平ねぎ数理工学研究所ブログ

意志は固く頭は柔らかく

富士山遭難事故について思うこと

2009-12-21 19:19:40 | 自然科学全般

冬型の気圧配置が発達しているときの富士山の東側には近づいてはならない。
これは、風工学を少しでもかじったことのある者にとっては常識である。
遭難した3人は、御殿場口登山道から富士山に入っていったが、このコースは、風工学的には最悪のコースである。
リーダーの片山右京氏は、冬季の富士山でどのような風が吹いているか、知らなかったのではないか。
知っていたら、西風が卓越している富士山に東側から接近するような無謀なことはしなかったはずだ。
富士山の周りではどのような風が吹いているのか。
これを風洞試験で確かめた研究者がいる。
乱流研究で世界的に知られている佐藤浩氏である。
彼は富士山に見立てた頂角90度の円錐模型を風洞の中に入れ(添付画像:図1)、模型の周囲の風の分布を詳しく測定した。
その結果が、添付画像:図5、添付画像:図6である。
図5は、西風が吹くときの山の表面の流れを、真上から見おろした形で表している。
南半分が省略されているが、西風なので北半分と同じである。
この図をみると、東西軸に対して30度傾いた中腹辺りに渦が認められる。
佐藤氏は風速分布を丁寧に計測し、富士山の周りの流れ場の三次元構造(アーチ状の渦:図6)をつきとめた。
このアーチ状の渦の軸は、図5の渦の中心で山腹に接している。
竜巻が地表に接しているようなものであり、この付近にテントを張るのはたいへん危険である。
図7の×印は、過去に風による遭難があった位置を示しており、図5の渦中心と概ね一致している。
なお、斜線の部分は、強い西風が吹いているときにはこの中に入ってはならないという警告を示す危険ゾーンである。
このように、西風が吹く冬季には、東西軸から30度南北に振れた中腹辺りに強い渦が発生するため、この領域には絶対に近づいてはならないのだ。
彼らはそれを知らずに危険地帯に入って行った。
片山右京氏は、来年1月、南極の最高峰に登頂する予定を組んでいて、富士登山はそのトレーニングだったらしい。
南極の山に比べたら富士山など大した山ではないという油断があったのではないか。
富士山は日本人にはポピュラーな山で、夏場にはハイキング気分で登ることができる。
しかし、冬場には魔の山に変貌する。
彼らが冬季の富士山の恐ろしさを知っていれば避けることができた事故であり、まったく残念なことである。

引用文献)佐藤浩他:東京大学公開講座28流れ、東京大学出版会、1979


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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2009-12-28 08:05:05
技術の杜ハヤブサネット掲示板でコメントしておられる、「平ねぎさん」と同一人物ですか?
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Unknown (平ねぎ)
2009-12-28 12:30:59
>技術の杜ハヤブサネット掲示板でコメントしておられる、「平ねぎさん」と同一人物ですか?

そうです。
掲示板に何か書き込んでもらえるとうれしいです。
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Unknown (Unknown)
2009-12-28 15:31:10
ときおりハヤブサネットを閲覧しております。
魔法使いさんとのバトル?は興味深いです。
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バトルは卒業です (平ねぎ)
2009-12-28 16:13:44
2年前の今ごろでしたかね。CO2主因説に関する議論がこじれて泥沼バトルにはまってしまいました。それにすっかり懲りて、最近では無益な言い争いは避けるようにしています。「おかしなことを言ってるな」と思ってもスルーしています。
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Unknown (Unknown)
2009-12-29 00:12:03
APECさんのサイトに辛口で登場する魔法使いさんのことをもっと知りたくて、ハヤブサネットを閲覧するようになりました。

あの時は、技術士の口頭試験を終えたばかりで、技術士になるためにはどういうスタンスで日々過ごせばよいのかを自問自答した覚えがあります。

懐かしい話です。。。といっても4年ほど前のことです。。。
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