「草原にはあちこちに穴が開いているので、わだちを走りましょう」
モンゴル人のガイドを先頭に、一列になって軽速歩だ。
草原のあちこちに、ネズミに似たラバガンの巣穴があり、馬が足を突っ込んで骨折しかねない。骨折したらエサを採ることができず馬は死ぬしかない。なので巣穴のない硬くしまったわだちを走る。
「ファルコン、よろしくな」
ファルコンの首をゴシゴシ擦ると、気持ちよさそうに頭を振る。
そしてファルコンの加速。さらに途中でグンと一伸び。上々だ。どうやらうまくやってのけそうだった。
鞍上から眺める草原はまるで海のようだ。さあ、いよいよ我、草原の風とならん。
とかいってる間に、ファルコンは左に寄れて草原へ。右の鐙に体重を乗せて修正しようにも踏ん張りがきかない。数年前、右足の踵を粉砕骨折した後遺症だろうか。無意識に右の足をかばってしまうのかもしれない。
「右の手綱を引いて」
のガイドの声もよそに、ファルコンはわだちの横の草地を走り続ける。ぼくの右足はとうとう鐙から外れそうになり、もし外れたら落馬必至だ。なので手綱をひいてブレーキ。
・・・考えてみたら、ファルコンが草地を走ったのは、ぼくが落っこちても怪我が無いように気を使ってくれたのかもしれない。
そうとわかったら、ファルコンがめちゃくちゃ愛おしくなって首筋をポンポン。
「へたくそでごめんよ」とつぶやいたら、なんだかファルコンが笑った。ような気がした。
右の鐙はもっと体重がかかるように短く修正。それで体重の偏りはなくなり、気持ちよく軽速歩できるようになった。落馬しそうになったことは、ファルコンと2人だけの秘密。
次の朝、少しでも長くファルコンと一緒にと馬たちが繋がれている所へ行こうとしたら、後ろから牧羊犬がぼくの足にじゃれついてきた。前に進もうにも出す足にじゃれついてくるので進めず、犬と一緒に戯れてたら、それを見ていたファルコンが笑った。ような気がした。