ひふみんファンの皆様、こんばんは。今回は、ひふみんにとって残念な一局を紹介しましょう。
昨年の達人戦(対森内)で二手指して(△8七歩打、△5七馬)反則負けになってしまいました。
ひふみん有利に展開していたので残念です。
加藤一二三 『羽生善治論―天才とはなにか』 角川書店、より抜粋します。
不思議といえば、二〇一二年七月に行われた達人戦の準決勝で、私は長い棋士人生ではじめてという大失敗をした。
相手は森内さんだったが、なんと私は二手指し、つまり二手連続で指してしまい、反則負けをしたのである。
この将棋は、中盤の段階で私の勝勢になった。
必勝形といってもいい。
森内さんも否定しないと思う。
とはいえ、油断は禁物であるから、森内さんの次の着手に対して、腰を落ち着けてから考えようと思い、私は手洗いに立った。
それで帰ってきて、まだ森内さんが指していないのにもかかわらず、自分が指してしまったのだ。
プロとしては笑止千万である。
でも、森内さんだって、私が駒を持った瞬間、「あっ、加藤先生、私の手番です」というような一言があってもよかったと思う。
それなのに、森内さんは、私が着手するのを認めてから、記録係に「私の手番だけど」と伝えたのだ。
まあ、相手に教えられて勝ったとしても「加藤は卑怯だ」という評判が立つのがオチで、
かりに対局が続いていたとしても、私にもプライドがあるからわざと負けていたと思う。
そう考えると、もしかしたら何も言わなかったのは森内さんなりの気遣いだったのかもしれないが、
じつはあのとき、私にはどういうわけか現実感がなかったのも事実だった。
どうも森内さんが着ていたモスグリーンの背広がその原因だった気がする。
モスグリーンの背広を着た森内さんと対峙していると、なぜか現実感がなくなってしまったのだ。
モスグリーンの背広で現実感が無くなるのは、いかにもひふみんらしくていいな。
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