馬乳を欲しかる子馬を近くの柵に入れておけば、朝、母乳を飲ませるため母馬たちが柵のそばにやってくる。だから母馬たちの管理は簡単だ。
問題は種馬(リーダー)に引き連れられた若い牡馬たち。
朝、近くの丘に登っても、見渡す範囲に馬の群れはない。どっかに行っちまってる。最近、たむろしていることが多い草地を探しに行けども、見つからないこともある。だから日によっては数時間も探し回ることも。
乗馬に使う馬を捕えるため、馬の集団を追い回して柵に連れてくるのは、そんなに大変なことじゃない。先頭馬を誘導しつつ、オートバイで追い立てれば、柵の近くまで連れてくることはできる。問題はそれからだ。
馬も、柵に入れられれば、乗馬のためにハミを咥えさせられ、鞍を背負わされるのがわかっているから、なかなか柵には入ろうとしない。ふざけて人間と追いかけっこしているのではなく、草食動物ゆえんの命をかけた逃亡を図る。
という大騒ぎを毎朝繰り返しつつ、馬は柵に入れられ、手綱と鞍を着けられて観念する。・・・今日もへたくそな騎手の相手かと。
選にもれた馬たちは、悠々とどこかに遊びに出かける。
選ばれた馬の中には、地面に寝転んで人を乗せるのを拒否する馬もいる。遊牧民たちは、こうして駄々をこねる馬や抵抗して人を蹴飛ばす馬を容赦なくひっぱたく。この調教ゆえ、人に噛みつく行儀の悪い馬も矯正されていく。
夏の草原は、ハエやアブの天国でもある。乗馬中もそうだが、昼の休憩時に、ポールに渡された綱にくくられた(綱が体よりも上にあるので吊られている)馬たちは、盛んにヘッドバンギング。そんに頭振ってたら、首が疲れちゃうだろう・・・
とか心配するが、実際に首の筋肉が疲れちゃうようだ。ときどき、隣にいる馬のお尻に頭を乗せて休んでいる。馬たちは乗馬に使われている間は、水を飲めるのは一回だけ。あとは強い日差しの中、ひたすら、人を乗せて歩かされる。
やぱ、嫌なんだろうな。