Xeroxはその何倍もした。
ところが今ではMacは10万円以下だし、インクジェットプリンタは1万円以下から販売されている。
個人でも十分利用可能で、このため市場では単純な技術しか持たない小さな印刷会社はその使命を終了してしまった。

その波が、製造業でも押し寄せているというのが本書の本題だ。
しかもモノを作ることだけではなく、発達したインターネットを利用して全く新しい資金集めの仕組みや、製品の販売、発展の構造まで存在するというのだ。

いずれにせよ本書に取り上げられているサービスには日本発信のものは全くなく、日本のモノづくりを根底から考え直す必要が有ることを、危機意識と共に痛感させられる。

本書はシャープやパナソニックの社員さんはもちろん、すべての日本人の必読書といえるかもしれない。

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